場違いな空間
絶賛スランプ中
書きたいことはあるのに筆が乗らない……
「……このトンネルは、どこに続いておるのだろうな」
「……わからない」
「……歩き続けてればいつかは分かるんじゃないでしょうか」
延々と続くトンネルをひたすら進む。このトンネルに入ってから一体どれくらい経っただろうか。数時間? 半日? それともまだ数分? 今が朝なのか、夜なのかすらわからない。時間感覚をなくしてなおトンネルは途切れる気配を見せなかった。
「……出口って、本当にあるのか?」
「……わからない」
「……歩き続けてればいつかは分かるんじゃないでしょうか」
…………
「……少し休憩したほうがいいんじゃないか?」
「……わからない」
「……歩き続けてればいつかは分かるんじゃないでしょうか」
…………
「……あ゛あ゛っ! おいっ、貴様らっ!」
「……わからない」
「……歩き続けてればいつかは分かるんじゃないでしょうか」
「おいっ、正気に戻れ、一旦止まれ!」
「ヴッ……」
カティさんに肩を思いっきり叩かれる。
「あれ、私はいったい何を……?」
「……? どうしたの?」
「前に向かって足を出す機械になっておったぞ」
話しかけると言葉を発する機能付きのな、とカティさんは疲れの見える顔で笑っていた。
「我も貴様らも、精神的にも肉体的にも限界が近い。いったん休憩すべきではないか?」
「それはそうですけど、いい加減見飽きた光景の中で休憩しても、精神状態の回復は見込めないですし、それだったら早く前に進んだほうがいいと思います」
「ふむ、それもそうだが……」
「あ」
その一音だった。
「どうした、狼よ」
「あれ、ねえ、あれ見て……」
ロズさんが、狼と呼ばれたことも気にせず、真剣な表情でトンネルの先を指さしている。目を凝らして見ると、天井から何かがぶら下がっている。
「何か、書いてあるようだな?」
「ええっと……」
『この先 研究所 中央管制室』
それを見た瞬間の私たちの行動は早かった。疲労によって力なく垂れていたしっぽと耳をぴんとたて、今出せる限界の速度で先へと向かって走っていく。静寂が包んでいたトンネルの中は、風を切る音とカティさんの笑い声が響いていた。
ーーー数分後ーーー
「ようやく、トンネル、終わった……」
「やった、やったよぉぉ……」
「我、これまでの人生の中でこんなにも感動したのは今日が初めてだ」
トンネルの突き当り、まるで長く苦しい戦いが終わったかのように、感涙にむせび泣く私たちの前にたたずむのは、機械仕掛けの大きな扉だった。トンネルの壁や床とは見るからに異なる、汚れや傷などが全く存在しない、清潔感を保った真っ白な扉がそこにはあった。
『研究所 中央管制室』
「ここが……見た感じ、入れそうですね……」
近寄ってみても扉が動く気配はなかったが、半開きになっており、ちょうど人1人が通れるだけの隙間が空いていた。
「うん、入って、みよう」
「あれだけ苦しい思いをしてようやくたどり着いたんだ。当然、入らずに帰るという選択肢はないな」
帰りは別の手段があるといいなぁ、と思いながら、体を細めて扉の間を抜けていく。
「し、しっぽが挟まって抜けない……」
「わたしも、挟まった。たすけて」
「なにしとるんだ、貴様らは……」
中に入ると、大きい円形の空間が広がっていた。天井には光を放つパネル、壁には大きなモニターが張り巡らされ、大量に設置されているよくわからない機械は、さまざまな色にランプを点滅させていた。
「研究所……なんだかすごくメカメカしい場所ですね」
「上の森とは似つかわしくないな」
入口にある案内板を見てみると、どうやらこの研究所は大きく分けて、『居住区画』、『管制区画』、『研究区画』、『実験区画』の4つに分かれており、管制区画を中央として、それから居住区画、研究区画に通路が伸びており、研究区画を抜けると実験区画につながっているらしい。現在地は管制区画の中央管制室のようだ。
「とりあえず、いろいろ、しらべてみよう」
三人で、部屋の中を見て回る。
………………
…………
……
「何もわからないですね……」
壁のモニターはすべて黒い画面に『No Signal』とだけ表示されており、操作しようにも、部屋の中は機械だらけであり、だれも機械に詳しくないがために、どれを操作すればモニターが動くのか全く分からない。ロズさんが適当に操作しようとしていたけど、カティさんに、
『やめておけ。むやみに触ると何が起こるかわからん。突然毒ガスが出てくるかもしれんぞ』
と、腕をつかまれて止められていた。毒ガスって……まあ、こんなよくわからない研究所ならあり得るか……
「で、制御室は一通り回ったわけだが、結局何も見つからなかったな」
「となると他の区画を調べに行くしかないですけど、どこから調べてみます?」
「うーん、どうしよう?」
近くにあった椅子に座り、三人で次にどこへと向かうか話し合う。
「わたしは、考えるの、苦手だから、二人に任せる」
「と言われましても……カティさんはどう思いますか?」
「我の意見としては、居住区画からが良いであろうな。診療所の隠し扉、馬鹿らしく長いトンネル、こんな森の中にある研究所となれば、どうせ研究内容はまっとうなものではない。であれば、研究区画や実験区画は危険な場所であると推測される。それに居住区画であれば、この研究所を使っていた人の日記などの記録があるかもしれんしな。他の区画の探索はもう少し情報を集めてから……と、何を驚いておるのだ? 貴様ら?」
「……ええっと、カティさんって、そこまで考えられる人だったんですね……」
「失礼だな!」
「でも、確かに、そうだね」
この研究所について何も知らない今の状況で、カティさんの判断は間違っていないだろう。
「それじゃあ、居住区画から調べてみましょう」