第7話 憧れた聖女
アナスタシアが目を覚ますとそこはベッドの上だった。
一体、どのくらい寝ていたのだろうか。
外はすでに暗くなっている。
「お目覚めですか?」
執事が部屋の隅に立っていた。
「すみません。私、倒れてしまったんですね」
「聖力を使いすぎてしまったようです。旦那様たちを呼んで参りますので、少々お待ちください」
そう言うと、執事は粛々とって一礼して部屋を後にする。
そして、しばらくしてロインとガルン公爵がやって来た。
「体調は大丈夫ですか?」
ロインが心配そうな眼差しを向けてくる。
「はい、今は大丈夫です」
「急に倒れたので、心配しましたよ」
「ご心配をおかけしてすみません。ロイン様の方は大丈夫なのですか?」
呪いは解いたとはいえ、まだ後遺症が残る可能性は捨てきれなかった。
「ええ、もう体が軽くて仕方ありません」
「それは良かったです」
どうやら、後遺症の心配はないようだ。
無事に呪いを破壊することが出来たらしい。
「医者が言うには、聖力を使いすぎたようだ。しっかり睡眠を取れば問題ないらしい」
ガルン公爵が言った。
「すみません。お手数おかけしました」
「いや、改めてお礼を言わせてほしい。息子の命を救ってくれてありがとう」
ロインの誕生日までは残り一ヶ月を切っていた。
ギリギリの所で救うことが出来たのだ。
「ひとまず、今日は休んでくれ。詳しい話はまた明日にでもということで」
「分かりました。ありがとうございます」
公爵はアナスタシアの体調に気をつかってくれたようだ。
聖力は大体半分ほどは回復したといった所だろうか。
確かに、まだ本調子ではない。
アナスタシアは、夕食を取って、休むことにした。
何しろ、こんなに聖力を消費したのは初めてのことだ。
感応増幅師によって、聖力を限界まで高めていたのだ。
その聖力のほとんどを消費しなければ、あの呪いは解けなかった。
呪い自体が高位なものではあるのだが、それ以上に呪いを掛けた術者が相当な達人であると思われる。
「何とかなって良かった……」
正直、呪いが解けるという確信は持てなかった。
しかし、これでまた1人の命を救うことが出来た。
「お祖母様、見てて下さいましたか?」
誰も居ない部屋でアナスタシアは呟いた。
その時、開いていた窓からふわりとした風が吹き込んできた。
それは、まるでアナスタシアの祖母が返事をしてくれたようだった。
「お祖母様、もしかして、力を貸してくれましたか?」
そう言ったアナスタシアの声はただ部屋に漂うだけであった。
ほんのちょっとだけ、憧れた祖母の姿に近づいた。
そんな気がした。