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第六話 メレーナの思惑(※メレーナ視点)

 今日ほど不快だった日はありませんでしたわ。私、メレーナ・アヴェレーナはあの忌々しい巨女、姉であることも許したくないエレナ・アヴェレーナからヴァルロード公爵家の御曹司リードオール様を奪い取ったというのに。突然母から呼び出しをもらったと思ったら、衝撃の一言を受けました。


「あの大女がジェイク第三王子と婚約を交わしたそうよ」

「え、エレナが、ですか?」


 不機嫌そうな表情でお茶を飲む母は、空になったカップを使用人に付きつけます。使用人は慌ててティーポットを手にしますが、それをこぼしてしまいます。なんとどんくさいことでしょう。


「……あなた、今私がどういう気分かわかって?」

「も、申し訳ございません! どうか、どうかお許しを!」

「この者を懲罰室に連れて行きなさい!」


 ああ、また母の癇癪が始まりましたわ。まあ、ティーポットの一つうまく使えない使用人など居ても仕方がないでしょうし、悲鳴を上げながら懲罰室に連れていかれる姿はおかしくてたまりませんわ。

 しかし、人のことを気にしている場合ではございません。私は先ほどのお話を恐る恐る訊ねることにしました。


「それで……ジェイク第三王子との婚約についてですが……本当なのでしょうか?」

「あなたがヴァルロード公爵の御曹司といちゃついている間に、あの大女は王族を掠め取ったのよ。なにをやっているのよ、あなたは」


 母の言葉に、私はこぶしを握り締めます。あの女は、何もかも私から奪い去っていきます。体も、名誉も、男も。だから奪い返すのですわ。私は……!


「そう言う事でしたらお任せください。リードオール様と言えども、王族には手出しできないでしょうし、彼は今私の言いなりになっておいでですわ。婚約を無かったことにし、ジェイク第三王子をあの女から奪い取ることなど造作もないことでしょう」


 私は自信満々に母へ宣言します。しかし母の表情は変わりません。どうして、どうして信用してくださらないのでしょうか。


「どうだか。間者の話によれば、もうすでに王宮へ入っているそうよ。王宮内で騒ぎを起こせばどうなるか、わかっているのでしょうね?」

「そこはお任せを……。必ずや、あの女を奈落のどん底へと陥れてみせましょう。そして、本当のアヴェレーナ子爵、いえポーレタリア王国に相応しい女かどうかを示して見せますわ」

「ふん、まあ期待しないで待っているわ」


 感情の無い言葉。しかし、父と別居していても子爵の嫁であり続け、さらに私を使って成り上がろうとするしたたかさは見習うべきなのでしょうね。そう、私もまたこんな辺鄙な場所で終わる女ではないのです。


 リードオール様にかけた魅了の魔法……それが途切れない限り、彼は私の言いなりになります。それをジェイク第三王子にも掛けることができれば、簡単に奪い取ることができますわ。


 なにが真実の愛、でしょうか。くだらない。私に必要なのは名誉と地位だけ。そう生まれたときから何もなかった私は渇望しているのです。すべてはあの女が持って行ってしまった。あんな何の役にも立たない女よりも、私の方が優れているというのに。


 それなのに、父は勝手にリードオール様との婚約の話を進めました。もともとリードオール様のことなどどうでもよかったのですが、あの女が幸せになる未来など見たくもなかったのです。そのために、そしてあわよくば公爵家と言う地位を手に入れるために画策したというのに、すべてが無駄になりました。

 リードオール様に頼んで王家につないでもらおうかしら……しかしそれはあまりにも不自然。なにかきっかけを用意していかなければ怪しまれるだけでしょう。ともかく、私は母の元を離れ、リードオール様が待つ部屋へと参ります。


