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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
7章 冬至祭

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88 冬至祭パーティー(後)

 それから、イーアはキャシー、ユウリ、ケイニスと楽しく食事をとった。

 アイシャは次から次へと男の子たちから声をかけられる上に、礼儀れいぎとしてゲストみんなのあいさつを受けないといけないらしくて、あまり一緒にいられなかった。


 料理にはイーアが初めて見るものがたくさんあっておもしろかった。南方や東方から運ばれてきた貴重な食材を使っているらしい。

 冬至祭の定番料理の鳥の丸焼きやパイも、とても大きくて豪華でおいしかった。

 そして、最後に冬至祭用の丸い大きなフルーツケーキにお酒がかけられ、火がつけられた。燃え上がる炎が消えると、フルーツケーキを切り分けて食べる。


「ふぅー。おいしかったぁ」


 デザートを食べ終わった頃。食事に夢中だったイーアは、ふと気がついた。何かを忘れているような気がする。

 それに、なんだかずっと、こちらへの視線を感じるような気もする。

 

(なんだっけ。何か大事なことを忘れてるような気が……)



 思い出せないまま、食事の時間が終わり、次はダンスの時間になった。

 最初はみんなでおどるダンスだった。

 イーアが知ってるダンスも知らないダンスもあったけど、みんなで楽しくおどった。


 その後、ペアでおどるお上品なダンスの時間になった。

 すると、イーアが近づく前にユウリはあっというまに女子に四方八方囲まれてしまった。

 ユウリは「このダンス、わからないので、ぼくは……」と、しどろもどろに断ろうとしていたけれど、結局、次から次へと知らない女の子たちに強引にさそわれておどるはめになってしまった。


 「さすが、エルツ君。美少年は大変」と、キャシーはあきれたように感想を言って、イーアは(ユウリがもっとぶさいくだったらよかったのに)と思いながら聞いていた。

 イーアは知らないダンスで、キャシーもじきに男の子にダンスにさそわれて行ってしまったので、イーアはちょっとだけ(つまんないなぁ)と思いながら、座って見ていた。


 しばらくして、イーアはなんとかすきをみつけてユウリをつかまえた。

 「はぁ。たすかった……」とユウリがため息をついているのを聞きながら、イーアはケイニスが部屋の隅に一人で立っているのに気がついた。

 ケイニスはダンスの時間が始まってからずっと部屋の隅でみんなの様子を眺めていたようだ。


 そして、イーアは気がついた。

 そのケイニスに、そっと近づいたり離れたりしている怪しい人影があることに。

 ひときわ美しいドレスに身を包んだ金髪の少女……。


(ローレインさんだ! いつもきれいだけど、今日はさらにきれい!)


 ローレインの美しさは会場の女の子たちの中でもひときわ際立っていた。

 だけど、なんだかとても挙動不審で、あまりに変な動きをしているので男の子たちはローレインに声をかけられないでいる。

 イーアはそれを見て思い出した。


(そうだ! ローレインさんがケイニス君と仲良くなる手伝いをしなきゃ!)


 たぶん、ローレインは食事の時からずっと、ケイニスに近づきたいけど近づけなくて、あんな感じでいたのだろう。


「行こ、ユウリ。早く助けなきゃ」


「え? だれを?」


 イーアは何もわかっていないユウリを引っ張って歩いて行った。

 でも、イーアが声をかける前に、ローレインは、ついに、勇気をふりしぼって自らケイニスに声をかけた。


「ケ、ケ、ケ、ケイニス。お、お、お相手がいないのなら、わ、わたくしがお相手してさしあげてもよろしくってよ」


 ものすっごい早口だった。しかも、ケイニスを直視できなかったらしく、ローレインの顔はあさっての方を向いている。


「お嬢様。けっこうです」


 ケイニスはいつものしかめっ面でダンスの誘いをきっぱりと断った。ローレインの顔にあきらかな落胆らくたんの色が浮かんだ。


「そ、そう……」


 すごすごとローレインが引き下がろうとしたところで、イーアは声をかけた。


「ケイニス君、そんなこと言わないで、ローレインさんとおどりなよ」


 ケイニスはぶっきらぼうに言った。


「俺はダンスなんて知らない」


「わたしとユウリも全然知らないけど、だいじょうぶだよ。へたくそなダンスもみんなでおどれば怖くないって。だから、いっしょにおどろうよ。わたしとユウリだけだと、はずかしいから」


 ケイニスは暗いまじめな声で言った。


「だめだ。お嬢様に恥をかかせるわけにはいかない。ダンスが上手いか下手かの問題じゃないんだ。俺と踊るってことが……」


 ローレインはすかさず力強く言った。


「わ、わたくしは、気にしなくってよ! 全然気にしなくってよ!」


 イーアはほがらかに言った。


「ほらほら。だいじょうぶ。へたっぴでも誰も気にしないよ。誰もこっちを見てないしね。さ、ローレインさん。ケイニス君といっしょにおどって、わたしたちにお手本をみせてよ」


 ローレインはここぞとばかり、ずいっとケイニスに近づいた。

 

「そうですわね。イーアさんに、そのように頼まれては、断れませんわよね。さぁ、ケイニス、こちらへ。ここに手を」


 ケイニスはため息をついて、ローレインの正面に立った。

 みんなが踊る輪から離れた少し暗い大広間のすみっこで、流れてくる音楽にあわせ、ふたりはゆっくりと踊りだした。


 イーアとユウリも、まねして踊ってみた。

 ゆっくりした音楽だけど、タイミングをあわせるのは難しい。

 イーアたちは何度も転びそうになったけれど、ローレインとケイニスは、ちょっとたどたどしいものの、ちゃんと踊れていた。


 そして、ローレインの上気した顔は、その日、誰よりも幸せそうで可愛らしかった。

 それを見て、イーアもなんだか幸せな気分になった。


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