71 隠し通路
イーアは地下に入ってすぐにアプタンを呼び出して、偵察をお願いした。
しばらく待つと、さっそくアプタンが報告してくれた。
『巨人いたよ~』
イーアはアプタンに地図をもってもらって場所を確認した。
地図の左上あたりに人のマークがある。
前回も、その辺りにマークが浮かんでいた。マーカスはいつも同じ場所に向かっているようだ。
イーア達はその場所をめざして進んでいった。
グランドールの地下は複雑なつくりで、地図がなかったら迷子になっていそうだった。
途中で、以前、白装束の魔導士ザヒと戦闘になった大広間を通過した。
イーアは歩きながら、思わずしみじみとつぶやいた。
「ここでオッペンが殺されかけたんだよね……」
「たのむから、もう忘れてくれって!」
オッペンはそう言ったけど。
(忘れられないよ。ほんとに大変だったんだから)と思いながら、イーアは大広間を歩いて行った。
やがて、目的地についた。
すでにマーカスはいない。
マーカスは透明になっているから、いたとしても見えないけど。オッペンが両腕をふりまわしながら辺りを走りまくって確認したから、マーカスがいないのはたしかだ。
「マーカスはどこかな? ここ、行きどまりだよね」
イーアがつぶやくとなりで、ユウリは地図を見ながら首をかしげた。
「この地図の形、奇妙だな。ここだけへこんでる。この壁の向こうに何かありそうな形だよ。<発光>」
ユウリは近くの壁を照らした。
よく見ると、石壁に文字らしきものが刻まれていた。
でも、イーアは知らない文字だ。
「この文字は、たぶんギアラド王国のだ」
ユウリがそう言うと、オッペンはうれしそうに言った。
「じゃあ、やっぱここにはギアラド王国のお宝があるってことだな? おれ達でお宝、見つけよーぜ! マーカスには負けねぇぞ」
「宝、ならいいけど。何が眠っているか、わからないよ。地下で行方不明になった先生の話もある……。この地下には何かあるのかもしれない」
ユウリが心配そうにそう言うのを聞いて、イーアは今までユウリたちに言い忘れていたことを思い出した。
「そういえば、ふたりには言ってなかったけど。この地下にはドラゴンがいるかも」
「ドラゴン!?」
オッペンとユウリがぎょっとした顔でイーアを見た。
「ひょっとして、前にイーアが地底竜モルドーについて知りたがっていたのって……」
おそるおそる、そうたずねるユウリに、イーアははっきりと言った。
「うん。ここにモルドーがいるかもしれないから、聞いたんだよ。わたしは、モルドーと会って話をしたいんだ。召喚の契約をするために」
ユウリはものすごく困った表情でぶつぶつとつぶやいた。
「ドラゴンってものすごく危ない……。しかも伝説のドラゴン、モルドー……。そんなのと遭遇したら、そりゃ先生でも生きて帰れないよ。ぼくはそんな危険なところに行きたくないけど……。イーアが行くっていうなら、ひとりでは行かせられないから……」
一方、オッペンは元気に独り言を言っていた。
「ドラゴンか。ますますお宝がありそうな感じがするな。わくわくするぜ!」
さて、イーアは壁に刻まれた文字をもう一度見た。
「なんて書いてあるかわからないけど、ここ、あやしいね……」
イーアは壁を叩いてみた。そこには、たしかに壁がある。
だけど、グランドールの校舎の階段下の入り口だって、結界が張られている時は、そうだった。見た目にも、触った感じも、ちゃんと壁があるように感じられたのだ。
ユウリは言った。
「結界が張られているなら、どこかに結界を解除する仕組みがあるはずだ」
「近くにスイッチがあるかもね」
でも、周囲にはそれらしきものは見当たらない。
イーアはそこで思い出した。
「そうだ。オッペン、シャヒーン先生がかしてくれたダウジング・ロッドを使ってみようよ」
「そーいや、変な棒を渡されたんだっけな」
そう言いながら、オッペンはローブのポケットから、直角に曲がった棒を二本取り出した。
これがダウジング・ロッドだ。探し物を見つけるのに使えるらしい。
シャヒーン先生は「こいつはすごい魔道具なんだよ。あんたにゃ豚に真珠かもしれないけどね。大事にしておくれよ」と言いながら、オッペンにこのダウジング・ロッドを貸してくれたのだ。
オッペンは両手に曲がった棒を一本ずつ持った。
「こうすんだっけ? でも、こんな棒でわかるわけねーよな。あやしー話だぜ。ったく、占術って地味であやしいのばっかだよな。やっぱ魔法はバーンと火焔魔法とか爆発魔法とか、かっこよくて強いのが一番だぜ」
オッペンはそんなことを言ってふらふらしているので、イーアは声をかけた。
「いいから、オッペン。集中して探し物のこと、隠しスイッチのことを考えて」
「あいよ。えーっと、隠しスイッチ、隠しスイッチ……つってもさぁ、んなもん、あるかもわかんねーのに」
オッペンはそう言いながらイーアの前を歩きだした。
すると、オッペンが手に持つ棒の先がひょいっと動いた。
「あ、動いた」
「こっちか?」
オッペンは棒の指し示す先に向かって歩いて行った。
イーアとユウリはオッペンの後をついていった。
少しして、オッペンは壁の前で立ちどまった。
オッペンの持つダウジングロッドの先端は、石づくりの壁に向いている。
「壁にぶつかっちまったぜ。なんもねーな。やっぱ、こんな棒でわかるわけねーよ」
オッペンはそう言ったけど、ユウリはダウジング・ロッドの指し示す先にあった、壁の中の石に手を伸ばした。
「この石、動きそうだよ」
ユウリはその石を横にスライドさせた。
イーアは、さっきのあやしい壁のところに走っていった。
文字が刻まれていた所のとなりの壁がなくなっていた。
その先に、下りの階段が見えた。
「壁がなくなったよ。やったね!」
「マジかよ。この変な棒で?」
オッペンは信じられないというように、自分の手の中のダウジング・ロッドを見た。




