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第二十三話 王位継承

 あれから三日が経ちました。国王陛下の容態は悪くなる一方でした。脈も弱くなる一方で、もう十日も持たないだろうというのがお医者さまの見解でした。陛下はその間に次期王を決めるということでしたので、陛下の部屋には誰も立ち入ることもできなくなりました。


 王宮は暗い雰囲気で包まれていました。私はオリバー様と遊ぶことで気を紛らわしていましたが、ジェイク様のことを考えればおそばにいるべきなのでしょう。しかし彼もまた一人にしてほしいと言ったきり、部屋から出てくる様子はありませんでした。何度か尋ねてみたのですが、少しの会話だけをするだけで、私は彼に対して何もすることができませんでした。


「ねえ、エレナ」

「はい、何でしょう?」


 今は図書室でオリバー様に本を読ませていたのですが、彼は心配そうに私を見つめます。


「父上は、死んでしまうの?」


 悲しそうな目で、オリバー様は消え入りそうな声を出しました。私はどう答えていいのか分からず、しかしそれが答えになってしまったのでしょう。オリバー様は今にも泣きだしそうな表情でうつむきました。カセナさんも心配そうに見つめています。


「死んでしまうのだね」

「……もう長くはないと仰っておりました」


 残酷だったのかもしれません。しかし、こういったことをしっかりと伝えるべきだと私は思い、正直に伝えました。いつかは来る日、私も祖父を亡くした時に、父から死を告げられた際には理解もできず、ただ冷たくなった祖父を見て「死」を感じて、大泣きをしたものでした。

 それに比べ、オリバー様は涙をこらえ、ただ強くあろうとしています。その姿はジェイク様を思わせるようなものでした。


「……そっか。じゃあ僕はしっかりしないといけないんだ。カセナ、力を貸してくれよ」


 そう言われて、カセナさんもぶんぶんと頷いて見せました。本当にこの二人は心が通じ合うようになって良かったと思います。これならば、彼はこれからも大丈夫なのでしょう。

 しかし、やはり問題になるのはヘルクレスのことでした。彼が王になったとしたら、どんなことになってしまうのか。


「最近ヘルクレス兄様が怖いのも、父が死んでしまうから?」


 と、オリバー様は訊ねてこられました。またもやどう答えていいのかわからない私は、沈黙を続けてしまいます。しかし、これ以上オリバー様を心配させるわけにはいかず、私は苦し紛れではありますがこう言いました。


「大丈夫、みんなが明るくなる日がまた来ますよ」

「そうだといいのだけれど……。ヘルクレス兄様は昔から僕のことをかまってくれなかったのだけれど、最近もっと怖くなっていて。僕を時折にらみつけてくるんだ。まるで邪魔なものを見つめるかのように。でも、その瞳の中に怖いものを見るような、なんだろう……うまく言えないけれど」

「まあ……それは」


 ヘルクレスは本当にすべてを憎んでいる。いえ、これは恐怖を感じているのではないでしょうか。自分の思い通りにならない何もかもが、怖くて仕方がないのでしょう。だからあのような態度をされるのではないでしょうか。そう考えると、なんだか寂しい存在にも思えてきます。


「僕にだけじゃないんだ。父上にも、母上にも、メイドにも、執事にも。兵士たちにもそんな目をしている。女の人と一緒にいるときも、そんな目だ。みんなが怖いんじゃないかって思うように」


 オリバー様は見抜かれていらっしゃったようです。子供の観察眼というのは侮れないもので、私たちにはわからないこともすぐに感じ取ってしまうのです。だからこそ……ヘルクレスはオリバー様のことも邪魔で仕方ないと思っているのでしょう。



 本を読み終わり、カセナさんと遊ぶと言ってオリバー様は庭園へと向かわれました。私は一人廊下の窓から外を眺めていました。


「ここにいたか」


 と、聡明な女性の声が聞こえてきます。振り向いてみると、そこにはジェイク様の母上アレヴェス様がいらっしゃいました。私はとっさに挨拶をしますが、アレヴェス様は私の隣に立ち、大きなため息をつきました。


