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72 守護双竜の扉

 階段をおりた先は、大きな円形の部屋だった。

 部屋の中を一周ぐるりとまわってみたけれど、どこにも扉はない。

 イーアは首をかしげた。


「この先は、ない?」

 

「戻ろうぜ。きっと、マーカスが進んだのは、こっちじゃなかったんだ」


 オッペンはそう言ったけど、ユウリは言った。


「またどこかに隠し通路があるんじゃないかな。今回は、地図の形から見つけることはできないけど」


 だとすれば。

 イーアはオッペンにたのんだ。


「オッペン、またダウジング・ロッドで探してみて」


「いいけどよ。んなに、ひょいひょい見つかるもんじゃねぇだろ?」


 たしかに、ダウジングや占いは、そんなに当たるものではない。

 当たるも八卦当たらぬも八卦。

 さっき当たったからといって、次も当たるとは限らない。

 でも、イーアは、はげましではなく本気で言った。


「きっと、オッペンならできるよ」


 あの学園祭の時から、イーアは感じていた。

 オッペンの占術の才能は、たぶん、本人が思っているよりずっとすごい。


 そして、数分後。

 オッペンは、本当に壁の中の怪しい石のブロックを探し当てていた。

 ユウリがその石を押すと、円形の部屋の壁の一部がへこんだ。


「やっぱりオッペンのダウジングはあたるね」


「オッペンがいなかったら、きっと、これを見つけるのに何日もかかったよ」


 イーアとユウリがほめると、オッペンは微妙そうな表情で、断固として言った。


「役にたてたのはよかったけどよ。おれは占いなんてみとめねーぞ。おれはかっこいい魔法戦士になるんだからな」


 ユウリはへこんだ壁の先を光で照らしだした。

 すぐそこにまた壁がある。

 その壁は他と材質が違って青く美しく、小さなカギ穴があいていた。

 ユウリがつぶやいた。


「カギが必要みたいだ……」


 オッペンはダウジング・ロッドを振り回しながら言った。


「けっきょく入れねーのかよ」


 イーアは、見おぼえのある深いきれいな青色の石でできた壁を見ながら思った。


(この壁って、ひょっとして、モンペル……?)


