薄汚れた小屋で
ふたたび投稿間隔が非常に空いてしまい、すみません……
病気って、怖いですね……
「とりあえず、座って。結構、歩いたから、疲れた、でしょ」
「はい……では、お言葉に甘えて」
近くにあった小さな椅子に、軽くホコリを払ってから腰かける。
「森について、話すまえに、さっき言ってた、写真と本、持ってくるから、少し、待ってて」
そう言って、ロズさんは部屋の奥のほうへと向かっていった。
ふぅ、と一息つきながら、周囲を見回してみる。内装は非常にシンプルで、今いる部屋には、食卓と二つの椅子、小さな調理場があるのみ。ロズさんが向かっていった部屋の入口からは、ベッドと姿見、本棚、机が見える。今いる部屋が茶の間、ロズさんの向かった部屋が寝室、っていう感じかな?
と、落ち着いてあたりの観察をしていたところで、
(……! 指輪が、光ってる!? いつの間に……)
おそらく、周囲の警戒に集中しすぎて、指輪の変化に全く気付いていなかったんだろう。
(っていうことは、ロズさんが、神様になれる器の持ち主……)
確かに、あのイノシシの化け物を、たった一度の蹴りで倒してしまうほどの持ち主だ。可能性は十分あるだろう。
(彼女を神様になれるように育てるのが、私の使命……ん? 育てる……)
私が普通に勝てなかったイノシシの化け物を、一撃で仕留めてしまうような人を、育てる? 私が?
「……無理なのでは?」
「何が、無理なの?」
「わぴゃっ!?」
気が付くと、ロズさんが手に写真と本をもって、戻ってきていた。
「すみません、考え事をしていました……」
「そう……何かわたしに、手伝えること、ある?」
「えっと、今は大丈夫です」
今はまだ、私の目的について言うべきじゃない。たしか、ミコト様が言うには……
………………
…………
……
『よいか、ココよ。神になれる器の持ち主を見つけても、すぐに、あなたは神になれる人です、なんて言うんじゃないぞ』
『常識的に考えて、突然見知らぬ人にそんなことを言われれば、そやつはおぬしを変人だと思うじゃろう』
『まずは、話をして相手からの信頼を得るのが先決じゃ。重要なことじゃから、よく覚えておけ』
………………
…………
……
確かに、突然そんなことを言われたら、何言ってるんだろう、この人、って思うだろう。
「それじゃあ、わたしと、この森についての、話を、しよう」
テーブルをはさんで、二人で向かいあって座る。
「まず、わたしについて」
ロズさんがテーブルの上に一枚の小さな写真を置く。そこには、目の前の女性と同じ色合いをした髪の女の子が映っていた。少し鋭い瞳、狼人族のものであるサラサラの大きなしっぽ、ぴんと立った耳。確かに、写真の子とロズさんの特徴は一致している。写真の端には、小さな文字で『ロズ』と書かれていた。
「たぶん、これが、わたし。だから、わたしは、ロズ」
「……? あれ……」
テーブルの上の写真には、違和感があった。はじめは写真機を縦にして撮られた写真だと思ったが、よく見ると、写真の右端が、何かで切り取られたようにほんの少し曲がっていた。おそらくこの写真はもともとの写真の左半分なのだろう。なんで右半分が切り取られているんだろうか?
「この写真、右側が切り取られてるみたいですけど」
「うん、そうなんだよね。小屋の中、探してみたけど、なかった。わからないことを、ずっと考えてても、意味、ないかなって、思って、気にしない、ことにした。で、これが、外の人が、持ってた、本」
次に、テーブルの上に、少し汚れた分厚い本がおかれた。
「読んで、みて」
ロズさんに促されて、本のページをめくっていく。
………………
…………
……
どうやらこの本の著者は、国の命令によって無理やりこの森の調査に向かわされたようだ。本のところどころに、国に対しての不満を小さく書いていた。しかし、仕事はしっかりとこなす人のようで、この森の植生についてくわしく書かれていた。日の光を阻む、森を覆う巨大な木、異常に成長した、人すら食べてしまうような食虫植物。いろいろなものがこの本には記されていた。
「当然、あのイノシシみたいなのについても書いてるよね……」
そして、森に生息する、赤黒い雰囲気をまとう生物……このページにだけ、異様な数の付箋が張られていた。
『危険、近寄ってはならない、今すぐ調査を中断すべきか。』
結局、筆者は調査を中断して帰還しようとしたみたいだ。そして、まともに読める最後のページ。森を覆う壁について。内側からは決して出られない、巨大な森を覆い包む、絶望の檻。
『夢なら覚めてくれ、夢であってくれ、あいつらに殺される、ふざけるな……』
「……」
よほど恐怖にとらわれていたんだろう。それから先は、自分の国、仕事を持ってきた上司に対する罵詈雑言が、読めないほどにめちゃくちゃに書きなぐられていた。
「そこに書かれてること、全部、本当のこと。実際に、調べてみたけど、植物も、生き物も、全部、正確に、書かれていた。だから、壁についても、本当のこと、の確率が、高い」
「……その言い方だと、壁についてはまだ、調べてないんですよね?」
「まあ、そうだけど……調べに行く、途中で、ココを、見つけた」
「そうだったんですね……」
「ココも、安全な場所に、つれてこられたし、わたしは、壁を、調べに行く」
ロズさんは立ち上がり、玄関のほうへと向かっていく。
「あっ、待ってください!」
「……なにか、まだ、質問、ある?」
「私もついていきます!」
森を覆う壁も、あのイノシシと同じく赤黒いものらしい。であれば、その壁を調べれば、あの赤黒いものが何だったのか、なぜイノシシが私の妖術を吸収したのかがわかるかもしれない。
「……この小屋から、出たら、危ない。身に染みて、わかってるよね」
「それは、そうですが……」
数時間前のこと、思い出すだけでも恐怖で身震いする、死を覚悟した瞬間。この森の危険さは、その身をもって理解している。でも、ここで立ち止まっていては、何も始まらない。自分にできることを理解しなければならない。ここにいるだけでは自分の使命を果たせない。なぜだか、そんな気がした。
「でも、さっきは突然のことで動揺してしまっただけです! 私だって、やればできます!」
そうだ。初めて……ではないかもしれないが、降り立った地上に、少し浮かれていたのかもしれない。それに、イレギュラーの連続で、激しく動揺していた。私の実力はあんなものじゃない。何と言ったって、ミコト様に訓練してもらったんだ。次は油断しない。あきらめたりしない。絶対に、使命を果たして見せる!
「ココ……」
私はロズさんをまっすぐ見つめる。ロズさんも鋭い目で私を見つめ返す。
「……わかった、ついてきて、いいよ」
「! ありがとうございます!」
「……でも、無茶は、しないこと。そして、わたしから、離れないで」
「はい、わかりました!」
そうして、私たちは小屋を後にした。
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