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86 冬至祭のプレゼント

 冬至祭の日がやってきた。

 冬至祭にはみんな、家族や親しい友達にカードやプレゼントを送り合う。

 グランドールでは、朝、郵便配達の人が来て、寮の受付に荷物を置いていった。

 イーアはユウリといっしょに受付で郵便物を受け取って、ユウリの部屋に行った。


 部屋の床にすわって、イーアはとどいた郵便物を確認していった。

 まず、ひとめでナミンの家からだとわかる、みんなが描いたかわいい絵のついた箱があった。


「ユウリ、ナミンの家から冬至祭のカードとプレゼントがきたよ」


 イーアはユウリにカードをわたして、それから、プレゼントをとりだした。

 ナミンの家のみんなからのプレゼントは、あちこちに穴のあいたへたくそな手あみのマフラーだった。

 イーアへのマフラーは赤と黄色、ユウリのマフラーは青と白の毛糸で編んであった。


「べつに穴なんていくつあいててもいいよね」


 イーアは毛糸のマフラーのあちこちの穴から両手の指をぜんぶ出してみた。


 他には、ホーヘンハインからユウリあてに大きな箱が届いていた。

 ユウリが箱を開けると、中から、たくさんのお菓子が入った箱と、冬至祭に食べるパイの箱と、フルーツケーキの箱と、高級素材のセーターと、ぬいぐるみが入っていた。

 ぜんぶ師匠からユウリへのプレゼントだ。


 ユウリの師匠がやたらとユウリにプレゼントを買い与えるのはいつものことだけど。

 イーアは、ユウリが次々にプレゼントをとりだしていくのを見ながら、なんとなく不安を感じていた。


 ユウリの師匠は、まるで家族のようにユウリをあつかっている。

 そして、ユウリもそれを当然のように受けとめている。

 なんだか、ユウリも師匠のことを家族だと思っているみたいに、イーアは感じる。

 ユウリは「師匠は貴族だから、貧乏なぼくに同情しているだけだよ」と言うけど。

 人並外れて優秀な孤児なら、養子にほしがる人は多い。

 ユウリほど優秀だったら、弟子入りだけじゃなくて養子の話がきていてもふしぎじゃない。

 ユウリの師匠は、本当にユウリを家族にするつもりなのかもしれない。


 もし、そうなら、イーアはユウリのためによろこぶべきだ、とわかってはいるけれど。

 でも、ユウリに新しい家族、貴族の家族ができたら……。

 イーアたちは、ユウリの家族でいつづけられるのだろうか?


 そんな不安を感じながら、それをかくしながら、イーアはパイの箱を手に取り、ユウリにたずねた。


「おかし、食べていい?」


「もちろん。これ、ひとりで食べる量じゃないよ。師匠、何を考えてるんだろう」


 イーアとユウリは、ベッドの上に並べられた、おかしとケーキの箱を眺めた。

 たぶん、二人で食べても1か月はかかるだろう。


「パーティーができそうだね。学校でパーティーをできるように送ってくれたのかな?」


「どうだろ。だけど、お菓子はみんなにあげるからいいけど……」


 ユウリは、かわいいクマのぬいぐるみを手に取って言った。


「これは。師匠、ぼくのことを子ども扱いしすぎだよ。何歳だと思ってるんだろ。もう13なのに」


「でも、かわいいよ。そのぬいぐるみ」

 

 イーアはふわふわのクマのぬいぐるみを手に取った。

 ぬいぐるみの胸のところに、名札みたいなものが貼りつけられていた。名札には「もちぬし」と書いてあるから、持ち主の名前を書くところみたいだ。


「名前を書くところがあるよ。あ、ペンもいっしょに入ってる。ユウリ、名前を書きなよ」


「ぼくはいらないけど。でも、せっかくくれたのに、師匠に悪いか」


 そう言って、ユウリはクマの名札に名前を書いた。


 ところで、イーアたちに届いた小包が、もう一つあった。


「あれ? これ、誰からだろう? わたしあてになってるけど」


 その小包に差出人の名前は書いてない。


「イーアの師匠から?」


 そうユウリは言ったけど。


「それはないと思う」


 ガリからのプレゼントじゃないことだけはたしかだ。

 ガリなんて、今日が冬至祭だってことすら忘れているんじゃないだろうか。むしろ、『人間の祭りなんぞ知らん。くだらん』とか言いそうだ。


 イーアは小包を開けた。

 中にはフード付きの黒いローブが入っていた。

 大人用のサイズの、大きな重たいローブだ。


「ローブ?」


 イーアが首をかしげながら、ローブを広げると、ユウリが驚いたように言った。


「イーア、このローブ……!」

 

 表面は刺繍ししゅうも何もない一見質素なローブだけれど、ローブの内側には、びっしりと魔導語や魔法陣がぬいこまれていた。

 ものすごく手間がかかっていて、ものすごく高価そうなローブだ。

 ユウリは言った。


「これは、マーカスがもっていた姿を隠せるローブだよ」


「そっか! マーカスが使ってたあの透明ローブだね」


 小包の中には、小さな冬至祭カードも入っていた。

 そこには、「俺はもういらないから、あげるよ」と署名もなしに書いてあった。その几帳面なきれいな字に、イーアは見覚えがあった。

 マーカスの字だ。

 イーアは首をかしげた。


「名前はないけど、これ、マーカスからだよね? マーカスからの冬至祭プレゼント?」


「地下で助けたこと、あれでも恩に感じていたのかな」


 ユウリも首をかしげながら、そう言った。

 たしかに、試験勉強の時も、マーカスはイーアを助けてくれた。

 マーカスはいつも通り、つんつんした態度だけど。実はけっこう感謝していて、マーカスなりにイーアにお礼をしようとしているのかもしれない。


 イーアはローブの裏を見ながらつぶやいた。


「でも、こんな貴重なもの、もらっちゃっていいのかな? 作るのすごく大変そうだよ?」


 ローブの裏の呪文や魔法陣は、イーアにはまったく理解できないほど、とても高度で複雑だ。

 魔法陣をぬいこんでいる糸も、きっと特殊な糸だ。布も糸も、普通の素材ではない。

 ユウリはうなずいた。


「うん。これ、たぶん、ものすごく貴重で高価な魔道具だよ。調べたけど、透明になれるローブって、普通には売っていない、とても貴重なものなんだ。だから、そもそもマーカスがどうやってこれを手に入れたのかが、ぼくは不思議なんだ」


「マーカスのお父さんは魔導士だから、こういうの作れるのかな?」


 イーアがそう言うと、ユウリは首をかしげた。


「どうだろう。普通の魔導士に作れるものじゃないと思うけど。マーカスはお父さんのことを三流魔導士って言ってなかった?」


「でも、いつでもイヤミで悪口ばっかのマーカスだよ? ほんとはお父さん一流かもよ?」


「たしかに、それはありえるね。だけど、ぼくが思うに、たぶんこれは……」


 同じことを考えていたイーアは、うなずいた。


「うん。<白光ロウシア>がマーカスに渡したのかも」



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