4話: 「他人が聞いたら誤解するような事を言うのは、まだ元気一杯だと判断していいんだな?」
ポートリシャス大陸連合警備隊冒険者管理局識別遺跡ナンバー「00-991」外部の冒険者管理局出撃基地――――付近には無数の丘や高い山々が見える。
大陸連合警備隊冒険者管理局が主に管理している遺跡や迷宮には、冒険者専用の出入り口と冒険者管理局の警備隊職員出入り口が存在する。冒険者専用の出入り口付近には、付近に迷宮や遺跡に探索へと赴く英雄志願で命知らずの冒険者パーティを秘密裏に監視している。
その意味は二つ。一つは、迷宮や遺跡内で探索に赴いてる冒険者パーティの人数確認などである。
これを確認して置かなくては、遺跡や迷宮内での冒険者認識票や遺品回収に困難をきたすからである。
広く深く危険の多い迷宮や遺跡内を命を落とした冒険者の遺品と認識票回収・・・さらに、迷宮内での冒険者との接触は、「無闇に迷宮内で冒険者パーティーに接触してはいけない」という規律で禁止されている。迷宮や遺跡内で幾らの冒険者パーティが挑んでいるかの人数確認情報収集である。
もう一つは、その冒険者が迷宮や遺跡内で犯罪者集団のギャングに鞍替えする可能性があるかの警戒監視である。冒険者管理局には、主に探索する者達を襲えば、簡単に金儲けできると気づいた凶暴かつ暴力的な冒険者が武装団体になって、組織的な犯罪行為をする者達・・・ギャングの監視や構成員を尾行する行動監視する部署もある。
構成員を饗応して協力者に仕立て上げ、情報を収集することも実行し、情報収集の手法として、監視・尾行のほか、ギャングに潜入職員を送り込み情報を収集する事もある。対象とする犯罪も特殊なだけに、事件発生後に捜査するのではなく、不審な対象を発見した場合は先行して見込み捜査に入る。特に怪しいと目をつけた冒険者パーティなどは、公共秩序を乱す行為を行なっていなくとも監視対象に置く場合がある――――「ポートリシャス大陸連合警備隊冒険者管理局保安部」がそれである。
部員の性質は一般的な職員に比べ、情報機関員に近く、業務の特殊性から顔・体格・素性・素振りなどを部外者(これは一般人のみならず、同じ職員も含む)に覚えられることを好まない。声を覚えられることすら警戒する部員もおり、部外者とは雑談さえも徹底的に控えている者もいる。一般市民が部員と接触する機会はまずない。また、現職の職員であっても、部員と合同で捜査や業務を行うことは非常に少ない。そのため部員については、たとえ同期の職員であっても、詳細な所属先や業務内容が分からない。これは以前に紹介した「ポートリシャス連合警備隊特殊能力者管理保安部」もそうである。
ベルナルド曰く「極度の恥ずかしがり屋で、目立つのが嫌いなだけだ。そっとしておいてあげるのが人情だと言うものだ」らしいが、それでかどうかはわからないが連合警備隊冒険者管理局の職員らは、あまり関わっていない――――逆に、陽気に酒場で友好を広げるために酒を飲んで騒いでいるという事があまり想像できそうにないが・・・。
さて、主な冒険者管理局出撃基地には、簡要の飛龍着陸場と迷宮や遺跡内部で重傷を負い戦闘行動不能になった職員を治療を行う緊急治療室――――野戦病院のようなもの――――と、連合警備隊冒険者管理局サラムコビナ支部へと帰還出来るテレポート・ゲートがある。
出撃基地付近は、他の一般市民や冒険者が接近などをさせないように、「連合警備隊冒険者管理局魔術師課」が施した特殊結界が張られている。そのため、冒険者管理局遺品回収課の職員らは、飛龍に搭乗して現地に到着する。もちろん飛龍を操縦するのは別の部署だ。
テレポート・ゲートは、緊急時以外は使用する事は禁じられている。そのゲートを使えるのは、緊急治療室ではどうにもならないほど重傷を負った職員が搬送されるために使用される。
迷宮や遺跡などの魔物は、何も魔法やブレスだけで攻撃するだけではない。特殊攻撃・・・麻痺、毒、石化、錯乱、氷漬けなどの特殊能力を持つ魔物も存在するのだ。
臨時治療室では手当が不可能なほどの重傷を負った職員は、テレポート・ゲートでサラムコビナ支部の医療局へと搬送される仕組みになっている。
出撃基地内には、約500人ほどの職員が滞在しているが、それらが全てが遺跡や迷宮へと赴いているわけではない。迷宮や遺跡へと赴き、命を落とした冒険者の認識票と遺品を回収しているわけではない。回収に赴くのはコールネーム付きの6ティーム。1ティーム2人編成で回収にあたり、その他の職員は、主に後方支援に当たる。
それと今更だが、なぜ、遺品と冒険者認識票を回収する必要があるのか?
