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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
7章 冬至祭

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87/226

87 冬至祭パーティー(前)

 冬至祭の日の午後3時半すぎ。イーアはユウリといっしょにケイニスの部屋に行き、ドアをノックして呼んだ。


「ケイニスくん」


 10秒まっても返事はなかったけれど、イーアは「入るよー」と声をかけて、ドアをあけた。

 イーアが入ると、即座にケイニスの不満そうな声がひびいた。


「入っていいと言っていないだろ」


 ケイニスは部屋の中で不機嫌そうに立っている。

 気にせず、ユウリがケイニスをさそった。


「ケイニス、アイシャの家のパーティーに行こう」


 ケイニスは、しかめっ面で返事をした。


「金持ちのパーティーなんて、俺が行くところじゃない。ボンペール商会を知らないのか? 貴族と対等につきあえるほどの大金持ちだぞ?」


「それを言ったら、ぼくらだって場ちがいだけど。学校のみんなが集まるカジュアルなパーティーらしいから、だいじょうぶだよ」


 ユウリに続いて、イーアも言った。


「そうそう。みんなで行けば怖くないよ」


 ケイニスはじろじろとイーアを見て言った。


はじをかいてもしらないぞ。エルツはともかく、俺やおまえは、違うんだ」


「どういうこと?」


 イーアが聞き返すと、ケイニスは苦々しく言った。


「この黒い肌だ。奨学生試験の後で、魔導師たちからエルツと俺にきたオファーの数の違いを知っているか? エルツは俺より10も多かった。成績だけなら俺がトップなのに。この黒い肌を見て弟子入りさせようって魔導師は、ほとんどいなかったんだ。孤児であろうとエルツみたいに白い肌と青い目をもっていれば許される。でも、俺とおまえは違うんだ。俺達は、帝都で高級店に入ればぎょっとされ、路上で殺されても誰も気にしない。そういう人種なんだ」


 帝国では暗い色の肌をもつ者が差別される。

 それはイーアも知っていた。帝都ではただそこにいるだけでジロジロ見られたり、陰口かげぐちをたたかれたりすることも。


 それでも、イーアには実感があまりなかった。

 ナミンの家では人種なんて関係がなかった。

 グランドールでもそうだ。


「だいじょうぶだよ。アイシャの家だもん。来るのは学校のみんなだから、学校にいるのと同じだよ。それに、みんなでいっしょに恥をかけばいい思い出だって、昔ナミン先生が言ってたよ。ひとりじゃないから、だいじょうぶ。さ、行こう行こう」


 イーアはケイニスの腕をひっぱって、外へ連れ出した。



 学校の外の、いつも馬車がとまる所に、アイシャの家の豪華な馬車がとまっていた。

 立派な制服を着た御者ぎょしゃが無言で御者席に座っている。

 それを見て、ケイニスはふたたび眉をしかめた。

 