「少し話に付き合ってくれ。場所は武道場がいい。……心配ならばキュラーヴァも連れてきていいぞ」

「いえ……お二人でお話したいと言うことですよね。かしこまりました、参りましょう」


 私はアレヴェス様のお言葉に従い、ともに武道場へとやってまいりました。彼女は軽装で動きやすい恰好になり、剣を振ります。私はそれを少し離れた場所で見ていました。


「騎士姫と呼ばれた以上、私のほうが戦場で先に果てると思ったのだがな」


 その言葉はどこか悲しみを帯びていました。やはり、夫の死が近づいていることへ不安を感じ、そして何より悲しみが押し寄せているのでしょう。


「私は王の器たるものを産めなかった」

「それは……」

「ツヴァイヤは私のように戦に明け暮れるし、ヘルクレスは放蕩息子。ジェイクも少し頼りがない。まだ妾の子のオリバーのほうが王の素質がある。せめて、死んだ長男が生きていればな」


 正直な言葉でした。しかし、それが正しい評価とは、私には思えませんでした。


「ご自分の息子を信じてはおられないのですか?」

「ああ、自分の息子だからこそ信じられない。せめてあと五年、教育をする日があればよかったのだが……」

「……難しいところですね」


 私はそう誤魔化すしかありませんでした。そんな私に、アレヴェス様は剣を振りやめて見つめてきます。


「そなたは、もし自分の夫となる人物が王となったらどうする?」

「え?」

「ジェイクが王になったらどうするかと聞いているんだ」


 意外なお言葉でした。私はどう答えていいかわからなかったのですが、ただ一つだけ言えることはありました。


「私はジェイク様がどんな立場になられようと、支えになるだけです。間違っていることがあれば私は間違っていると言いますし、正しいことをされるのであればお手伝いをするだけです」

「そうか。それが聞けて嬉しい」


 そう言って、アレヴェス様は剣を鞘にしまい、そのまま去っていきました。最後の言葉にどんな意図があったのか私にはわかりませんでした。ただ、何か決意を固めたかのような表情をされていたのは確かでした。



 それからさらに三日が経ちました。目立った動きはありませんでしたが、この日私たちはついに国王陛下の寝室へと入ることが許されたのです。

 私はジェイク様とともに部屋に入ります。すでに部屋の中にはオリヴィア様、アレヴェス様、ヘルクレスにオリバー様もいらっしゃいました。私たちが最後の二人だったみたいです。


「遅い」


 ヘルクレスは一言文句を言いますが、私たちは何も省みず、ただ部屋の中央へと向かいます。ここから、真実が明らかになっていくことになるのでしょうか。私は不安でいっぱいになりますが、ジェイク様が私の手を握ってくださいます。その手は少し汗ばんでいて、彼も緊張をしているのだという事がわかりました。


 そんな私たちにオリヴィア様が近づいてきます。王の近くにいらっしゃるヘルクレスには聞こえないよう小さな声で耳打ちをされました。


「……ツヴァイヤ様の容態があまりよろしくありません。王に指名されても、継承するのは難しいかもしれません」


 そんな……と私は言葉に出しそうになるのをぐっとこらえて、何も聞いていないそぶりを見せました。ジェイク様も同じです。彼は何か覚悟をしたような表情を浮かべて王の言葉を待っておられました。


「あなた、全員がそろいました」


 アレヴェス様はそう言ってつぶやきます。国王陛下はパクパクと掠れた声を出します。こちらには聞こえてきません。ただ、アレヴェス様は耳を立ててその声を聴きました。


「わかりました……本当にそれでよろしいのですね?」


 アレヴェス様がそう訊ねると、国王陛下はゆっくりと頷きます。そして眠りにつきました。呼吸が小さく、いつ亡くなってもおかしくない状態でしたが、アレヴェス様が立ち上がり、私たちの前に立ちます。


「陛下が、後継者を指名なさいました。よくお聞きなさい」


 ヘルクレスがほくそ笑むのが見えます。この男は、目の前に迫っている父の死よりも自分のことしか考えていないのでしょうか。そう考えると、そのやり場の怒りが、私にこぶしを握り締めさせます。


 アレヴェス様は、全員を見渡した後、目をつぶり言いました。


「次期王は、ジェイク第三王子。あなたです」


 それは、その場にいる全員が意外だった言葉でした。


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