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狐御使いちゃんの獣神さま育成ものがたり  作者: 黒狼クロ
災いの森と狩人と
22/33

実験体と日常の終わり

「ぅ、くぁぁぁ……ふぅ」


 寝ぼけまなこをこすり、ぐっと思いっきり背を伸ばして、目を覚ます。いつも通りの一日の始まり。でも、一つだけ、いつもと違うところがあった。


「……あれ、ロズ?」


 いつもなら妹がいる、自分の隣を見るが、そこに妹の姿はなかった。部屋の中を見回しても、どこにもその姿は見当たらなかった。


「ロズ、どこ? 隠れてるなら、出てきて……」


 じっと耳をすましてみても、部屋のどこからも、返事は聞こえない。この部屋にはロズはいない、それが分かった瞬間、わたしは部屋を飛び出していた。




「ロズ! どこにっ、いるのっ、出てきて! おねがいっ!」


 居住区域を走り回りながら、必死に呼びかけるが、その姿も、声も、そこにはなかった。


「職員の人も、アリア姉さんも、だれも、いない……」


 それどころか、この場所には、人の姿が全くなかった。いままでここで暮らしてきた中で、こんなことは一度もなかった。走り回ったせいか、それとも異常事態への恐怖か、自分の心臓の鼓動がいやにうるさく聞こえてくる。


(落ち着け……落ち着け……)


 自分にそう言い聞かせて、息を整える。ロズは、アリア姉さんは、みんなはどこに言ったんだろうか? 思考をめぐらせながら、歩き回っていると、


 ピッ


 どこからか、機械的な音が聞こえた。音の方向へと走っていくと、いつもは閉じている扉が開いていた。


「こっちは、検診の人が、気にするなって、言ってた……」


 扉の先には、真っ白な廊下が続いている。その壁には、『この先 管制区画』と書かれていた。


「……行ってみよう」


 この場所にはロズはいない。それに、なぜだかわからないけれど、この先にロズがいる気がする。その直感を頼りに、真っ白な廊下を進むことにした。




 廊下を進むごとに、だんだんいやな予感が強くなっていく。一歩進むたびに、落ち着いていた心臓の鼓動が再び加速していく。それでも、わたしは足を止めることはなかった。


(ロズは、わたしが、守る……)


 その一心で、自分の体を無理やり前へと進める。


………………

…………

……


 廊下の終わりが見えてくるとともに、何やら大勢の人の話し声が聞こえてくる。息をひそめて、ゆっくりと廊下の終わりへと進んでいく。壁の後ろから頭だけを出して、先の部屋の様子を見ると、そこは大きい円形の部屋だった。壁には大きなモニターが張り巡らされ、大量に設置されているよくわからない機械は、さまざまな色にランプを点滅させていた。そこには、大勢の職員がいた。居住区画で見知った顔も多く見かける。そして、


「……ッ!?」


 部屋の壁際に、アリア姉さんの姿もあった。しかし、手足をロープで縛られ、身動きが取れないようにされていた。周囲の人の様子を見ると、おそらくアリア姉さんを縛ったのは、この部屋にいる職員たちだろう。


(状況は、よくわからないけど、助けなきゃ……)


 しかし、部屋には大勢の職員がいる。あいつらに見つかったら、わたしもつかまって縛られる可能性がある。どうやって助けようか……


「全員、静かに!」


 部屋の中に大きな声が響き、先ほどまでの喧騒が嘘のように静まり返る。声の方向を見ると、わたしのよく知っている人が立っていた。


「検診の人……!」


 一体なにがどうなっているんだろう? 彼はあそこで何をしているのか? どうして多くの職員がここに集まっているんだろうか? アリア姉さんはどうして縛られているんだろうか? そこで、ふと気づく。


(全員、アリア姉さんから、目を離してる……)


 職員たちは全員検診の人のほうを向いている。アリア姉さんがいるのは、職員たちの向いているほうとは逆側だ。


(今なら、助けにいけるかも……)


 姿勢を低くしながら息をひそめ、慎重にアリア姉さんのほうへと近づいていく。その間にも、検診の人の話は次へと進んでいく。


「本日は、長年の研究の結果、ついに我々の目的である一体の生物兵器が完成する!」


 職員たちは全員、検診の人の話を聞き、歓声を上げた。この調子なら、きっとばれないはず……


「今回はこのモニターで、その力についての実験の様子を流そうと思う。共にこの研究に携わってきた仲だ。君たちにも彼女の完成の瞬間を見届けようではないか!」


 無事にアリア姉さんのもとへとたどり着く。アリア姉さんはこちらに気付くと、目を見開いて驚いた表情をした。


(すぐ助けるからね……)


 音を出さないように、慎重に縄を解いていく。縄を解き終わった瞬間、アリア姉さんは近くにいた職員にとびかかり叫ぶ。


「今すぐ実験をやめろっ!」


 しかし、その叫びは職員たちの歓声にかき消され、


「実験、開始だ」


 検診の人のその言葉とともに、彼の背後にあったモニターに映像が映し出される。そこに映っていたのは、一人の職員と、一人の少女の姿。


「……ロ、ズ?」


 それは、まごうことなき自分の妹の姿。ロズが無事でいたことへの安堵する。それと同時に、新たな疑問が頭の中を埋め尽くす。実験とは、いったい何をするんだろうか? と、検診の人が再び語りだす。


「我々が研究してきた、莫大なエネルギーを持つ赤黒い結晶。この研究のゴールは、そのエネルギーを扱うことのできる『生物兵器の完成』である。結晶を扱うためには、体内に結晶を埋め込む必要があるが、それの持つ力の膨大さから、多くの実験体は、体が自壊してしまった。しかし、我々の懸命な実験の結果、結晶への適正を得た個体が出た。それが彼女、実験体『2-Ro』である」


 アリア姉さんは次々と職員を吹き飛ばし、検診の人の場所へと進んでいく。それに気付いた周囲の職員たちが彼女を止めにかかる。


「長年の研究の結果、そのエネルギーは、実験体の『憎悪』『悲愴』といった、マイナスの感情によって引き出されるものであることが判明した。今回の実験は、エネルギーを活性化させることにより、どの程度の力を出すことができるのか、の実験である。この実験が成功した暁には、晴れて我々の研究は完成を迎えることになる」


 アリア姉さんが職員たちに拘束される。体を必死に動かし、職員たちの拘束を外そうともがきながら、叫んだ。


「っ、やめろぉぉぉぉーーーーーっ!」


「実験区画の諸君、始めてくれたまえ」


 検診の人の声とともに、モニターの中から声が聞こえてきた。




「ねぇ、ラズ姉ぇはどこ?」


「ここにはいないよ」


「なんで?」


「君のお姉さんは、君を置いてここから出て行ってしまったからね」



 あの職員、何を言って?



「……嘘だ。私たち、病気だから、ここから出られないし、そもそもラズ姉ぇがそんなことするはずないもん」


「……実はね、君たちの病気を治す薬が、偶然にも昨日できたんだよ。でも、薬は一人分しか作れなかった」


「……」


「昨日の夜、廊下で君のお姉さんに会ってね、そのことを話したんだ。そしたらあの子、『わたしに、ください』って、」



 昨日の夜は、ぐっすり寝てたし、そんなこと、言ってない。



「外に出て、アリアさんと一緒に暮らすって言ってたよ」


「……嘘だ! お姉ちゃんがそんなことするはずないもん!」


「悲しいけど、本当のことだよ」


「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!」


「現実を受け入れるんだ」



「君は、お姉さんに、捨てられちゃったんだよ」



 その瞬間、爆発音とともに、モニターが黒く塗り潰された。

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