表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
7章 冬至祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/226

93 大鍾乳洞

 岩竜モルドーのいた大広間の先の細い道をイーアはかけぬけた。

 洞窟の中のような道がしばらく続いたあと、右手の壁がなくなった。

 そこには、広い広い空間が広がっていた。

 大小さまざまな、キラキラと輝くつらら石が天井をうめつくしている。

 地底の大鍾乳洞だいしょうにゅうどうだった。


 その広大な空間のただなかに、細く長くぐねぐねと蛇行だこうする道が続いていた。

 細い道には柵や壁はなく、一歩ふみまちがえれば、底の見えない地下の深淵へと落ちていくことになる。

 そして、長い道の先に石柱が立ち並ぶ場所が見えた。

 ガネンの森の洞窟にあったものと同じような石柱だ。

 支配者の石板の欠片は、きっとあの場所にある。


 蛇行する細い道を、白いローブ姿の人影が3つ歩いていた。

 できるだけ足音をたてないように注意しながら、イーアは走って追いかけた。


 近づきながら、イーアは3人の姿を観察した。

 1人は銀仮面をかぶり、奇妙な十字形の模様がついた、あの白装束のローブを着ていた。

 でも、他の二人は模様のない、ただの白いローブを着ていた。

 たぶん、本物の<白光ロウシア>は1人だけで、他のふたりは、その見習いか協力者みたいな存在なのだろう。

 ただの白いローブを着ている二人のうちの一人は大人で、もう一人は、大人にしては小さい。


(マーカス……)


 マーカスは仮面をつけていないので、白いフードのはしからマーカスの青ざめた顔が見えた。


 道は蛇行している。

 だから、一時的に距離が近くなる時がある。

 そんなときには、白装束の男達の声がはっきりと、まるですぐ傍にいるみたいに聞こえた。


「モルドーの配下は怖気おじけづいたか。移動魔法が使えないこの場所で、最後の悪あがきがあるかと予想していたが」


 <白光>の銀仮面の男がそう言った。この声は、ザヒではない。

 ザヒよりもずっと冷たく低い声だった。


 イーアは気がついた。

 とたんに、イーアの心臓が激しく叩きつけるように鳴り出した。

 白いローブの袖から見える男の手の甲。

 そこには黒い蛇のようなアザが見えた。


 黒い呪炎の使い手。

 岩竜モルドー、ガネンの民、そしてイーアの家族を殺した男。

 イーアは、胸の奥から叫び声の塊がせりあがってくるのを感じ、叫びそうになるのを必死に抑えた。


 その時、突然、イーアの着ている透明ローブから青いチルランが飛び出した。


(チルラン! 出ちゃダメ!)


 イーアはあわてて、青いチルランを手でつかみ、透明ローブの中にかくした。

 手の甲に黒いアザのある<白光>の男が、こちらへふり返った。


「今、何か……」


 イーアはチルランをつかみながら必死に息を殺した。

 見つかれば、終わりだ。

 殺される。

 

 <白光>の魔導士に続き、マーカスがこちらを見た。

 マーカスと、目が合った気がした。

 マーカスにイーアの姿が見えるはずはないけれど、マーカスはイーアが透明ローブをもっていることを知っている。

 きっとマーカスは、イーアがここにいることには気がついている。


 マーカスにはイーアが見えているんじゃないだろうか?

 そう思えるほど、マーカスの目はしっかりとこちらを見ていた。

 ほんの数秒の静かな時間が、永遠のように長く感じられた。

 マーカスの青い瞳は恐怖をうつしだしていた。そして、まるでイーアに何かを伝えようとしているかのように見えた。


 沈黙をやぶったのは、マーカスの震えた声だった。


「し、師匠………」


「なんだ?」


「あ、あっちに、たくさん、かべに変な穴が……」


 マーカスは、イーアがいるのとは全くちがう方角をゆびさした。

 白装束の魔導士は鼻で笑った。


「あれは魔獣がほった穴だ。中にこもってこちらの様子を見ているようだが。ザコにいちいちビクつくな」


 白装束の魔導士は、そう言い捨て、再び歩きだした。

 たすかった。

 マーカスが、助けてくれた。


 イーアの頭の中で、高速に色んな考えが浮かんでいた。


(マーカスが師匠って呼んだってことは……あの白装束の魔導士は、やっぱり、ギルフレイ卿……)


 地下の探索をしているのがマーカスだと知った時から、イーアとユウリはギルフレイ卿を疑っていた。

 何の証拠もなかったから、決めつけないようにしていたけれど。もうまちがいない。


 心の中が恐怖と焦燥しょうそう感で満ちていくようにイーアは感じた。

 まるで黒い呪炎が心の中で燃えさかっているように。

 まるで、誰も彼もが、じきにあの男の呪炎に燃やし尽くされてしまうんじゃないかと思えるほどにどす黒い不安で胸の中がいっぱいだった。


(マーカス……)


 さっき見たマーカスの表情は恐怖で満ちていた。まるで「助けてくれ」と心の底から叫んでいるような表情だった。

 あれはギルフレイ卿への恐怖なのだろう。


 だけど、マーカスはギルフレイ卿の弟子だ。

 よけいなことをしなければ、マーカスの身が危険になることはないはずだ。

 逆に、よけいなことをすれば……きっと、あの男は弟子であっても容赦ようしゃしないだろう。


 イーアは冷静に考えようとした。


(あの石板の欠片を守るには、どうしたら……)


 モルドーが言う通り、ギルフレイ卿はイーアが戦って勝てる相手ではない。

 ガネンの森の戦士たち、伝説の岩竜モルドーですら、みんな殺されてしまったのだ。

 うかつなことをすれば、見つかれば、イーアは確実に殺される。このローブをくれたマーカスも、殺されるかもしれない。

 だけど、引き返す気にはなれなかった。

 イーアは足音をたてないように慎重に、白装束の魔導士たちを追いかけ続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