70 入部届
翌日の放課後、イーア達はシャヒーン先生の部屋にいた。
シャヒーン先生は、今は不在だ。さっき、「ちょいっと用事があるから、部屋で待ってておくれ」とイーア達に言って去って行った。
イーア達は、マーカスについて話していた。
昨日、マーカスと会った後、オッペンとユウリがお風呂場に入って中を確認したけど、他には誰もいなかった。
ユウリは結論を言った。
「たぶん地下にいたのはマーカスだ」
「マーカスが白装束の魔導士……強盗の仲間ってこと?」
イーアがたずねると、ユウリは冷静に言った。
「それは、どうかな。マーカスは学園祭の日はコンテストで忙しかったはずだ。そうじゃなくても、マーカスにはあの階段下の入口の結界は解けないよ。だから、シャヒーン先生が言ってた学園祭の日に強盗に協力した犯人は、マーカスじゃないはずだ」
オッペンが無邪気に言った。
「じゃ、あいつ、探検してただけかもな。やっぱ、地下迷宮の探検とか、男のロマンだもんな。見つけたら探検しねーと」
ユウリは首をひねった。
「ぼくはそんなに魅力を感じないけど。それより、イーアが林の中で聞いた会話、あの時のひとりがマーカスってことはない?」
「声はほとんど聞き取れなかったからわからないけど……。じゃあ、あの時のもう一人の人に言われて、マーカスは地下の調査をしてるってこと?」
「うん。ぼくはそう思う。マーカスが姿を消す魔法なんて使えるとは思えないし、ひとりであの入り口を見つけたとも思えない。誰かが必要な物をあたえて指示を出しているんだよ。だけど、マーカスといえば……」
ユウリが眉間にしわをよせて何かを言いかけたところで、ドアが開いた。
シャヒーン先生が意気ようようと帰ってきた。
「なんだい。難しそうな顔をして。エルツ、そういう顔は、あんたの歳には似合わないよ。もっとオッペンの何も考えてなさそうな面を見習いな」
シャヒーン先生は上機嫌にそう言いながら、数枚の紙をイーア達の前のテーブルに置いた。
「さぁて、あんたたち、これにサインしな」
「なんですか? これ」
イーアがたずねると、シャヒーン先生は言った。
「入部届だよ。あたしが監督をする占星術部の」
「入部届!?」
「先生。おれら、占星術部になんて入らねーぞ?」
オッペンが口をとがらせて文句を言うと、シャヒーン先生はほがらかに言った。
「だいじょうぶさ。マジーラとは話をつけてきたよ。ドルボッジ部と掛け持ちOKだ」
(全然大丈夫じゃない!)と、イーアは心の中で叫んだ。
先生たちはなんだか大いなる誤解をしているみたいだ。
イーアの前にユウリが即座に強く言った。
「ぼくはドルボッジ部になんて入りません。絶対に。……だけど、占星術も向いていないので、入部は遠慮します」
「そうだぜ。おれは占星術なんてぜんっぜん興味ねーよ」
イーアが「わたしも……」といいかけたところで、シャヒーン先生はちゃんとした説明をはじめた。
「まぁ、話を聞きな。実は占星術部はね、もうとっくにつぶれてるんだよ。部員がゼロでね。ほら、他に占術部があるだろ? 占いに興味ある子はみんな、あっちに入ってるのさ。そりゃそうと、占星術の基本は天体観測なんだよ。つまり夜空を観察することが大事でね。だから、占星術部は夜に外で活動せにゃならんのさ」
それを聞いて、ユウリは理解したようにうなずいた。
「なるほど。そういうことですか」
シャヒーン先生も意味ありげにうなずいた。
「そうさ。占星術部に入れば、夜中に堂々と外をうろつけるのさ」
イーアは、それを聞いてシャヒーン先生の意図を理解した。
グランドールの生徒は本当は夜8時以降は外に出ちゃいけない。シャヒーン先生は先生のくせに堂々と黙認しているけど。
でも、占星術部の活動ということにすれば夜中に外にいても大丈夫だから、そうして夜中まで犯人さがしをする作戦ってことだ。
イーアは元気よく言った。
「じゃ、入ります」
「いつでも抜けていいんだよな? おれ、占いなんてやらねーからな」
オッペンは渋々そう言った。
シャヒーン先生は肩をすくめた。
「そりゃ、残念だね。今年の1年の中じゃ、あんたが断然一番見こみがあるってのに」
シャヒーン先生もオッペンの占術の才能を認めているらしい。
オッペンは「興味ねーもん」と言っているけど。
3人の入部届を集めると、シャヒーン先生はたずねた。
「それで、昨日は何があったんだい?」
ユウリが昨日発見したことを説明した。
「なるほど。地下にいたのはマーカスだったのかい。でも、あの子がひとりでやっているとは思えないね。誰かが裏で糸を引いてるんじゃないかい?」
ユウリとイーアはうなずいた。
「わたしたちはマーカスを見張って地下の探索をします」
マーカスを追えば本当の犯人を見つけられるかもしれない。
イーア達の次の作戦は決まった。




