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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
6章 地下の迷宮

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78 石の戦士たち

 ドアの先は狭い通路になっていた。

 ドシンドシンと地を震わす重たい音が、どこかから響いていた。


「なんだ? この地響き」


 オッペンが不安そうにつぶやいた。

 狭い通路を進んでいくにつれ、地響きと重たい音がじょじょに大きくなっていく。

 しばらく行くと、ひらけた場所に出た。

 ユウリが魔法で辺りを照らしだした。


 出入口から少し進んだところに、下へと続く階段があり、その先には長い長いまっすぐな一本道がある。

 その長いまっすぐな一本道の先にはまた上へとあがる階段があって、こちら側と同じ位置に出入口がある。


 そして、一本道の両脇には、人の何倍もの大きさの巨大な戦士の石像が並んでいた。

 石像はそれぞれ、剣や槍などの形の石でできた武器を手にもっている。

 その石像たちの一部が動いていた。


 長い一本道の途中、こちら側に近いところ。

 両側に並ぶ石像の戦士たちが、真ん中の道に一歩踏みこんでは巨大な剣や斧を振りおろし、あるいは槍を突いている。

 素振りでもしているように、一歩踏みこんで武器をふるっては、また元の位置に戻る。石像の戦士たちはそんな動きをくり返している。

 さっきからの地響きは、この石像の戦士たちが踏みこんだ時の振動だった。

 今も石像の踏みこみが引き起こす振動が、地震のようにイーア達のいる階段の上をゆらしていて、気をぬくと転びそうなほどだった。


 イーア達は、眼下に広がるその光景をぼうぜんと眺めた。

 

「やべぇ……。こりゃ、この道は通れねぇ。もどろうぜ」


 いつもは無鉄砲なオッペンが、いさぎよくあきらめた。

 それほど、石像の戦士たちの迫力がすごかった。


「でも、きっとマーカスがここに……」


 イーアはつぶやきながら、石の戦士たちが動いている場所をよく見た。

 戦士の石像が振り回したメイスの先に、何かが見えた。


「あれ!」


「おい、あれ、生首じゃね!?」


 ほとんど同時に、オッペンもぎょっとしたように叫んだ。

 人の頭が低空を動いている。

 ユウリが冷静な声で言った。


「あれは、マーカスの頭だ」


 ユウリの言う通り、それはマーカスの頭だった。


「マーカスの生首かよ!」


 吹き飛んだマーカスの生首は、地面に落ちかけたかと思うともう一度浮かび、水平に移動を始めた。

 そして、その生首めがけて、石の戦士たちが、剣を振り下ろしたり、槍を突き出したりしている。


「マーカスの生首が動いてるぞ!?」


 叫ぶオッペンに、ユウリは冷静な声で言った。


「違うよ。マーカスはたぶん透明になるローブか何かで姿を消していたんだ。頭だけ、その効果がなくなってぼくらの目に見えるようになったんだよ」


「なんだ、そういうことかよ。生きてんのかよ」


 オッペンはほっとしたようにそう言ったけど、ユウリは淡々と言った。


「今はね。このままいけば、マーカスはじきに死体になる」


 頭しか見えないけど、マーカスは石像の戦士たちにおそわれ続けている。

 ユウリの言う通り、このままじゃ、マーカスが巨大な剣や斧で叩き潰されるのは時間の問題だ。

 イーアは叫んだ。


「マーカス! 早くこっちに戻って!」


 イーアの声が聞こえたのか、マーカスは一瞬こちら側を見た。

 だけど、マーカスはすぐにイーア達がいるのとは反対側に向かって動き出した。


「マーカス!」


「あいつ、すっげぇ、へそ曲がりで意地っ張りだもんな。死んでももどらねー気だな」


 オッペンがゆれる地面に座りながらつぶやいた。

 マーカスはたしかにそういう性格だけど、戻らなければ本当に死んでしまう。

 イーアはもう一度大声で叫んだ。


「マーカス! 無理だよ! こっちに戻って!」


 石像の戦士の一体が、マーカスの頭の少し下をなぎ払うように、水平に石の槍をふるった。

 マーカスは吹き飛ばされ、こちら側にむかってかなりの距離を飛んで、階段のふもと近くの地面に落ちた。

 即座にマーカスが落ちた地点近くの石像が動きはじめた。マーカスは動かない。

 石像の戦士の巨大な足が、動かないマーカスを踏みつぶそうとしていた。


『オクスバーン! マーカスをこっちに投げて!』


 召喚しながら、イーアは、(間に合わない)と思った。

 オクスバーンは、いつもあらわれるまでにけっこう時間がかかる。

 きっと、オクスバーンがあらわれる前に、あの石像の巨大な足がマーカスを踏みつぶしてしまうだろう。


 だけど、今回は呼ばれるのを待っていてくれたのか、召喚した瞬間すぐに巨大な霊樹が階段に出現した。

 オクスバーンの長い枝が、石像の足の下に消えようとしていたマーカスをつかんで引っ張った。

 ほとんど同時に、石像が地面を踏みしめる重たい音と振動が響いた。


(マーカスは!?)


 マーカスの頭は、オクスバーンの枝の中だった。

 

『最近の子どもたちは、過激な遊びが好きじゃのぉ』


 オクスバーンの枝がしなり、マーカスの頭がイーアたちの近くに飛んできた。

 マーカスの頭へ、イーアとユウリは駆けよった。

 マーカスは目をつぶったまま動かない。

 どう見ても、斬首された後の生首のように見える。

 だけど、イーアがマーカスの頭の下の何もないように見える空間に手を置くと、そこにはマーカスの体らしきものがあった。

 ユウリが透明にみえる空間を手探りで引っ張った。

 マーカスの体が出現した。


「やっぱり、ローブで透明になっていたんだ」


 そう言いながらユウリはマーカスのローブを完全に脱がし、マーカスの状態を確認した。


「意識はないけど、息はしている。石像の戦士の攻撃を受けていたから、腕や肋骨は折れてるかもしれないけど。魔法で強化してたんだろうな。ふつうなら攻撃を受けて飛ばされた時点で死んでるはずだけど、ちゃんとまだ生きてるよ」


 石像の戦士たちは、追いかけてはこない。

 一番階段に近いところにいる石像だけはまだ動いているけど、階段をのぼってくることはない。

 イーアはほっと息をはいた。

 無事にマーカスを救出できたみたいだ。


『ありがとう、オクスバーン。またね』


『うむ。またのぉ』

 

 イーアが今日2回目のお礼を言うと、オクスバーンは枝をふってうれしそうに笑いながら姿をけした。



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