第4話 解呪の代償
「ロイン様にかかっているのは悪魔の秒読みという強力なものです。なぜそんな呪いが?」
呪いを掛けるには掛ける側もそれなりの代償を支払わなければならない。
呪いの力が強力であればあるほど、その代償は大きくなる。
悪魔の秒読みは呪いの中では最上級に近いものだ。
その代償に払うものはおそらく、術者の死だろう。
「そうだな。まずそこから話さなければならんな。話は私の祖父の代まで遡る」
その頃の王国は隣国の帝国と戦をしていた。
当時の公爵であった、ロインの曽祖父も戦で指揮を取ることになった。
その戦にはなんとか勝利したが、当時の公爵は大きな代償をもらうことになる。
瀕死状態だった敵国の呪術師が命を懸けて、公爵に呪いを掛けたのだ。
それが、悪魔の秒読みだった。
その呪術師が呪いを掛けた相手は2人。
1人は当時の公爵本人。
そして、もう1人は子孫の誰かというものだった。
「なるほど。では、ロイン様が呪われたのはその呪術師が掛けた呪いが偶然当たったといことですか?」
「そういうことになるな」
これで、全てが納得できるものになった。
この現代を生きていて、悪魔の秒読みなんていう呪いにお目にかかる方が珍しい。
しかし、それが数十年以上も前のものならば話は分かる。
当時は呪いというものが主流で通っていた時代だと、教皇様から聞いたことがあった。
「それで、あなたならその呪いを解く事は可能なのだろうか?」
期待と不安が入り混ざった表情をガルン公爵は浮かべている。
ここで、アナスタシアが不可能と言ったら、公爵は最期の希望を失うことになる。
「呪いを解く事は可能だと思います。しかし……」
「しかし?」
「私の命と引き換えになら、ですけど」
呪いを解除するには聖力と一緒に生命エネルギーを必要とされる。
低レベルの呪いの解除なら、生命エネルギーが減る事は大した問題にはならない。
しかし、今回の場合は話が変わってくる。
最高位の呪いを解くには生命エネルギーの大半を消費してしまう。
そうなったら、ロインの呪いは解くことが出来ても、その代償としてアナスタシアの命が失われる。
「それは、頼む訳にはいかないな……」
公爵は力無き声で口にした。
これで、ロインの呪いを解く事は不可能になった、と思われた。
「まだ、方法はあります」
「本当か?」
「感応増幅師ってご存知ですか?」
「ああ、知っているさ」
感応増幅師。
それは触れた者の魔力などの能力を爆発的に高める事ができる異能を持った人間。
神によって特別な力を与えられた人間である。
「感応増幅師によって私の聖力を最大限まで上げてもらった状態なら、解呪することができると思います。手配できますか?」
確か、王宮にも感応増幅師が居たはずである。
公爵の地位にあるガルンなら、手配することもできると考えた。
「もちろんだ。すぐに王宮に話をつけて来る。それまで、アナスタシアさんはうちでゆっくりしていてくれ。あなたの置かれた状況もなんとなく察している」
公爵は優しい笑みを浮かべて言った。
「流石は公爵様ですね」
「何かあったら、彼に申し付けてくれ。おい、彼女を頼む」
「かしこまりました」
公爵様は後ろに控えていた執事に言った。
「では、私は早速王宮に出向いて来る。直接、兄上に言った方が早いだろう」
そう言うと、公爵様は王宮へと向かって行った。