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77 モルドーからの警告

「イーアが、怪物を消しちまったぜ?」


 後ろの方から、オッペンの声が聞こえた。

 イーアが振り返ると、ちょうどオクスバーンがオッペンを床におろしたところだった。


『オクスバーン、ありがとう』


『それでは、またのぉ』


 オクスバーンは枝をふって、消えていった。


「ユウリ、オッペン、ケガは?」


 ユウリは落ち着いた声で言った。


「ぼくはだいじょうぶ。オッペンは?」


 オッペンは靴と靴下を脱いで、足を確認した。


「おれも大丈夫だぜ。足がしもやけになっちまったけど」


 オッペンの足は赤くはれていて、しもやけというより、かなりひどい凍傷になってしまったようだ。

 オッペンは気まずそうに頭をかいて、意気消沈した声で言った。


「また情けねぇとこ見せちまったな。修行して、次こそかっこよく戦うつもりだったんだけどさ」


 落ちこんでいるようすのオッペンをなぐさめようと、イーアは言った。


「気にしなくてだいじょうぶだよ。だって、オッペンがかっこよく戦っているところとか想像つかないもん。予想通りだよ」


 最初から、戦闘になったらユウリとイーアでオッペンを守るつもりでいた。

 だけど、とたんに、オッペンがまるでダメージを受けたようなようすで叫んだ。


「うごっ! イーア、おれは落ちこんでるんだから、なにげなくきついこと言うなよ!」


「ご、ごめん。つい本音を言っちゃった」


「本音ってとこが一番きついんだよ……。おれってそんなにダメそうか?」


 イーアは何も言わなかった。

 さらに本音を言えば、「オッペンはもう強くなるのはあきらめて占い師になったほうがいいんじゃないかな。占いは先生よりもすごいから」とイーアは思っているけど、さすがにそうは言えなかった。

 なんとなく、オッペンが強さや戦闘力にこだわるのは、男の子らしい単純な強さへの憧れだけじゃなくて、戦死したお父さんのこともあるような気がしていたから。


 オッペンの足のケガを治すため、イーアはアロアロを召喚した。

 アロアロは治癒成分のしみでる長い葉っぱでオッペンの足をこすってくれた。


「足が治っていく感じがする! すげぇな」


 オッペンはよろこんでいる。ほめられたアロアロもよろこんでいる。

 その様子を見ながら、イーアは魔力切れの疲労感を感じていた。

 戦闘中の召喚に加えて、オルゾロを帰還させるのにも魔力をつかってしまった。

 たぶんイーアの魔力はもうほとんど残っていない。

 青いチルランはイーアの傍にいるけど、魔力の回復量はごくわずかだ。


(今のうちに回復しておかないと)


