一匹狼の決断
「……ごめん、ココ」
「大丈夫です。こんなことであれば、いくらでもしてあげますよ」
いまだに瞳を潤ませながら私に抱き着いているラズさんの頭を優しくなで続ける。
「でも、いきなりどうしたんですか?」
「アリア姉さんの、手紙と、プレゼントを、見つけた」
ラズさんの視線の先を見ると、小さな箱の中に、二つの髪飾りが入っていた。目立つような装飾のない、シンプルな黄色い髪飾り。
「アリア姉さんが、わたしとロズ……ロザリアのために、用意してくれた」
ラズさんはそう言いながら、髪飾りの一つを手に取り、身に着ける。
「ココ、どうかな? 似合ってる?」
「はい、とてもきれいですよ!」
えへへ、と少し照れくさそうに頭をかくラズさんの姿は、先ほどまでとは異なり、明るい雰囲気を感じられた。
「……あー、貴様ら、そろそろいいか?」
声の方向を見ると、どことなく気まずそうな顔をしながら、カティさんが立っていた。
「あ、すみません」
「ごめん、忘れてた」
とりあえず謝罪の一言を入れると、カティさんは、
「あっはっは! なに、狼が気を取り直したのであれば、問題ない!」
と、豪快に笑って見せた。それにつられて、私もラズさんも自然と笑みがこぼれる。
「ふう、さて、本題に入ろう」
ひとしきり笑い終えると、カティさんは話題を変える。
「貴様らがひとしきりいちゃいちゃしていた間に、我が部屋の中のものをまとめておいた」
「!? いちゃいちゃなんてしてないです!」
カティさんの発言を否定しながらも周囲を見ると、部屋の中にあった様々な道具はすでに整理され、床に並べられていた。
「……ありがとう、カティ」
「なに、貴様に同行を拒否された我がしてやれることなんてこれくらいだ」
ははは、と、先ほどとは全く異なる、力ない笑いをこぼす。これからラズさんは妹さんを助けるために実験区画へ向かう。私もカティさんも同行を申し出たが、拒否されていた。
「さて、ココよ。これからどうするか話し合おう」
「は、はい……」
カティさんに呼ばれ、そちらの方へと向かう。ちらっとラズさんの方を見ると、何かをずっと考え込んでいるようだった。
………………
…………
……
不思議と胸が苦しかった。二人と離れるのがいやだ。一人になるのが怖い。
(二人と、一緒にいたいけど、もし、何かあったら……)
ロズとアリア姉さんが脳裏をよぎる。このまま二人と一緒にいれば、きっと二人とも危険な目に合う。
(わたしは、どうすれば……)
『友達ってのは、大切なもんだ』
アリア姉さんからの手紙を再び読む。
『本当に信頼できるやつがいたら、そいつを信じて、ともに進め』
(友達、信頼……)
『私も手伝います!』
『我も貴様に手を貸そう、狼よ』
ココとカティがわたしにかけてくれた言葉を思い出す。二人とも、危険を承知で私を手伝うって言ってくれた。
……わたしは、二人を信じていいのかな……
………………
…………
……
「それでだな、おそらくここからなら外に……」
「……ねえ、二人とも」
カティさんとこれからどうするかを話し合っていると、ラズさんが声をかけてきた。
「二人はどうして、ここまでわたしを、助けてくれたの?」
ラズさんからそう問いかけられる。
「どうしてって言われても……何個か理由はありますけど、最初に会ったとき、私を助けてくれたから、ですかね。それと、ラズさんは良い人ですから、仲良くなりたいって思ったからです」
「我もそんな感じだな。二人には命を救われた。それに、貴様らは他の奴らとは違う、見ていて飽きん奴らだからな」
自分の気持ちを率直に伝えると、さらにラズさんからの問いかけが来た。
「二人は、わたしのこと、どう思ってる?」
「そうですね……命の恩人で、優しい人で……仲間、友達、ですかね」
「ふむ、貴様は優しく、どこか抜けている、我の友人、だな」
それを聞くと、ラズさんはうつむいてしまう。
「ラズさん、どうしました?」
「今の質問には何の意味があるんだ?」
と、うつむいていたラズさんが勢いよく顔を上げ、覚悟を決めた顔で私たちの方を見る。
「ココ、カティ」
「はい」
「なんだ? 狼よ」
そのまま深く深呼吸をして、続きを口にする。
「さっきは、ごめん。二人とも、わたしのことを、手伝うって言ってくれたのに、冷たく接して、断っちゃって……さっきのは、撤回する。今更言っても、もう遅いかもしれないけど、私は二人のことを、今まで以上に、信じることにした……二人とも、ロズとアリア姉さんを助けるのに、協力してくださいっ!」
そう述べて、私たちに向かって頭を下げるラズさん。カティさんの方を見ると、どうやらラズさんの発言に驚いているようだ。その後、カティさんと目がある。ちらっとラズさんの方を見てから、二人で頷き合う。
「ラズさん、顔を上げてください」
私がそう言うと、ラズさんは恐る恐る顔を上げる。その表情からは、緊張が見て取れる。そんなラズさんを安心させるように、
「もちろんです! いくらでも私を頼ってください!」
優しく微笑みながら、言葉を口にする。私に続いて、カティさんも口を開いた。
「ようやく素直になったな。あい分かった。この我、カティも貴様に手を貸してやろう」
「! ありがとう、二人とも……!」
感極まった様子のラズさん。それをみて、笑みがこぼれる。
「改めて、わたしの名前は、ラザリア・ウィルタ。今まで通り、ラズって呼んで、いいよ。二人とも、よろしく!」




