落ちてきた狐
延々と広がる青い空、真っ白な大地。しん、と静まり返り、何者の気配も感じさせないその空間は、どこか神秘的な雰囲気が漂う。
そんな世界の遥か上空、突如、空中に黒い穴が開き、そこから何かが吐き出された。狐の耳としっぽをもったそれは金色の線を描き、地上へと落下していく……
ああ、ここはどこだろう。視界に広がるのは延々と広がる闇。視界に映るものは何もなく、自分がどこにいるのか、どこへ向かっているのか、わからない。もはや自分が誰かもわからなくなりつつある。
「これは……どうにも、ならないかな……せめてもう一度、外に出られたらな……」
そうつぶやいた途端、視界が急激に明るくなり目を閉じる。すると突然、落下の感覚に襲われた。
「ッ!? 一体なにがーーー」
まぶしくて目を開けられない中、慌てて何かにつかまろうと手をばたつかせるが、あたりには何もない。そうしているうちにも無慈悲に時間は進み、
ドガッ!
「ーーーーーーーッ!」
体が地面に打ち付けられた。全身がばらばらになるような猛烈な痛みに叫び声を上げようとするが、まったく声が出ない。突如、激しい寒さを感じ、体が震える。一体何が起こった? 現状を把握しようと試みるも、痛みと寒さに考えがまとまらない。体にまったく力が入らず、あたりを見回すこともできない。今の自分に理解できるのは、体から熱い液体が命とともに零れ落ちていっていることだけだ。
「がッ……あ……」
息も満足に吸うことができず、意識が朦朧としてくる。すると、赤く染まりぼやけた視界に何かが映りこんできた。
(だれか……いる?)
かすかに何者かの声が聞こえる。どうやら人らしい。
「……た、たす、けッ、ゴホッ!」
助けを求めて何とか声を出そうとするが、喉の奥から何かがこみあげてきてむせてしまう。
激しい痛みに耐え、助けを求めるために残り少ない命を振り絞ろうとすると、ふと、視界に移っていた何者かが覆いかぶさってきた。すると、体にまとわりついていた寒気が抜けていき、かわりに柔らかなぬくもりが体を覆っていく。
(……あったかい……)
優しいぬくもりに抱かれ、安心感を感じるとともに、私は意識を落とした。
……………………
………………
…………
「……うぅ……」
あたたかな日差しに照らされ、目を開ける。視界に映るのは見覚えのない天井。仰向けに寝ていた体を起こし、周りを見回してみる。視界に映るのはどこか古めかしいつくりをした、不思議となつかしさを覚える木造の部屋。
「ここ、どこ?」
独り言をつぶやきながらぼんやりと周囲を見回していると、
「入るぞー」
と、声がして、部屋のふすまがスーッと開かれる。びくっと震え、かけられていた布団をかぶりながらも、開かれたふすまのほうを凝視していると、小さい女の子が入ってきた。
頭にぴくぴく揺れるキツネの耳、背後にはふさふさのしっぽをたくさん生やしている。
ぼーっと見ていると、ふと、彼女と目が合った……と、
「! おぬしっ目が覚めたのじゃな! 体調はどうじゃ、どこか体におかしなところはないか? 体の感覚はあるか? 気分は?」
寝起きにこの質問量はきつい……と思いながらも、とりあえず体調を確認する。……うん、おかしなところはなさそうだ。
「はい、おそらく大丈夫だと思います」
「そうか……それはよかったのじゃ……」
彼女はそう言って、私にやさしく抱き着いてきた。ふぁぁ、もふもふであったかい……じゃなくて。
「ここは一体? それにあなたは?」
とりあえず周りの状況を確認しないと。ぱっと見た感じこの人が私を看病してくれたみたいだけど……
「おお、紹介がまだじゃったな。わしの名前はミコト、とある世界の神をしておる」
……?
「そしてここは神の住まう地、神域じゃ」
……正直まったく理解できない。突然私は神です、なんて自己紹介されても……
「……まったく理解できておらんようじゃの。まあ、これからゆっくりと説明して―――」
ぐぅぅぅ……
「……まあ、飯でも食いながら話すか」
……恥ずかしい。