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狐御使いちゃんの獣神さま育成ものがたり  作者: 黒狼クロ
災いの森と狩人と
21/33

実験体と狩人

 先週はなぜか投稿していないことになっていたので、今週は2話分投稿します。すみません。

「もしかして、お前らが職員が言ってたラズとロズか?」


 部屋から出てきたのは、狼人族の女の人。ほかの職員の人とは違い、白衣も着ず、半そでのTシャツにズボンといった、とても研究所にいるとは思えない服装である。顔や腕には大小さまざまな傷跡があり、恐ろしさのある見た目をしていた。


「……違ったか?」


 狩人の問に、何とか答えようとしても、口が震えて声が出ない。何とか首を縦に振り、肯定の意をあらわすと、


「そうか。まあ、とりあえず入れ」


 そういって、狩人は再び部屋へと入っていく。


「お、お姉ちゃん……」


「だ、大丈夫、だよ、行こう」


 後ろにロズをかばいながら、部屋の中へ入る。



「ようこそ、あたしの部屋へ。とりあえず、適当なところに座りな」


 ど、どうしよう。とりあえず、どこかに座らないと……


「……あー、そこでいいのか?」


 入口に近い、部屋の隅にロズと二人で座り、コクリと頷く。ここなら何かあってもすぐ逃げ出せる……はず。


「……ああ、そういうことか」


 何かを理解した狩人の人が、そばにあったコートに袖を通し、フードを目深にかぶる。


「怖がらせちまったな、すまない」


 そう言って、彼女はわたしたちに頭を下げた。


(悪い人では、なさそうだけど、やっぱり、怖い……)


 後ろにいるロズも、わたしの服をしっかりとつかみながら、いつもならぴん、と立っている耳やしっぽを縮こまらせて、ぷるぷると震えている。


「とりあえず、自己紹介するか。あたしの名前は、アリア・ルーヴェルだ。呼び方はお前らに任せるよ。これからよろしく頼む」


………………

…………

……


 最初にアリアさんと出会ったときは、怖そうな人だと見た目だけで判断して、常に警戒ばかりしていた。いつでもその場から逃げ出せるように、常に入口に近い位置に座り、彼女の動きを観察し続ける。でも、彼女はそんな警戒心むき出しのわたしたちに怒ったり、呆れたりすることはなかった。


「さて、今日はどうするか……ロズとラズは、何かしたいことはあるか?」


「「……」」


「……じゃあ、ちょっとした昔話でも聞かせようか」


 一言も発さず、ただうなずいたり、首を横に振ったり。一向に心を開こうとしなかったわたしたちに、アリアさんは諦めずに、何度も話しかけてくれた。


………………

…………

……


 アリアさんの部屋に通うこと数日、アリアさんの素顔にもだいぶ慣れ、今はフードなしのアリアさんと対面している。


 普段なら、部屋に入ってすぐにアリアさんが話し始めるのだが、今日はいつもと様子が違う。真剣な表情で、部屋の隅に座るわたしたちに、まっすぐ視線を向けてきた。


「ロズ、ラズ、今日はお前らに見せたいものがあるんだ」


 そう言ってアリアさんは、部屋のクローゼットの中から大きな箱を取り出し、わたしたちの前にそっと置いた。


「「……」」


「変なものは入ってないから、安心しろ……て言っても難しいだろうがな」


 目の前に置かれた箱をじっくりと観察する。きれいなリボンでラッピングされた箱。怪しい音も聞こえないし、危険そうな匂いもない。


「……ラズ姉ぇ」


「……うん、大丈夫、だと思う」


 目の前の箱に手を伸ばし、まかれているリボンを慎重にほどいていく。さりげなくアリアさんの様子を伺うと、なぜだかは分からないが、彼女も少し緊張しているようだ……と、アリアさんと目が合う。


「……ん? そんなに警戒すんなって。そこまで疑われちゃあ、さすがのあたしも悲しくなってくるな……」


 そう言って、彼女は緊張の面持ちを隠すように、わざとらしく悲しそうな表情をして見せた。そんな彼女から視線を目の前の箱に戻す。リボンはすでにすべて解かれ、あとは蓋を開けるだけだ。


(……大丈夫。何が出てきても、ロズはわたしが守る)


