ある狩人の日記
新年、あけましておめでとうございます(遅)。
なんとなく道筋が見えた感じがするので、更新ペースは若干よくなるとは思います。
せめて週1投稿はしたい……
「ここだ」
カティさんが一つの部屋の前で止まる。
「……ここは?」
部屋の中はぬいぐるみや絵本など、ほかのどの部屋にもなかったものが所せましと並んでいる。そして、
「これ、どこかで見たような?」
「……わたしが目覚めた、小屋にあったのと、同じ、狩猟道具」
弓や罠、狩猟に使われるような道具が並んでいた。
「この部屋の中を調べていたらこれを見つけてな」
カティさんはそう言って、ふところから一冊の本を取り出した。
「この部屋の主の日記だ。貴様のことが書いてある」
「わたしの、こと……」
「……ああ、お前が何者なのか、はっきりとな」
そう言うカティさんの表情は暗い。
「狼よ、貴様はこれを読むべきでないと思う。知らないほうが良い過去もある」
「わたしは、読むよ」
「……わかった。せめて心の準備をしてから読め」
「……ありがと、カティ」
そういうとロズさんは、すぅ、はぁ、と一度深呼吸をしてから、ゆっくりと日記をめくっていく。
『日記』
どうやら研究員の間で日記をつけるのが流行っているみたいだ。というわけで、私も今日から日記をつけることにする。私は数日前からこの森の地下にある研究所で暮らしている。なんでも、国の奴らが動物の研究をしているらしく、動物の捕獲のために、狩人を雇っているらしい。数日前に担当の狩人が動物にやられてしまったようで、その後継としてあたしが呼ばれたそうだ。危険な仕事はあまりしたくないが、今のあたしは無職、貯金もあまり残ってはいない。そもそも国からの依頼だ。断ったらどうなることやら……
今日は、仕事場、森の中の小屋で日記を書いている。確かに森の動物たちは異様なまでに狂暴化している。普段は温厚なリスとかウサギまでもだ。それに、初めて狂暴化した彼らを見たとき、背筋が凍るような寒気を感じた。少しずつ慣れてきてはいるが、やはりこの森はどこかおかしい。だが、まだ仕事をやめるわけにはいかない。せっかくの給料の高い仕事だ。もう少し稼いでおきたい。
研究員が、双子の狼人族の女の子を連れてきた。どうやら私の新しい仕事は彼女たちの子守りになったらしい。子供は正直苦手なんだが、ここ最近は研究所からの仕事もなく、毎日起きて、飯を食って、寝ての繰り返しだったから、暇つぶしにはちょうどいい。姉はラズ、妹はロズという名前だった。とりあえず話しかけてみたら、二人そろって部屋の隅に逃げて行った。まずは警戒を解くために、研究員に、子供が好きそうな玩具でも持ってくるように頼んでみることにする。
双子と出会って数日、とりあえず話はできるようになった。研究員に頼んで持ってきてもらった狼のぬいぐるみが効果的だったようだ。今は二人とも部屋のベッドでぬいぐるみを抱きながら眠っている。こいつらは見た目に対して思考が子供じみている気がする。ぬいぐるみをやれば喜び、絵本を渡せば食い入るように読む。常に二人そろってだ。一体こいつらはどんな環境で育ってきたんだろうか?
やっぱりこの研究所はクソだ。ロズとラズも被害者だった。研究者どもがあいつらのことを2-Ra、2-Roと呼んでいたのが偶然聞こえた。Ro2でロズ、Ra2でラズ……生物実験なんてしてるイかれた研究所に普通の子供がいるはずがない。通りで二人とも精神の成長が遅いわけだ。実験体として研究所に閉じ込められてるから、あいつらは外の世界を知らないんだ。子供ですら実験体として扱うとかどうかしてる。……どうにかあいつらを自由にしてやれないだろうか。
アリア・ルーヴェル
「……」
日記を読み切ったロズさんの顔色は悪い。
「ロズさん、大丈夫ですか?」
「……うん、ごめん。少し、休ませて……」
そういうとロズさんは、そばにあったベットに横たわり、目を閉じた。
………………
…………
……
休んでいるロズさんを部屋の中に残し、カティさんと二人で部屋の外へ出る。
「ロズさん、大丈夫でしょうか……」
「大丈夫、とは言い難いだろうな」
自分の正体が研究施設で生み出された実験体、なんて知ったら、ショックも大きいだろう。正直、想像もできない。
「……狐よ、貴様は狼のこと、どう思う?」
カティさんが声を潜めてそう聞いてきた。
「どう、とは?」
「上の森の状況、この研究所の惨状、研究記録から察するに、狼のやつが原因かもしれん」
……確かに、状況的にはその可能性が高い。日記の内容から、ロズさんはこの研究所の実験体だった。そして、研究記録から、おそらくこの研究所に人がいないのは、過去に行われた実験により、ロズさんが何かをした結果だと考えられる。
「あやつが危険人物である、という可能性が出たわけだが、貴様はそれでもあやつとともに行動するのか?」
「もちろんです」
「……随分とはっきり言い切るのだな」
「実をいうと、私はロズさんに会うためにこの場所に来たんですよね」
そもそも、神になれる器を持つ、ロズさんを育てるために私はここに来た。
「あやつにか? 貴様らは知り合いだったのか?」
「そうではないんですが……まぁ、それは置いておいて、それ抜きにして、ロズさんはそんなことする人じゃないと思います……私は、そう信じてるんです」
「まあ、そうだな……我もそうは思うが、狐よ、あやつのことを随分と信用しているんだな」
最初に出会ったとき、身動きが取れなかった私を、ロズさんは助けてくれた。見知らぬ私に、優しく接してくれた。それに……
「なぜか、ロズさんのことが他人のように思えないんですよね……」
なぜだかはわからないが、時間がたつにつれて、ロズさんとはどこかで会ったような、ロズさんのことを知っているような……そんな気がしてくる。
「ふむ……あやつも貴様も記憶喪失なのだろう? どこかシンパシーのようなものを感じているのかもな」
二人でそんなことを話していると、部屋のドアがゆっくりと開き、ロズさんが出てきた。
「ロズさん、もう大丈夫なんですか?」
「いや……じゃなくて、うん、大丈夫……それで、あの、二人とも、少し、話がしたい」
「ふむ、その表情を見る限り……相当大事な話、なんだな」
ロズさんの赤い瞳は、私たちをまっすぐ見つめている。その表情からは、覚悟のようなものが感じ取られた。そのままロズさんは私たちを手招きして、再び部屋の中へと入っていく。
「二人に、言っておかないと、いけないことがある」
ロズさんは、私たちが部屋のテーブルに座ったのを確認してから、すぅ、はぁ、と一つ深呼吸をしてから、ゆっくりと続きを話す。
「わたしは、ロズじゃ、なかった」
「「……?」」
「わたしの名前は、ラズ。ロズは、わたしの、妹だったの」
「……え?」「……は?」