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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
7章 冬至祭

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97 最後の授業

 イーアは混乱しながら、斜面の上の方に立つオレンに向かって叫んだ。


「オレン先生……なんで、先生が……なんで、マーカスを!」


 オレンはゆっくりと左右に首を振った。


「マーカスのことは残念だった。まさか祭壇に死の呪いがしこんであるとは。……私は彼のことが好きだった。彼は君やエルツのように生まれ持った才に恵まれた天才ではない。だが、学年一番の努力家で、向上心の塊だった。私は彼のような生徒が一番好きだ。彼が成長し、成功する姿をみたかった。その助けになりたいと思っていたのだが……」


 オレンはとうとうとしゃべり続けていた。まるで、ここが教室であるかのように。


「だが、これもいたしかたがない。この世界は残酷だ。金と権力を持つ者は、持たざる者がい上がることを許さない。それでも成り上がろうとするならば、破滅と死のリスクを背負わねばならない。踏みつけ利用し蹴り落とそうとする者達の中を生き抜くずる賢さと冷酷さが必要なのだ。あのギルフレイ卿のような冷酷さが、な」


 イーアには信じられなかった。

 目の前のオレンを見、その冷たい言葉を聞きながら、イーアの脳裏には、同時に、いつものおだやかに授業をするオレン先生の姿が映し出されていた。

 あのオレン先生が、白装束の魔導士たちの仲間で、マーカスの死を「しかたがない」と言い放ち、今、ここでイーアを殺そうとしている。


「なんで、こんなことを……」


 オレンは淡々と述べた。


「なぜ? 栄光の<白光ロウシア>入団のチャンスを前に、迷うことなどないだろう。老いた者に時間は残されていない。ならば、挫折ざせつ続きのこの人生の最後にけてみてもいいではないか。<白光ロウシア>の栄誉を求めてみても。グランドールの秘宝を手に入れれば、入団の夢が叶う。さぁ、渡してもらおうか。渡さぬというのなら……」


 オレンは召喚の書を取り出した。まるで、授業で見本を見せるような自然な仕草だった。


「古来よりの召喚士のしきたりに従おうか。古より召喚士は最も野蛮な魔導士だと言われてきた。それはなぜか? 召喚士の物事の決し方にある。召喚による決闘。さぁ、若き召喚士よ。ウェルグァンダルの召喚士の力を見せるが良い!」


 オレンは召喚の呪文を唱えだした。


『聞け、我が声を。来たれ、火蜥蜴パラマンスス』


 イーアはとっさに『友契の書』にむかって『オクスバーン』と叫んだ。

 オレンの前には、全身が火で包まれた巨大なトカゲのような霊獣パラマンススがあらわれた。

 ほぼ同時に、イーアの前に霊樹オクスバーンが出現した。

 オクスバーンは困ったような声で言った。


『うむ? ここは、ずいぶん暑いのう』


 パラマンススが大きく口をあけ、そして火炎を放ちながら突進してきた。

 オクスバーンは大枝を振りまわし、パラマンススを払いのけた。

 だけど、パラマンススの炎がオクスバーンの枝に燃え移り、オクスバーンは、『これは無理じゃ……』と声を残して消えてしまった。


 オレンの声が響いた。 


「場を見極めるのだ! 精霊には地の利がある。この場で霊樹が力を発揮できるものか! この火口では炎に地の利がある。ここでは炎の精霊は力を増し、炎が苦手な精霊は力が弱まるのだ」


(炎……)


 ガネンの森の仲間の多くは、植物か獣の精霊で、みんな火に弱そうだった。

 炎も使える双頭の炎氷狼オルゾロは、ギルフレイ卿に倒され瀕死。

 燃えるようなしっぽをもつティトは、たぶん炎に強いけれど……。


 オクスバーンに火口付近まで飛ばされたパラマンススは、再びこちらへ這い寄ろうとしていた。


 イーアは後ずさりながら、手に持った『友契の書』に視線をやった。

 『友契の書』のいくつかのページが光を放っていた。

 『友契の書』を開くと、輝いているページのひとつがほとんど自動的に開かれ、イーアはそこにのっていた精霊を呼んだ。


『モンペル!』


 青いモンペルの壁がイーアの前に出現し、パラマンススが口から放った火炎のブレスを遮断した。

 モンペルの壁のむこうから、オレンの声が聞こえた。


「まさか、あのモンペルと契約を? モンペルの召喚なんて聞いたことがない……。だが、動かぬ壁なんぞ戦闘では役にたたぬ。壁を避けて攻撃しろ、パラマンスス」


 体表を炎に包まれたパラマンススが、鋭い牙の並んだ口を開け、こちらに向かって突進してくる。

 モンペルは、一度バラバラになったかと思うと、ぴょんぴょんと素早く跳びはね、突進してくるパラマンススの攻撃をさえぎるよう新たな場所で壁になり、パラマンススの噛みつきと炎の攻撃を完全に防いだ。


