第3話 最期の希望は
「流石です。アナスタシアさん。まさかそこまで分かってしまうとは」
「聖力を持つ者ならすぐに分かりますよ。強力な呪いですから」
小さな呪いであれば、稀に見逃してしまうという可能性もあるのだが、この規模の呪いを見過ごすようでは聖女では居られないだろう。
「王都の何人もの呪術師や魔術師に聞いてやっと分かった呪いだというのに……」
「悪魔の秒読みは症例が少ないですからね。簡単にはわからなくても必然かもしれません」
その突き刺さった矢が見えない者からしたら、どんな呪いがかかっているのかを特定するのは至難の技だろう。
「先ほど、教会に居ましたよね?」
「ああ、この呪いを聖女様に診てもらおうと思ってな。しかし、呪いなどかかってないと言われてしまったよ」
ロインは息を吐いた。
アナスタシアが居なくなった教会にいるのは、ちょっと治癒魔法が得意な女だ。
聖力も何も無いのだから、この呪いの矢が見えなかったのだろう。
「でも、あなたにはこの呪いが見える。本物の聖女様だ」
「失礼ですが、ロイン様は今年で二十歳になられますよね?」
「ああ、そうだな」
「だとしたら時間がありません。その呪いは20歳の誕生日になった瞬間に発動します」
この手の呪いが厄介なのは、それまでにも症状が出てくるという事である。
体力的にも限界が近いのだろう。
ロインは最期の希望として“聖女“を頼ったのだ。
「そう、聞いている……」
その時、ロインがその場に倒れ込んだ。
「大丈夫ですか……!?」
「ああ、すぐ治る……」
その苦しみにロインは表情を歪める。
この症状を見るに、呪いは相当進行しているようである。
「少し、休まれた方がいいですよ」
「すまない。少し、待っていてくれるか?」
「はい、私は大丈夫ですよ」
ロインは従者に付き添われ、部屋を後にする。
そして、それから数分して再び応接間の扉が開かれた。
「失礼するよ。息子が世話になっている。父のガルンと申します」
ガルン・サリナー、兄はこの国の国王であり、公爵様である。
「アナスタシアです」
「息子から大体の事は聞いた。ロインの呪いを見抜いたそうだな」
「はい。ロイン様は大丈夫ですか?」
「ああ、今は眠っているが、しばらくすれば良くなるだろう」
毅然として振る舞っていたが、体は相当しんどかったはずだ。
「これは公爵としてでは無い。1人の息子を持つ父として頼みたい。ロインの呪いを解いてくれないだろうか」
そう言って、ガルン公爵は頭を下げた。
「頭を上げてください」
「じゃあ、君なら呪いが解けるのか?」
医者も呪術師も死霊術師も、薬師も呪い解く方法は無いと言った。
しかし、目の前にいる“本物“の聖女様なら、一人息子の呪いを解く事ができるかも知れない。
この場にいる全ての人間が、アナスタシアに最後の希望を託そうとしていたのであった。
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