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第十一話 波乱の舞踏会

 ついに舞踏会の日がやってまいりました。王宮から下を覗くと、色とりどりの馬車が次々と到着して、そこから煌びやかな格好をした人々が次々と姿を現してきます。中には子供たちの姿もあり、ここが貴族たちにとって大事な社交場であることを表しているようにも思えます。


 ここで子供たちの将来の花嫁や婿を探し、その関係を強化する。そういった意味合いも舞踏会にはあるのだと常々教えられてきました。なので失礼な言動や振舞などをすれば、たちまちそれが評判となり、身を亡ぼすのだと言う事も。


「緊張しているかい、エレナ」

「それはもう」


 同じ部屋にいたジェイク様は、いつもの動きやすい服装ではなく王家の紋章が入った礼装を身にまとっています。普段とは違う大人びた雰囲気を醸し出していました。


「緊張することはないよ。私たちは堂々としていればいい。何時もの通りだ」

「そうでしょうか……失敗したらどうしようとか考えてしまいます」

「失敗してもよい。その時は私が支えるし、私が失敗したらお前が支えてくれるんだろう?」


 何を当然のことを、という表情を浮かべてジェイク様は笑ってらっしゃいました。そうです、私たちは支えあうのです。一度や二度の失敗を恐れてはなりません。私もまた気合を入れなおすため、深呼吸をします。


「それに誰よりも綺麗だよ、エレナは」


 そう言われて、私は思わず顔を緩ませてしまいました。今日という日のために、ジェイク様が用意してくださった特注のドレスを身にまとっています。純白の中に装飾品で宝石が散りばめられていて、地味な私でもとても華やかに見えます。

 しかし少し気になっていることがあります。王族主催の舞踏会だというのに、ジェイク様の御兄弟が参加されないということでした。そのことをジェイク様はあまり気にしている様子はなく、先ほどお会いした国王陛下もいつものことだ、と仰っていましたが……。


「まだ気になるのか? 私の兄上や弟がいないことが」

「はい。ここに暮らしてしばらくたちますが、一度もお顔を合わせたことがないので……今日ばかりはと思ったのですが」

「まあ兄上や弟のことは気にしないでいいよ。今日は私とともに舞台へ立つ。それだけでいいんだ」

「はい、わかりました」

「失礼しっまーす。エレナ様のお父様がご到着されましたよー」


 と、外からキュラーヴァの声が聞こえてきました。私の父も私の親族として招待されているのでした。母にも送ったのですが、どうやら参加する気はないらしく、返事も送られてきませんでした。


「おお、エレナ! とても綺麗じゃないか! まるでウェディングドレスのようだな!」


 父が入ると、大げさに驚いて私の方に歩み寄ってきます。ウェディングドレスって……そんな大層な……でも嬉しかったです。父が喜んでくれて。

 父はジェイク様の方を向き、膝をついてあいさつを交わします。


「お久しぶりです、殿下。我が娘を愛してくださっていること、ご報告を聞いております。誠にありがとうございます」

「ああ、ロイド子爵も来てくれてありがとう。私から送った礼装も着てくれたようだね」

「私には勿体ない一品でしたが、殿下からの贈り物とあれば着ていくのが礼儀と思いましたゆえ。それにしても、エレナをこんな素敵な子にしてくださってありがとうございます。心から感謝申し上げます」


 社交辞令ではなく、心からの言葉を投げかけていることが、父の真剣な表情からわかりました。私も私自身の成長を感じることができて、あの時に空いた心の穴もふさがった気がしました。

 しかし、その父の表情が険しくなっていきます。なにがあったのでしょうか。


「殿下、本日の舞踏会に、我が娘メレーナとヴァルロード公爵家のリードオール殿が来られることはご存じでしょう。しかし、あの娘のこと、何か企んでいるかもしれませぬ」

「なるほど、ご忠告感謝する。気を付けておこう」

「メレーナ……」


 何をするつもりなのでしょうか、彼女は。とてつもない不安が私の中に襲い掛かってきました。

 時間が経ち、王族の入場の時間となりました。私は緊張した面持ちでジェイク様に手を引かれながら階段を下りていきます。会場内からどよめきが聞こえてきます。おそらく私の体格のことでしょうし、子爵の娘と言う身分からもあるのでしょう。しかし、私は緊張しながらも堂々とすることに決めました。

 この人が私の愛する人です。

 拍手が響き渡ってきましたが、中には釈然としていない表情を浮かべている方もいらっしゃいます。それでもいい、私はそんな視線にも負けません。



 そして、軽食がふるまわれた後、舞踏会の会場で私たちは踊りました。ジェイク様の体の大きさを想定したダンスのレッスンのおかげと、ジェイク様自身が私に動きを合わせてくださることで、私たちは綺麗な踊りをすることができました。

 しかし、突然私の足に何かが引っかかりました。それで転倒しそうになるのを、ジェイク様がアドリブして立て直します。


「ちっ」


 はっきりとした舌打ちがどこから聞こえてきました。踊りながら辺りを見渡すと、少し離れた場所にメレーナの姿がありました。彼はリードオール様と踊っていらっしゃるようですが、時折こちらの様子をうかがっています。