 イーアは精霊語で話しかけた。


『モンペル、ここを通りたいんだけど、通らせて?』 


 すると、壁の中から小さな声が聞こえた。


『だめだもん。通らせないのが仕事だもん』


 (よかった。このモンペルはしゃべってくれる)と思いながら、イーアは言った。


『でも、その先に誰かいるよね? 今日、誰かここを通ったよね?』 


『うん。カギか合言葉があれば通すもん』


 やっぱり、マーカスはこの先に進んだようだ。


『合言葉って何?』


『教えられないもん』


 さすがにそれは教えてくれなかった。

 イーアは人の言葉でユウリとオッペンに告げた。


「マーカスはこの先にいるみたい。ここで待ってたら、マーカスが帰ってくるかも」


「できれば、マーカスには見つかりたくないな。一度戻って、また入り口で待ち伏せしよう」


 ユウリはそう言った。だけど、イーアはこの先にもうひとつ別の用事があることを思い出した。

 岩竜モルドー。

 コプタン達によれば、これまでの階にモルドーはいなかった。

 だとすれば、モルドーがいるのはこの先のはず。

 イーアはモンペルにたずねた。


『モルドーは、この先にいる?』


『モルドー様に会いたいの?』


『うん。モルドーに会いたい』


 突然、モンペルの口調がかわった。


『汝何を欲するか?』


『何も欲しくないよ? ただモルドーと会って話を……』


 イーアが言い終わる前に、モンペルたちがバラバラになって動き出した。


『なんで……?』


 イーアがおどろいてつぶやくと、モンペルの小声が聞こえた。


『何も欲しくない、が合言葉だもん』


 バラバラになったモンペルたちは通路の横の壁ぎわへと跳びはねるように移動していった。

 イーア達の行く手を阻んでいた青い壁は消えた。


「壁がなくなったぜ? イーア、どうやったんだよ?」


 オッペンがおどろいていたけど、イーアは説明しているひまがおしいので、先に進みながら一言ですませた。


「お話しただけ。行こう」


 そこから先は、いつマーカスに遭遇するかわからないから、なるべく静かに進んだ。

 しばらく後。

 いらだった声が聞こえた。


「クソッ! なんであかないんだ!」


 イーアは口もとにひとさし指をやってオッペンとユウリに「静かに」と合図し、そっと足音をたてずにひとり先に進んだ。

 その先の曲がり角からイーアはそーっと頭を出し、声がした方向をのぞきこんだ。


 その先の通路はランプで明るく照らしだされていた。

 だけど、その先には誰もいなかった。いや、誰の姿も見えなかった。

 誰かいるのはまちがいない。

 ふたたびつぶやき声が聞こえた。


「カギになる宝玉はあるのに、何度試しても……」


 廊下の先には大きな扉があった。扉の上部と下部にドラゴンの模様が刻まれている。

 扉の中央付近には丸い宝玉が3つはめこまれていた。

 そのうちのひとつ、青い宝玉が見えない手で取り外された。次に赤い宝玉、黄色い宝玉も取り外された。

 それからもう一度3つの石玉が扉のくぼみに取り付けられた。

 だけど、なにも起こらない。

 いらだった声が聞こえた。


「クソッ。もう何十通りもやってみたぞ。試してない組み合わせ何てないはずだ……。やっぱりカギが足りないのか? くぼみが1つ残っているもんな。でも、先生はこの3つしかないって……。どこかに隠されているのか……? どこに……」


 イーアは指でユウリたちに「戻ろう」と合図をして、双竜模様の扉付近から離れた。

 モンペルの壁を通り、円形の部屋の階段まで戻ったところで、イーアは報告した。


「マーカスはあの先の扉を開けて進もうとしているけど、カギがなくて進めないみたい」


「カギ?」


「見た目は、まるいきれいな石だったよ。その宝玉を扉のくぼみにはめこむみたいだけど、一つたりないみたい。上の階でコプタンに探してもらおうかな」


 階段をのぼりながら、ユウリは言った。


「その扉、開けないほうがいいってことはないかな? あかないなら、このまま放っておけばいいんじゃない?」


「開けなきゃお宝を見つけらんねーぜ。それに、おれたちがカギを見つけなかったら、先にマーカスに見つけられちまうかも」


 オッペンがそう言い、イーアはうなずいた。


「うん。マーカスが見つける前にカギは見つけておかないと。それに、モルドーはたぶんあの先にいるから……」


 イーアはあの先に進みたい。モルドーに会ってモンペルと召喚契約を結ぶため、そして、ここに何が隠されているのか知るために。

 でも、同時に感じていた。

 モルドーがあの先にいるとしても、いや、むしろ、いるからこそ、あの扉は開けてはならないのかもしれない。


 だけど、どっちにしろ、カギは手に入れた方がいい。

 マーカスと白装束の魔導士たちの好きにさせてはいけない。


 とりあえず、イーアは上の階の、マーカスが来そうにない場所まで移動して、コプタンをもう一度呼んだ。

 イーアが『まるい石を探して。これくらいの大きさのきれいな石だよ』と頼むと、コプタン達は、自信満々に色んな石を集めて持ってきてくれた。


『あったよ~』

『ポクの石、きれいでしょ』

『こっちのほうがきれいだよ』


 だけど、コプタンたちが持ってきてくれたのは、どれもただの石か、きれいなビーズや宝飾品だった。

 さっきの扉のくぼみにはめられそうな感じの石玉ではない。

 イーアはお礼を言ってコプタン達に帰ってもらった。

 コプタン達に探してもらっている間に、オッペンもダウジング・ロッドで探してみたけど、何も見つからなかった。


「カギは、ここにはなさそうだね」


 イーア達はとりあえず今日は地下の探索を切り上げて寮に戻った。



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