第9話 公爵の提案
「私に頼みですか?」
今のアナスタシアは全てを失った人間だ。
そんな人間に頼みたいこととは一体何だろうか。
「そうだ。アナスタシアさんは、今、仕事が無い訳だよな?」
「お恥ずかしながら無職になってしまいました」
教会を追放され、アナスタシアは絶賛無職になってしまっている。
王都を出て適当に食い繋ぐつもりでいた。
「それなら、公爵家の専属の治癒魔術師としてうちで働かないか?」
「え!?」
その提案は、公爵家のお抱えの治癒魔術師になるということだ。
公爵は上級貴族であり、王族である。
その家のお抱えになれるということは名誉なことである。
「私でいいんですか?」
「むしろ私はあなたしか居ないと思っている。自分の命をかけてでも誰かを救おうとする信念。並大抵の覚悟でできることでは無い。ぜひ、うちで働いて欲しい」
ガルン公爵はアナスタシアの事を元聖女の治癒師とではなく、1人の人間として見てくれている。
「もちろん、あなたの聖力や治癒魔術の技術も素晴らしい。しかし、私はアナスタシアさんの人間性を見て、この提案をしたいと思っている」
「ありがとうございます。願っても無い事です」
教会ではアナスタシアの能力しか見られてこなかった。
アナスタシアが持っている聖力や癒しの魔法しか必要とされてこなかった。
しかし、ここではそれだけでは無い。
ちゃんと1人の人間として見てくれたのが何よりも嬉しかった。
「それで、給料だが、契約金で王金貨15枚。月々金貨35枚という事でどうだろうか?」
「高待遇すぎます……」
一般的な王都の給料の倍近い額である。
教会に勤めていた頃の給料よりは3倍になる。
教会は上層部だけ潤っているが、下には薄給を強いている。
それが、本来の教会のあるべき姿では無い。
しかし、事実として教会はここ数年はそんな状況である。
「お願いできるか?」
「はい、喜んで」
「ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」
こうして、アナスタシアの公爵家専属が決定した。
「では、これも渡しておこう」
公爵がアナスタシアに金属製のカードを手渡した。
そこには、公爵家の家紋が描かれていた。
「それが、公爵家で働いているという証になる。私がそれを渡したということは、公爵家が後ろ盾になるということだ」
王族である公爵家が後ろにいたら、大抵の貴族は黙らせることができるだろう。
「これから、教会からなにか言われることもあるだろう。そうなったとしても、我がサリナー公爵家の名を持って守ると約束しよう」
「ありがとうございます」
あの教会の事だ。
アナスタシアがまだ王都に残っていると知ったら、嫌がらせを仕掛けてくる事くらいは目に見えている。
「これから、よろしく」
「はい、お願いします」
公爵とアナスタシアは握手を交わした。
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