「こんな格好で行っていいのか?」


 イーア達は、いつもと同じ服の上にグランドールの制服のローブをはおっているだけだ。


制服ローブは学生の正装だよ」


 そうイーアは自信をもって言ったけど、ユウリはちょっと不安そうだった。


「実はぼくもちょっと心配なんだよ。アイシャは服については何も言ってなかったらしいけど、ドレスコードがあったらどうしよう」


「だいじょぶ、だいじょぶ。さ、乗ろうよ。立派な馬車だねー」


 イーアは馬車に乗りこみ、ユウリとケイニスも続いた。

 馬車は帝都郊外の道を走っていき、やがて、どこまでも続くような長い塀と大きな白い建物が見えてきた。


「なんか宮殿きゅうでんみたいな建物があるね。なんだろう」


 とイーアがつぶやいていると、馬車は、その宮殿のような建物に向かって進んでいき、大きな門を通過していった。

 そして、宮殿みたいな建物の豪華なエントランス前で馬車はとまった。


「これが、アイシャのお家?」


 大きすぎて、家に見えない。

 エントランスのところに、制服姿の従僕フットマンの男性が立っていた。

 「グランドール魔術学校の生徒さんですね。どうぞこちらへ」と言って、従僕がイーア達を館の中に案内した。

 イーアはキョロキョロしながら、ユウリは居心地が悪そうに、ケイニスは予想通りだと言いたげな不満顔で、赤いじゅうたんの上を歩いて行った。


 やがて、3人は大きなシャンデリアが輝く大広間に通された。

 室内にはすでに、イーア達と同じくらいか少し年上の少年少女がたくさんいた。

 同じ学年の知り合いもいれば、イーアが知らない人もいた。

 知らない人達は、たぶん貴族クラスの生徒たちだろう。

 楽隊が音楽を奏でていて、テーブルの上にはおいしそうな食べ物がたくさん並んでいる。

 イーアが見たことのないような料理もたくさんある。


「おいしそー!」


 イーアは目をキラキラさせて豪華な料理を見たけれど、ユウリは室内の人々を見ながら心配そうにつぶやいた。


「やっぱり、みんな正装している……」


 たしかに、言われてみれば、女の子はみんなドレスで、男の子はたいてい燕尾服かタキシードを着ている。


「だから言ったろ。正装を持ってもいない俺達が来るような場所じゃないんだ」


 ケイニスは不機嫌にそう言ったけど、イーアは気にせず言った。


「気にしない、気にしない。おいしそうだよ。ほら、食べよ、食べよ」


 その時、アイシャの声がした。


「イーアー」


「アイシャ?」


 イーアが振り返ると、そこには、スカートが大きくふんわり広がった豪華なドレス姿のアイシャがいた。髪型も普段と違って、一瞬、イーアは誰だかわからなかった。


「アイシャ! 全然ちがっててわからなかったよ。きれいだねー」


「えへへー。イーアも着がえるぅ?」


 しゃべったり笑ったりすると、いつものアイシャだ。


「え? わたしはいいよ」


 イーアはそれより、めずらしくておいしそうな食べ物を早く食べてみたかった。


「そーお? イーアの分のドレスもあるよぉ?」


「そうなの? ユウリとケイニス君のぶんもある?」


「お兄ちゃんのお古があるかもぉ。エルツ君の正装、見てみたいねぇ。聞いてみるねぇー」


 それから5分くらい後。3人はいったんパーティー会場を出て別の部屋に案内された。

 イーアはドレスがびっしり並ぶ小部屋に案内されて、アイシャとキャシーといっしょにドレスを選ぶことになった。


「こんなにたくさんドレスがあるの? これ、ぜんぶアイシャの?」


 まるで洋服屋さんみたいだ。

 キャシーも「信じられないよねー」と言ってうなずいている。アイシャは「えへへー。パパがねぇ、かわいいアイシャをもっと見たいって、どんどん買ってくれるから、増えちゃったのぉ」とのんびり言っていた。


 イーアはサイズがあうドレスの中から、一番シンプルで動きやすそうなものを選んだ。

 豪華なのは重そうだし、転びそうだったから。


 イーアが着替えてパーティー会場に戻ると、ユウリとケイニスも燕尾服姿になっていた。髪の毛もしっかりセットされている。

 背の高いケイニスはちょうど服のサイズがあっていて格好よく着こなしていたけど、ユウリはちょっとぶかぶかだった。

 それでも、燕尾服姿のユウリは、美少年っぷりがさらに増して、そして貴族の少年のような高貴な雰囲気を漂わせるようになっていた。

 周囲の女の子たちがユウリに視線を送っては何かささやきあったり、見惚れてため息をついたりしている。「うふふふー。やっぱり、眼福だねぇ」とアイシャもよろこんでいた。


 そのユウリは、イーアを見ると、目をパチパチさせて、とまどったように言った。


「イ、イーア……なんだか、とても、きれいだね」


「うん。きれいなドレスだよね」


「そうじゃなくて……」


 アイシャが「うふふふぅー」と満足そうに笑い、ケイニスが「いつも男みたいな格好だから、ギャップがすごいな」と小声でぼそりとつぶやき、ユウリがぼーっとした様子で「ドレス姿、初めて見た……」とつぶやいていたけど、イーアは聞いていなかった。


「さ、料理、料理。早く食べよ」


 イーアはさっそく料理のある方に向かった。


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