この世界には、「冒険者条約」なるものが決められている。その条約の中の一つ、第1条約 第16条の4:「全大陸冒険者管理局は、冒険者登録者の死亡証明書又は正当に認証された死者名簿を作成しなくてはならない。同様に、死者について迷宮や遺跡で発見された複式の識別票の一片又は、単式の識別票の場合には、識別票、遺書その他近親者にとって重要な書類、金銭及び一般に内在的価値又は感情的価値のあるすべての物品を取り集め、近親者にそれらの物品を送らなければならない。
その物品は、封印して小包で送らなければならない。それらの小包には、死亡した所有者の識別に必要なすべての明細を記載した記述書及び小包の内容を完全に示す表を附さなければならない。」
――――以上のため、連合警備隊冒険者管理局の遺品回収課なるものが存在するのである。
「ラインヴァルトの大好きな、休息・静養の時間だな。歓楽街で腰が抜けるぐらい遊び狂うのも良いが、性病には気を付けろ」
待機所の長椅子に凭れながら座っている白髪で、左の眼を海賊や盗賊が愛用する黒い眼帯で覆った職員――――ベルナルドが掠れた声で言う。表情は何処か疲れている。
「他人が聞いたら誤解するような事を言うのは、まだ元気一杯だと判断していいんだな?」
黒色の頭髪と日焼けをした肌で、騎馬騎士のような貌、右側頬に耳から顎にかけて細長い傷を負っている精悍な風貌の職員――――ラインヴァルトが呆れた声で言う。
「事実じゃないか」
「頼む、俺も疲れているんだ。付き合いきれない」
「それはあれか、本部に帰還したら、さっそく歓楽街で遊んで遊んで遊び狂って、その後に口直しに肉体関係のある女性職員らと一発ヤって、メインデッシュに処女の一般市民の娘さんや教会関係者の美人なシスターを口説き落とすという、常人にはとうてい付いていけない計画を実行するための体力を残したいから、付き合いきれないという事か?」
ベルナルドは、掠れた声で真面目に尋ねてくる。
「――――良くそんなこと真面目に尋ねるな。お前は!。その前にそんなことすれば、俺は間違いなく世界中の野郎を敵に回すわっ!」
ラインヴァルトは、深い溜息を吐く。
彼等2人は、あれから遺跡内部の4階まで遺品と冒険者認識票の回収を行っていた。
この遺跡で全滅した冒険者パーティの4組の遺品と冒険者認識票の回収に成功はしたが、まだ遺跡内部には回収出来ていないものがまだある。
「世界中の男性を敵に回しても、お前なら全て根絶やし出来るぞ」
「出来るかっ!!」
ラインヴァルトがそう言いながら長椅子から立ち上がり、待機所の外へと出る。
外には、飛龍が離着陸出来る場所が6ヶ所ほどある。
その全ての場所では、人間、ドワーフ、エルフ、ホビット、フェアリー、フェルパー、ラウルフ、混血種族の地上誘導員が、合図の旗を使って誘導している。
飛龍には、様子から見てとると物資運搬様の飛龍と職員輸送用の飛龍があるようである。
物資運搬様の飛龍は、荘厳な輝きを放つ銀色の鱗が特徴的な超大型飛龍である。
背中付近に搭載されていた大量の物資が下ろされている。遺跡内の遺品や冒険者認識票の回収に出向くために必要不可欠な武器弾薬の他に、生活必需品、アルコール飲料などが下ろされている。
職員輸送用の飛龍は、全身を蒼い鱗が特徴な、大型飛龍である。飛龍の騎手を人数に入れると、約20人ぐらいは背中に乗っかる事が出来そうだ。現場の遺跡内へと回収作業に向かう6ティームが交代要員としてたった今、到着した。
