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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第2部 密林の巨鳥と水竜 1章 バララセ大陸へ

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2-1(プロローグ) バララセ大陸へ

お待たせしました。第2部の前半、切りがいいところまで下書きができたので、投稿を再開します。

 港町の街並みがしだいにはっきりと見えるようになってきた。

 イーアは海風を受けながら、徐々に近づいてくる大陸の光景を船上から眺めていた。

 オッペンが手すりにつかまって身を乗り出して叫んだ。


「すげぇ! あれがバララセ大陸か!」


 船がゆれて、身を乗り出していたオッペンが落ちかけて、すかさず移動魔法でダモンがオッペンを甲板にひきあげた。「まったく。何回落ちかければ気がすむんだ」とダモンがオッペンに文句を言っている。


「あれがチュジェの町だね」


 オッペンのことは気にせずイーアがつぶやくと、ガボーが言った。


「おれは、帰ってきてほっとするどころか、緊張するんだな。おまえも気をつけろ。あの町に足を踏み入れた瞬間から、おれ達は本当に奴隷人種なんだな。誘拐されて売り払われたら、それでおしまいなんだな」


 ガボーは顔まで筋肉質でいつも怖い顔にみえるから表情の変化がよくわからない。だけど、口調はいつもより真剣だった。


「わかった」


 ドルボッジ部のダモンとガボーはバララセ大陸出身で、今は学校から家に帰るところだ。

 イーア達がバララセ大陸に行くつもりだというと、二人は行き方や船のチケットの買い方、服装や注意点までくわしく教えてくれた。

 肌の色の白いダモンは数代前にアグラシアからバララセに移住した農場主の息子で、色の黒いガボーはもともとバララセ大陸に住んでいた一族、つまり、帝国がバララセを支配してからは奴隷人種と呼ばれている人種だ。

 バララセ大陸では奴隷人種をいつでも奴隷にできることになっている。だから、イーアやガボーはいつでも奴隷にされてしまう。


 ダモンがイーアのほうに近づいてきながら言った。


「ムトカラはメラフィス砂漠の北をずっと東に行った先だ。本当に俺達なしで大丈夫か? 俺はお前達をムトカラまで送ってから南に向かってもいいんだぞ」


「大丈夫。オッペンもいっしょだもん」


「それが余計に心配なんだな」


 ガボーにそう言われると、イーアも否定できなかった。むこうで、はしゃぎながら港町を見ていたオッペンがタイミングよくくしゃみをしている。

 

「うん……でも、わたしには召喚があるから、だいじょうぶだよ」


 ダモンとガボーはしかめっ面のまま、ぶつぶつ言った。


「お前の召喚のすごさは知っているが……」


「1年の女子ひとりとオッペンじゃ、やっぱり心配なんだな」


 ダモンはそこで、思い出したように言った。


「まったく。こんな時に、エルツはどうしたんだ? バララセへいっしょに来ないなんて」


「少しみそこなったんだな」とガボーも言った。

 実はユウリもいっしょに来る予定だった。だけど、ユウリは結局、バララセへ向かうこの船の出航に間に合わなかった。連絡もないから理由ははっきりとはわからない。だけど、なんとなく推測はできる。


「しかたないよ。たぶん、ホーヘンハインの師匠が許可しなかったんだと思う」


 本当は、イーアはユウリが来なかったことに少しほっとしていた。

 チュジェの街並みが近づいてくるのを見ながら、ダモンは言った。


「とにかく気をつけろ。バララセで生まれ育った人間として故郷の悪口を言いたくはないが、ここは帝都のあたりとは比べ物にならない物騒(ぶっそう)な場所だ。強盗に襲われたり、帝国と反乱軍の戦いに巻きこまれたりすることもある」


「本当はおまえたちみたいな、子ども二人だけで旅ができる場所じゃないんだな。悪い大人がいっぱいいるから、だまされないようにしないといけないんだな」


 ガボーの声は心底心配している様子だ。

 ダモンとガボーはイーアやオッペンと年齢は3歳くらいしか違わない。だけど、二人とも筋肉量がすごくて体格がいいから大人に見える。

 イーアは年齢のわりに背が低い。さらに小さいオッペンは、落ち着きもないから、どこから見ても完全に子どもだ。オッペン本人は「子ども扱いすんな!」と言うけど。

 ガボーが言うように、周囲から見たら子どもふたりが旅をしている状態にみえるだろう。


「うん。気をつけるよ」


 イーアは素直にそう返した。

 イーアの眼前、船の進む先には美しい港町が広がっていて、とてもそんな物騒な場所には見えなかった。だけど、この先は、イーアがまだ知らない土地、バララセ大陸なのだ。


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