「……やはり妨害が来たか」

「はい。ありがとうございます、フォローしてくださって」

「何、これぐらいは夫となるものの務めさ。楽しく踊ろう」


 曲調が変わり、少し明るめの曲が流れ始めました。私とジェイク様は体を大きく使って踊り始めます。


 そうして舞踏会も終わり、模様替えをして再び宴が始まりました。私たちのもとに挨拶に来る方々が何名もいらっしゃいました。時折私のことを遠まわしに貶める言葉を出す人もいらっしゃいましたが、私は笑顔を崩さず、ジェイク様も私を誇ってくださいました。本当にうれしい限りです。


 そうしていると、今度はリードオール様とメレーナがやってきました。二人は恭しくお辞儀をすると、作り笑いをして言います。


「これはこれは殿下。思いの人を王宮に連れてこられたと聞きましたが、まさかこの巨女令嬢がとは……」

「はっきりとした物言いだね、リードオール。そうだ、君が捨ててくれたおかげで、私は彼女を娶ることができたんだ。感謝しているよ」

「まあ、こんな女など、どこがいいのかわかりませぬが……」


 様子がおかしいです。リードオール様は確かに性格が良いとは言えませんでしたが、ここまではっきりと失礼な物言いをする方でもありませんでした。隣にいるメレーナも止める様子がありません。


「こんな女、と申したか」

「ああ、失礼。今は殿下の女でしたね……少々口が滑ってしまったようです。寛大なお心でお許しください」

「……リードオール、貴様何かおかしいぞ?」

「そうでしょうか? 私はいつもこの通りですが」


 演技がかった物言いはいつものこと。しかし、仮にも公爵家の御曹司ともあろう方が国の王子に対してこんな挑発的なことを仰るのでしょうか?


「リードオール様、そのお言葉はあまりですわ」

「おお、そうだったか。申し訳ないね、メレーナ」


 対してメレーナのほうには素直に謝罪をしております。彼女はスカートの裾をつまんでお辞儀をし、謝罪してきました。


「お許しください。少し酔いが回っているようですわ」

「そうか、それならばいいのだが」

「お詫びとなるかわかりませぬが、こちら母上からお預かりしていた、アヴェレーナの鉱山で採れたルビーを使った指輪です。殿下をお守りしてくださる、魔法の指輪となっております」


 と、メレーナは付き人から指輪を受け取りました。その指輪はどこか妖しく、何か違和感を覚えます。どこかで、どこかで見たことのあるような。


「そうか。では受け取ろう」

「しかし、お指に合うかわかりませんので、こちらで身に着けてはくれませんでしょうか。僭越ながら私が……」

「いいえ、離れなさい、メレーナ」


 私は思わず口を挟みました。絶対にあの指輪には何かがある。そう直感が告げています。しかしメレーナは怖がった表情を浮かべてこちらを見てきました。


「そんな、ひどいですわ、お姉さま! 私はただ、殿下を護ってくださる指輪を差し上げようとしただけなのに」

「その指輪……意匠こそ違うけれど、リードオール様が身に着けている指輪と同じではありませんか?」


 一瞬ですがメレーナの顔が歪みました。しかしすぐに私を怖がる表情を浮かべ、牽制してきます。


「同じ彫金師の仕事ですから似てしまうのは仕方がありませんわ。それとも、私が殿下に贈り物をするのがいけないことですと? このように忠義を尽くしているというのに……」

「メレーナ殿、エレナが失礼なことを言った。私の指はめてくれないか?」


 ジェイク様がそう言います。その時の表情は、私を安心させるかの様にいつもの太陽のような笑みでした。そしてメレーナが人差し指に手を掛け、指輪をはめ込もうとした瞬間でした。


「待った」


 ジェイクはメレーナの手をつかみ、動きを止めます。メレーナもさすがに困惑した表情でその場に立ち尽くします。


「そういえば、贈り物を受ける際は魔法鑑定が必要だった。この状態で申し訳ないが、受けてもらうよ」

「あ、いえ……その必要は……」

「これは決まりなのだ。キュラーヴァ、魔法鑑定士をここに」

「あ、あの……やはりこの指輪は殿下に相応しくありませんね」

「さきほどと言っていることが違うではないか。ほら、魔法鑑定士がもう……」

「失礼いたします!」


 メレーナはジェイク様の手を払いのけ、指輪を落としたまま、その場を走り去っていきました。リードオール様が困惑した表情でどうしていいかわからず、その場に立ち尽くしていました。


 魔法鑑定士の方が指輪を拾い、それを魔法で鑑定し始めます。すると驚いた表情を浮かべて言いました。


「これは魅了の指輪です。指輪をはめ、口づけをすることで相手を言いなりにさせるような効果を持つような……」

「やはりか。そこで呆然としているリードオールも鑑定して差し上げろ」

「ジェイク様……」

「な、大丈夫だっただろう? これぐらいはお見通しさ」


 そう言ってウィンクをするジェイク様が心強くて、私は安心のあまりに力が抜けてしまいそうでした。


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