「なに……? モンペルが、こんな動きをするとは」


 オレンは知らなかったようだ。

 実はイーアも知らなかった。モンペルがこんなに素早く動いて壁をつくれるなんて。


 パラマンススはその場で体を回転して、モンペルに攻撃を続けた。

 パラマンススの回転攻撃がモンペルの壁にはね返される音が響く中、イーアは『友契の書』に目をやった。

 別の輝くページが、呼べと言わんばかりに待っていた。


『地底の守手 ヤゴンリル!』


 イーアが呼んだ次の瞬間、『ギャー!』と耳をつんざくような声が響き、イーアの横にヤゴンリルが出現した。

 ヤゴンリルは、グランドールの地下でイーア達にモルドーの警告を伝えに来た、あの巨大なトカゲみたいな霊獣だった。


『ウェルグァンダルの召喚士! 我ら、モルドー様のご遺志をつぐため協力する。早く他の者も呼べ!』


 ヤゴンリルはそう叫びながら、周辺の岩石を空中に浮かせた。


『モルドー様の仇!』


 岩石が巨大な弾丸のようにパラマンススとオレンの方へ飛んでいった。

 オレンは障壁魔法を唱え、飛んでくる岩石から身を守った。

 一方、ヤゴンリルに岩石弾を撃ち込まれたパラマンススは、一度地面に打ち付けられて動きをとめたが、すぐにまた動き出した。ダメージは小さそうだ。


「ヤゴンリル。早くもこんな召喚獣を呼べるとは。だが、これならどうだ」


 そう言って、オレンは召喚呪文を唱え、『火の精パラルル』を呼んだ。

 オレンの前に踊る火の妖精が何体も現れた。

 火の妖精パラルルは踊るように動きながら、次々にパラマンススの上に乗っかっていく。

 そして、パラマンススの体表を覆う火炎がますます強くなっていった。


 オレンはとうとうと、まるで授業で解説をするようにしゃべった。


「火の精パラルルは、単体ではほとんど戦闘力をもたないが、パラマンススの火炎の力を増大する。このように、もっぱら別の召喚獣の強化に使われる召喚獣もいる。地の利とパラルルで強化されたパラマンススに、ヤゴンリルの攻撃はきかぬぞ。さて、どうする?」


 一方、オレンの召喚獣パラマンススが強化されている間、イーアは何もせずに見ていたわけではなかった。

 『友契の書』の輝くページの召喚獣、つまりモルドー配下の精霊たち、『穿孔鋼虫ドズミリミル』と『掘削の王獣グモーチ』を呼んでいた。

 だけど、地底の精霊たちはまだ現れない。待ち時間が必要なんだろうか……。


 オレンはさらに別の召喚獣を呼んだ。


『聞け、我が声を。来たれ、爆弾炎岩パガンゴ!』


 溶岩の塊みたいな赤い岩が出現し、モンペルの壁にむかって転がってきた。

 爆弾炎岩パガンゴはモンペルの壁の前で爆発し、ダメージを受けすぎたモンペルはバラバラになって消えていった。


 炎の力を増したパラマンススがその口に火炎を集めているのが見える。

 モンペルの壁が消えた今、あの炎が吐き出されれば、イーアは丸焦げだ。


『ヤゴンリル。ドズミリミルとグモーチは……』


 ヤゴンリルはそこでイーアの言葉をさえぎって、『心配不要。見ていればいい』と言った。


 パラルルに強化されたパラマンススが体をうごめかし、その口から巨大な火炎のブレスを吐こうとした、その時。

 地中から、何本もの線がとびだしたように見えた。

 そして、その直線がパラマンススの巨大な体を貫通していた。


『あれが穿孔鋼虫ドズミリミル


 ヤゴンリルが周囲にあった岩石を空中に浮かべながら、そう説明した。

 ドズミリミルは、大鍾乳洞の祭壇のところでギルフレイ卿に襲いかかった、頭の部分がドリルのようになっている細長い金属みたいな精霊だった。


 そして、次の瞬間、激しい地の振動とともに、パラマンススのいた場所に大穴があき、ドズミルミルに体を突き刺さされたパラマンススは、大穴へと落ちていった。


『あれがグモーチの堀った穴。そして、これをくらえ!』


 ヤゴンリルは浮かべていた大量の岩石を、パラマンススが落ちた大穴へと叩きこんだ。

 すこしだけ、岩の間に火の粉があがるのが見え、それっきり、静かになった。

 パラマンススは土中に生き埋めになった。


「まさか、パラマンススを……」


 うろたえるオレンを、ふたたび地面から飛び出した穿孔鋼虫ドズミリミルが襲った。一体のドズミリミルが召喚の書を、もう一体がオレンの腹部を貫いた。


『モルドー様の仇、まずは一匹、とらせてもらったぞ』


 ヤゴンリルはそう言うと、力を使い果たしたように消え去った。


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