出撃基地東西南北には、物見櫓が立っている。櫓の高さは9メートルで、最上部の見晴台には、職員が3人から6人程度配置されている。特殊結界が張られて安全なのだが、念のためという事だろう。
職員の1人は、発射後に弾体の特殊固体ロケットに点火して飛翔させる攻撃兵器――――この世界で対飛龍系を対象として、構造単純、取扱簡便、低製造単価、使い捨ての物を除けば対龍系では比較的軽量(それでも発射器と弾頭で10㎏と、やはり重い)、しかもそのわりに高い威力を発揮するために遺跡や迷宮に棲みついている凶暴な龍と交戦する冒険者にとっては、これほど頼もしい武器はないと評判の
「ドラゴン・スレイヤー」だ。矜事詩などで語られる「ドラゴン・スレイヤー」はこの世界では当てはめる事はできない。この世界で刀剣類で「ドラゴン・スレイヤー」は存在する事は存在するが、所持する魔物は生半可な魔物ではなく、手に入れるのも確率的に低い。
この兵器は、冒険者の度重なる要望に応えた武器ギルドが、開発し量産化にも成功して大量に市場に出回っているものである。特殊固体ロケットには魔術師の特殊な魔術もかかっているためか、追尾が可能でもある。
ポートリシャス大陸で、現在改良に改良を重ねて、砲口初速と最高速度の向上及び高度の魔術が図られ、太古の古龍クラスや伝説の中に名前を残す飛龍クラスの鱗を貫通可能にさせた兵器がこの大陸市場に出回っている。
従来では、本来は迷宮や遺跡の外で棲息する超高々度や神速の速さで飛ぶ飛龍を落とす事は難しく、
何らかの原因で、奥深くの遺跡や地下奥深く棲息する飛龍の鱗は非常に堅くて貫く事は出来なかった。
武器ギルド関係者が、「何としてでも、迷宮や遺跡で猛威を振るう凶悪な飛龍に対抗できる武器を創りたいっ!!」と言う熱意と蛇の様な執念で、製造販売まで出来るようになったのが、「 ドラゴン・スレイヤー207型」である。207とは、完成した日付とも言われるし、207とはこの研究で途中で挫折し諦めた研究員の人数とも言われるが・・・判明はしていない。
だが、この大陸外の西のアルフレア大陸、北のヴァリアウィング大陸では、さらに超強力な「ドラゴン・スレイヤー」が研究されている。西のアルフレア大陸の対飛龍兵器の名前は「ファルコン」
、北のヴァリアウィング大陸の対飛龍兵器は「ピースメーカー」という名だ、今は市場に出回ってはいないが、近い将来には市場に出回る事であろう。
見晴台の職員が担いでいるのは、新型の「ドラゴン・スレイヤー207型」である。
可能性はそれほど高くはないが、腹を空かした小龍など襲撃してくる可能性もないためだ。
――――もちろんそんな物騒な兵器をギャングが所持していないわけがない事を言っておこう。
一度ロックオンされれば、文字通り追尾される。特殊な魔術もかかっており、振り切るには不可能ではないが、相当な飛龍操縦の腕が必要である。
「ラインヴァルト、幾ら溜まっているからと言って、交代要員の女性職員と一発ヤるのはどうかと思うぞ?」
ベルナルドが後ろから声をかけてくる。
「頼む、疲れているから馬鹿な事は言わないでくれ・・・」
ラインヴァルトは懇願するような声で告げる。
「今にも女性職員に飛び掛かろうとしている表情で言われてもな――――さて、乗っかって帰還するぞ。
それと移動途中で女性騎手にはぐれぐれも、欲情して襲うな。一発ヤッていて、操縦ミスで墜落して死亡しましたという事になれば、泣くに泣けない」
と真面目に言って、着陸している飛龍へと向かう。
「泣きたいのはこっちだっ!!ベルナルドっ」
ラインヴァルトは、大声で叫びながらベルナルドを追いかけて行く。