 恐る恐る蓋を外し、ロズと一緒に箱の中をのぞくと……


「ふぁぁぁ! なにこれ!?」


「すごい、可愛い……」


 中に入っていたのは、二匹の赤毛の狼のぬいぐるみだった。小さくデフォルメされたそれは、ふわふわで触り心地がよく、何よりとても可愛かった。


「……よかった」


「「!?」」


 アリアさんがいることを忘れて、ロズと二人で思い切り叫んでしまった。狼のぬいぐるみを抱きながら、慌てて二人で部屋の隅へと逃げる。


「ふふっ、すまなかった。あたしのことを警戒しているお前らに、この渡し方でよかったかな、とは思ったんだが、ただただ手渡しってのも味気ないと思ってな」


「……これは?」


「あたしからお前らへのプレゼントだ」


 プレゼント……?


「この間、狩猟道具の整備に町へ出かけたときに見かけたやつなんだが、お前ら二人を見て、ふと思い出してな。物資の仕入れ担当の研究員に買ってきてもらったんだ」


「これ、私たちにくれるの?」


 わたしの後ろに隠れていたロズが、ゆっくりと顔を出して、アリアさんに尋ねる。


「ああ、お前らに渡すために買ってもらったものだからな」


「ほんと!? やったー!」


 わたしの後ろで、ぬいぐるみを抱きながら、嬉しそうにぴょんぴょん跳ね回るロズ。背後から、すごい勢いでしっぽが振られている気配がする。そんなロズの様子に安堵し、思わず笑みがこぼれた。


「あの……」


「ん? どうした、ラズ」


「……ありがと」


 アリアさんからのプレゼントを抱きしめ、感謝の気持ちを述べると、


「……あははっ、お前らってそんな声だったんだな。出会ってから初めて聞けたぜ」


 アリアさんは、嬉しそうに笑いながら、そう返事をした。




 興奮が収まったところで、ロズと二人でうなずき、アリアさんと向かい合う。


「「……ごめんなさい」」


「? ラズ、ロズ? どうしてあやまるんだ?」


 アリアさんは、意味が分からないといわんばかりに、困惑の表情でこちらを見る。


「アリアさんは、優しい人なのに、わたしたちに、いっぱい話しかけてくれたのに……」


「警戒しちゃって、こっちからは、何も、しゃべれなかった、から……」


 わたしたちは、アリアさんを誤解していた。見た目だけで、どんな人かを勝手に判断して、こっちに歩み寄ってくれていたアリアさんを拒絶して、傷つけてしまっていた。


「「だからーーー」」


「ラズ、ロズ」


 アリアさんが、わたしたちの頭に手を乗せ、わしゃわしゃとなでる。そして、まっすぐわたしたちの目をのぞき込んでくる。


「お前らは何も、悪くないよ」


 ゆっくりと、はっきりと、そう伝えられる。


「あたしだって、自分の見た目ぐらいは理解してるさ。昔、狩りの最中にしくじっちまってな。気づいたら、全身傷だらけだった。治りはしたんだが、傷跡は残っちまってな。この傷跡のせいで、外にいたときも、この研究施設内でも、素顔のまま出歩くと、いろんな人に怖がられる。それも、もう慣れちまった」


 アリアさんは、だが、と続ける。


「今のお前らは、あたしの素顔を見ても、怖がらないでいてくれる。本当のあたしを、見てくれている。だから、あたしもお前らに感謝してるんだ。ラズ、ロズ。あたしを怖がらないでくれて、ありがとう」


 そう、感謝の言葉を伝えられた。目を見て話してくれたからこそ、アリアさんが本心でそれを述べていることが分かる。


「……アリア姉ぇ!」


「……アリア、姉さん」


 この人は、優しい人だ。今まで会った人たちの中で、一番。


「……姉さん、か」


「「ダメ、だった?」」


「いや、すごくうれしいよ。いくらでもそう呼んでくれてかまわない……ふふっ」


 落ち着いたトーンでそう話すアリア姉さんの大きなしっぽは、これでもかと言わんばかりにぶんぶんと振られていた。


………………

…………

……


 それからというものの、ロズとアリア姉さんとの三人で過ごす時間が、一日で一番楽しい時間になった。検診が終わると真っ先にアリア姉さんの部屋に走って行って、ぬいぐるみで遊んだり、本を読んでもらったり、新しい遊びを教えてもらったり。毎日が、本当に楽しかった。



 あの日が、来るまでは。

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