「おお、愛しきメレーナよ。どうした、不機嫌そうな表情をして」

「不機嫌とわかっているのでしたら声を掛けないでくださいますか? 不愉快ですわ」

「おお、そんな怖い顔をしないでくれ……私が愛しているのはお前だけなのだから」


 嘘をぬけぬけと。しかしこうして人形となっているのも滑稽ですわね。私はしばらく彼の相手をしてやって、王家にお近づきになれないかと訊ねました。


「そんなこと造作もないが……それがどうかしたのか?」

「いいえ、ただ公爵家の未来のためには王家とのつながりを強化することが先決だと思ったのですわ」


 私は作り笑いをしてそれらしい言葉を並べてみせます。するとリードオール様は頷き、私を信用しきっているような目でこちらを見つめてきます。本当に気持ち悪い。


「うむ、やはりメレーナは聡明であるな。確かにそうだ。しかし……今は王家の方々は忙しい。第一王子も遠征に行かれているのだが……」


 第一王子のことなどどうでもいいのです。私が知りたいのは第三王子のことだけ。それも奪い取れればいいだけの話ですわ。公爵家の未来もどうでもいい。


「おお、そういえば舞踏会を開くという話があったな。しばらく後になるが、その時であればご挨拶に行くこともできるだろう」


 舞踏会ですか。それはいい機会に思えますわ。何より人が多い場所で恥をかかせてやるのは気持ちの良いことですし、私の取り巻きも呼ぶことができます。作戦を練ることだって簡単でしょう。


「あら、それはよろしいですわね。精一杯着飾って、我々が一番と言うことを見せつけ……、そして力を示す機会かと」

「うむ、うむ。その通りだ」


 本当に馬鹿な男。今は利用するだけ利用してやりますわ。利用価値がなくなれば捨てればいいでしょう。あることないこと事実を並べておけば、あの男のせいにすることだって造作もないはず。


 しかし、舞踏会……となると、あの女も参加することでしょう。いつもは父のお古を着て無様な姿をさらしているだけですが、今回はそうもいかないでしょうし、策を練らねばなりませんね。恥をさらしてやるのが一番でしょう。

 そうすることで、第三王子もあの女の評価を下げるはず。それだけではありませんわ。あの女に恥をかかせることで王家からの信頼も揺らぐはず。


 ふふ、待っていなさい、エレナ・アヴェレーナ。私こそがこの国相応しい女であることを改めて突き付けてやりますわよ。今から楽しみですわね。


 さて、そのためにはまたあの指輪を作らなければなりませんわね。魔術師にばれないよう新調させなければ……。

 私は伝書鳩を飛ばし、魔術師に手紙を送ります。そして、夜の森の奥で私は魔術師と会いました。


「またよからぬことを考えておられる」

「いいから約束の品を渡しなさい。何時もの通り出来上がっていますね?」


 私がそう言うと、やれやれと魔術師は肩をすくめて首を横に振ってきます。あなたの相手などしている暇などないのですから早くしなさい。


「はいはい、これが魅了の指輪です。何時もの通りの術式がこめられているので、発動条件も同じですよ」

「わかりました、これが約束のお金です」


 私は袋に入った金貨を投げつけました。魔術師はその中身を見て表情をしかめます。当然でしょう、そこには前金しか入っていないのですから。


「信用がありませんなぁ。また前金だけですか」

「私に失敗などありませんが、お前が失敗することはあるでしょう? 前金を払ってやっているだけでもありがたいと思いなさい」

「わかりましたよ。……しかし、次はだれを狙っているかわかりませんが、身に合ったところで止めないと、怖い目に遭いますよ?」

「ふん、さっさとお行きなさい」


 魔術師はそう言って闇に消え去っていきました。私は魅了の指輪をポケットに入れ、その場を去りました。

 見ていなさい、エレナ・アヴェレーナ。あなたのものはすべて私のものなのですわ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 魅了なら発覚したら処刑ですよ。王族とかに掛けるようなら国を壊したり支配する目的があると判断されかねないですね。 そうなると国家反逆罪や国家転覆罪に該当するので公開処刑一択ですね。このことを…
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