 イーアは残っていた魔力で普通のチルランとレントンの木を召喚した。

 魔力回復効果のあるレントンの実を食べると、イーアの魔力は少し回復した。でも、満タンとはいかない。もう今日はほとんど召喚できないだろう。


 オッペンのケガの治療が終わり、召喚した精霊たちを帰したところで、「さぁ、かえろう」とユウリが言った。


 帰るべきだと、イーアも思っていた。

 ユウリもほとんど魔力を使いはたしているはずだ。

 次、戦闘になったら、もうまともに戦えないかもしれない。

 しかも、きっと、この先はさらに危険な場所だ。


「うん……。だけど……」


 イーアは閉じられた巨大な扉の方を見て言った。


「あの扉、誰かが通っていったんだよね。わたしたちにも、オルゾロにも気がつかれずに、ここを通過して、むこう側から扉を閉めた……」


 たぶん、侵入者は白装束の魔導士ではないだろう。

 ユウリが冷静に、イーアが考えていたのと同じことを言った。


「たぶん、マーカスが通って行ったんだ。マーカスは姿を消せるから。ぼくらに気がつかれずに後をつけてきたのかもしれない」


「なんだって!? じゃ、マーカスの野郎に先をこされちまうじゃねーか! お宝が!」


 オッペンはそう叫んだ。

 でも、心配なのはそんなことじゃない。

 伝説のドラゴンが守っている物をマーカスなんかが奪えるはずがない。

 心配なのは、マーカスの命だ。


「だいじょうぶかな。マーカスひとりで」


 ここはグランドールの先生だって死んでしまう場所だ。

 この先にいるはずのモルドーが、侵入者であるマーカスを許すとは思えない。

 きっと、マーカスは殺されるだろう。

 ユウリは冷たく言った。


「あんなやつの心配をする必要はないよ。どうなったって自業自得だ。帰ろう」


「でも、マーカスにお宝を見つけられちまうかもしれねーぜ? マーカスには負けらんねぇ! 帰る前に、あいつをつかまえようぜ!」


 オッペンはいつも通り、突撃していくことしか考えていない。

 一方、ユウリの表情は、断固として「帰ろう」と言っていた。


 イーアは、「帰ろう」とは言えなかった。

 マーカスが嫌な子なのはまちがいないけど。それでも、マーカスはクラスメイトだ。

 クラスメイトが殺されると予想しながら放っておくことは、イーアにはできなかった。


 イーアは巨大な扉のところへ行き、扉を開けようとした。

 でも、巨大な扉は押しても引いても開かなかった。

 マーカスが向こう側からカギを閉めてしまったのだろう。


 (あきらめるしかないのかな)とイーアは思った。

 ところが、その時、重たい金属がこすれるような音が次々と鳴り響いた。

 イーアがもう一度押すと、巨大な扉はわずかに開いた。


「気をつけよう。罠かも」


 ユウリが警戒した声でそう言った。

 イーア達は大扉の先に進んだ。


 大扉の向こうは、さっきの空間よりは小さいけれど、それでもかなり広い空間だった。

 天井がとても高く、上の方に大きな横穴があいていた。

 その大きな穴の暗闇からは精霊がひしめく気配がしていた。


 地面には岩があちこちに落ちていて、隅の方にはオルゾロの寝床だったらしい場所がある。

 部屋の奥には小さな、いや、普通のサイズのドアがあった。

 さっきの扉が巨大だったから普通の大きさのドアが小さく見える。


 突然、ギャーッ! と不気味な悲鳴のような音が響いた。


「なんだ!?」


「壁に何かいる!」


 壁の高いところ、天井近くの大穴の近くに、巨大なトカゲのような霊獣が張り付いていた。

 さっきの悲鳴みたいな音は、あの霊獣の発した鳴き声だったようだ。

 攻撃魔法を唱えようとするユウリを、イーアはとめた。


「待って。話してみる」


 イーアが話しかける前に、巨大なトカゲみたいな霊獣の精霊語が降ってきた。


『岩竜モルドー様からの警告だ。ウェルグァンダルの子よ。これ以上進んではならない。侵入者はたとえウェルグァンダルの子であろうと容赦なく殺す』


 モルドーはイーアがウェルグァンダルの召喚士だと気がついているらしい。

 そして、『来るな』と警告を送ってきた。

 モルドーと話をするのはむずかしそうだ。

 だけど、今は、それより……。


 イーアは巨大なトカゲのような霊獣にたずねた。


『教えて。この先に人間がいなかった?』


 霊獣は少し考えているようすで細長い舌をすばやく出し入れしてから言った。


『いた。透明な弱そうなやつがひとり。臭いはたしかに人間だった。その奥のドアを通過した先にむかったぞ。アレはじきに死ぬ。次の石像の間で死ぬか、そうでなければ、我らが殺す。ただの侵入者に容赦はしない。お前はウェルグァンダルの子だから、見のがしてやるのだ』


『あの子を連れて帰るから。それまで待って!』


 巨大なトカゲのような霊獣は再びギャーッ! と悲鳴のような声で鳴いて言った。


『俺は伝言を申し付けられただけだ。連れて帰るなら、早くしろ。もたもたしているようなら、おまえ達の命もないものと思え』 


『ありがとう!』


 イーアはユウリとオッペンに言った。


「大丈夫。トカゲさんは敵じゃないよ。早くマーカスを連れて帰ろう」


「あの見た目と鳴き声で敵じゃねーのか? むっちゃ凶悪な魔獣っぽいぜ?」


 「霊獣さんはみんな話せばわかってくれるんだよ」とオッペンに言いながら、イーアは奥のドアを開けた。

 「いや、でも、ふつうは魔獣と話せねーから」というオッペンの声を聞きながら、イーアは急いでその先へと進んだ。


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