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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
6章 地下の迷宮

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75 双頭の狼

「おれたち何もしてねーぞ? なんで扉が勝手に開くんだ!?」


 ちょうどオッペンがそう叫んだ時。開いた巨大な扉の向こうから、大きな大きな狼がとびだしてきた。

 でも、ただの狼じゃない。

 その巨大な狼には、頭がふたつあった。


「魔獣だ!」


 双頭の狼の体は馬車のように大きく、胴体は一つで足は4つだけど、頭と尻尾は2つあった。

 体の半分が赤い毛並みで、もう半分は青みを帯びた色だ。

 半開きの口からは鋭い牙がのぞいていて、そして、赤い頭の口からは赤い炎が、もう片方の青い頭の口からは、白い煙がもれでている。


 双頭の狼の二つの口から唸り声がとどろいた。


『侵入者!』


 とどろく声にダメージを受けたように、双頭の狼に一番近い位置にいたオッペンが地面にへたりこんだ。

 オッペンの悲鳴のような声が響いた。


「か、体が動かねぇ!」


 ユウリは杖を取り出しながらオッペンの方へ走り、イーアは『友契の書』を取り出しながら、精霊語で双頭の狼に話しかけた。


『狼さん、怒らないで! すぐに帰るから!』


 狼の二つの頭が、ほとんど同時にほえた。


『侵入者は通さない!』『侵入者は許さない!』


 双頭の狼は興奮した様子で、話が通じそうになかった。

 狼の口からもれでる炎が大きくなっていく。そして、激しく燃えさかる炎の塊がはきだされ、へたりこんだままのオッペンめがけて炎塊が飛んでいった。


「<水壁>!」


 間一髪、ユウリがオッペンの前に出現させた水の壁が炎塊をさえぎり、オッペンは黒こげにならずにすんだ。

 ユウリがオッペンの傍にかけよりながら叫んだ。


「ぼくがせきとめる。早く逃げろ!」


 だけど、その時すでに双頭の狼はオッペンに向かって突進していた。

 狼の赤い頭は炎を吐き、青い頭はオッペンにかみつこうと大口をあけている。


 ユウリが狼より一瞬先にオッペンをつかみ、移動魔法で横によけた。

 双頭の狼の爪と牙が空を切り、狼の青い頭が悔しそうにうなり声をあげた。 


 だけど、移動した先で倒れこんだオッペンの右足は凍りついていた。青い頭の攻撃は、かすっただけで凍らせてしまうみたいだ。

 ユウリの方は負傷はしていない。だけど、ローブが炎で焼けこげている。


「チクショウ! こおっちまった!」


 オッペンは凍りついた靴を脱ごうとしたけど、脱ぐことはできなかった。

 あの足じゃ、たぶんオッペンは走って逃げることはできない。


 双頭の狼はすぐに向きを変え、ユウリ達に向かって炎の弾を吐いた。

 ユウリはすぐさま呪文を唱え、狼の放った炎の塊に向けて、大きな水塊をとばした。

 水と炎が相殺されて空中で消えた。


 ユウリの自然魔法はまた一段と上達している。

 だけど、ユウリは双頭の狼の攻撃に対応できているものの、オッペンを守るのでせいいっぱいだ。 

 加勢をするため、イーアは大風船魚ドプープクを呼んだ。


『ドプープク! あの狼を気絶させて!』


 出現した2匹のドプープクは、怒ったような顔でふくれあがりながら、双頭の狼に向かって飛んでいった。

 青い狼の頭が、飛んでくるドプープクにかみつき、かみつかれたドプープクは激しい音とともに破裂した。

 だけど実はこの破裂が、ドプープクの攻撃だ。

 ドプープクは破裂して近くにいる者を気絶させる。……破裂した後どうなるのかイーアはよく知らないけど、ドプープクは死んじゃうわけではない。ふくらんだり破裂するのは外側の皮だけらしい。


 ドプープクの破裂の直撃を受けて、双頭の狼の青い頭は気絶した。

 でも、もう一つの、炎を吐く赤い頭は意識を失っていない。

 赤い頭は大きく長い炎のブレスを吐き、残りのドプープクは炎に飲まれて姿を消した。


 双頭の狼は気絶してぐにゃりとたれさがった青い頭をぶらさげたまま、ふたたびオッペンに向かって突進していった。

 ユウリが「伏せろ!」とオッペンに言ってから、杖を持った手を双頭の狼に向け叫んだ。


「<吹き飛ばせ、爆裂爆風>」


 巨大な狼の体が吹き飛ばされて空中を舞い、同時に、ユウリの体も反対側に飛んでいった。

 吹き飛ばされた双頭の狼は、そくざに態勢を立て直した。だけど、その時にはユウリは床に転がったまま追撃の魔法を唱えていた。


「<切り裂け、空裂波>」


 空中を切り裂くような風魔法の攻撃が双頭の狼にむかっていくつも飛んでいき、双頭の狼の毛先をわずかに切り裂いた

 だけど、双頭の狼はダメージは受けずにその攻撃をよけ、そして、ふたたびオッペンの方へと突進していった。


「オッペン!」


 逃げられないと悟ったオッペンは自分に防御魔法をかけながら、体を小さく丸めた。

 でも、オッペンの防御魔法で、あの双頭の狼の攻撃を耐えるのは無茶だ。

 オッペンは骨までかみ砕かれてしまうだろう。


 双頭の狼が大きな口でオッペンの頭に噛みつこうとした時。

 少し前にイーアが呼んでいたオクスバーンの巨大な影があらわれ、振りまわした大枝が双頭の狼の赤い頭をぶっとばした。

 双頭の狼はよろめき情けない声で鳴き、オクスバーンの追撃がとんでくる前に後方に大きくとびずさった。


『なんとも。このチビッコはよく襲われるのぉ』


『ありがとう、オクスバーン! このままオッペンを守って!』


 オクスバーンは長い枝でオッペンをつかんでもちあげて、自分の枝の上に乗っけた。

 これで、オッペンのことは一安心だ。


 双頭の狼が少し離れたところで咆哮ほうこうをあげた。

 今は、さっきまで気絶していた青い頭の方も意識をとりもどしている。


『あの獣はタフそうじゃのう』


 オクスバーンはそうつぶやいた。


『うん』


 イーアは冷静に状況を判断していた。

 ユウリもいるから、なんとかあの双頭の狼を倒せるかもしれない。だけど、その戦いは不確実で、危険だ。ティトを呼べば確実に勝てるだろうけど、そこまではしたくない。

 だって、そもそもあの狼を倒す必要がないのだ。

 イーアは早く双竜模様の扉のところまで戻りたいのだから。


 イーアはオクスバーンの枝の上にあがりながら、ユウリに声をかけた。


「ユウリ、オクスバーンに投げてもらって距離をとれば、たぶん、ペテラピに乗って逃げられるよ」


 双頭の狼のスピードはそれほど速くない。

 オクスバーンに双頭の狼の足止めをしてもらって、ペテラピのフモシーに全速力で走ってもらえば、逃げ切れるだろう。

 ユウリは言った。


「先に行って。さっきの大ウサギに3人乗るのは無理だ。ぼくが足どめする」


「だいじょうぶ。ペテラピは3匹呼べるよ」


 ところが、その時、予想外のことが起きた。

 奥にある巨大な扉が閉まっていき、双頭の狼のふたつの顔が、閉まっていく大扉のほうにふりむいた。


『まさか!』『侵入者!?』


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