61 名声高き魔導士団
寮に戻ると、イーアはユウリとオッペンの部屋に行って、調査結果を聞いた。
ユウリは言った。
「<白光の魔導士団>について調べてみたけど、図書館ではほとんど何もわからなかったよ。わかったのは、<白光の魔導士団>または<白光>って呼ばれている秘密組織が存在するっていうことだけで。それに、その名前もただの通称だって。秘密結社だから、情報は外にでないみたいだ」
「やっぱり、そっか……」
イーアは小さくため息をついた。そう簡単には、白装束の魔導士たちの情報は集められないようだ。
でも、ユウリはさらに言った。
「だから、ぼくは授業のことで質問をしながら、先生たちにも<白光の魔導士団>について聞いてみたんだ。本には書かれていなくても、先生たちなら知っているかもしれないから」
さすが、ユウリは頼りになる。
「何かわかった?」
イーアがたずねると、ユウリは少し困ったような表情で答えた。
「うん。くわしいことを教えてくれる先生はいなかったけど、その名前を噂で知っているっていう先生はいたんだ。だけど……。先生たちの話をまとめると、<白光>は大昔から帝国の繁栄を裏から支えている魔導士の集団で、とても名声が高いらしいんだ」
「帝国を裏から支えてて、名声が高い?」
イーアは自分の耳を疑いながら聞き返した。
それじゃ、まるで、<白光の魔導士団>はいい団体みたいだ。
ガネンの森で起きたことを何も知らないユウリは言った。
「うん。悪いことをする秘密結社ではないらしいよ。むしろ、<白光の魔導士団>に入るのはすごく名誉あることみたいなんだ。ぼくは先生に「君ならいずれ<白光>にも入れるかもしれない」みたいな言い方をされたよ」
ユウリが白装束の魔導士になる……イーアは一瞬でもそれを想像して、ぞっとした。
イーアは思わず眉間にしわをよせながらたずねた。
「その情報、誰から聞いたの?」
「誰だっけ……。でも、特に<白光の魔導士団>をほめていたのは、ヘゲル先生かな」
それを聞いて、オッペンが即座に言った。
「やっぱり、あやしいな。ヘゲル。やっぱ、あいつが犯人だろ」
「でも、どの先生も<白光の魔導士団>のことを悪くは言ってなかったんだ。なんだかまるで、<白光の魔導士団>の邪魔をするのは悪いことみたいな感じがしたよ。シャヒーン先生を信じていいのかな。犯人は<白光の魔導士団>じゃないのかも」
ユウリはそう言い、イーアは黙りこんだ。
もしもシャヒーン先生が正しくて、そして、先生たちの間での評判も事実だとしたら……。
イーアはこれまで白装束の魔導士たちのことをただの悪い人達、人を殺したり強盗をする犯罪者集団だと思っていた。
だけど、あの白装束たちは、もっとずっと恐ろしい存在なのかもしれない。
ユウリは言った。
「とにかく、<白光の魔導士団>の情報から犯人を見つけるのはむずかしそうだ。だから、ぼくは次は犯人の動機を考えてみようと思うんだ。学園祭の日、犯人は地下で何かを探していたってことはまちがいない。秘薬の保管庫があけられていたんだから。きっと、グランドールの地下には何かがあるんだよ」
それを聞いたオッペンは、目をキラキラさせて言った。
「つーことはさ、学校の地下にすっげぇ財宝が隠されてたりすんのか? わくわくするな! おれたちで見つけて大金持ちになってやろうぜ!」
だけど、ユウリは首をかしげた。
「どうだろう。財宝じゃないんじゃないかな。金目のものが目当てなら、保管庫にあった貴重な薬や魔術の素材が手付かずだったのは変だよ。魔導士なら、売ればいくらになるか知っていたはずだから」
イーアはたずねた。
「そんなに高価なものがあったの?」
ユウリはうなずいた。
「たぶんね。だって、イーアがオッペンに使った<生命の霊薬>2ビンは、小さな家が一軒買えるくらいの値段らしいよ」
「そんなに高価だったの!?」
イーアはびっくりした。
<生命の霊薬>がそんなに高価なものだったとは、まったく知らなかった。……ガリは知っていたんだろうけど。
イーアは初めて、なんであの時ヘゲルが文句を言っていたのかを理解した。
もちろん、いくら高価な薬だとしても、オッペンの命の方が大事だから文句を言われる筋合いはないけど。
ユウリは冷静に説明を続けた。
「地下の保管庫の中には、きっと他にも高価なものがあったと思うんだ。でも、手つかずだった。ということは、犯人は何か全く別のものを探してたんだと思う。つまり、グランドールの地下に何があるのかわかれば、それが犯人を見つける手がかりになるかもしれない」
ユウリの話を聞きながら、イーアの頭の中には、ガネンの森から白装束たちが奪っていった石のことが浮かんでいた。
イーアはこれまでユウリに、ガネンの森のことも、取り戻した記憶のことも、白装束たちのことも、何も話していなかった。
イーアはユウリに黙っているのが、なんだか後ろめたかった。
まるでユウリのことを信頼していないみたいだから。
これまで、他のことでは、イーアはユウリに隠し事なんてしたことはなかった。ユウリはなんでも話せる親友だった。
だけど、ティトは絶対に話すなと言う。
何を言ったとしてもユウリが裏切るはずはない、とイーアは信じていたけど。
ティトは『絶対なんてない。悪気がなかったとしても、口をすべらすことはあるんだ』と言ってゆずらなかった。
だから、イーアは、くわしいことは言わずにつぶやいた。
「何か、もっと、とても古いものかも……」
ユウリはそれを聞いて思い出したように言った。
「そういえば、いつかシェリル先生が言ってたよ。グランドールの建物はここに学校ができる前からあって、昔はお城だったんだって。とりあえず、このお城のことを調べてみようか?」
それは初めて聞いた情報だった。
でも、言われてみれば、グランドールの地下の様子はまるで古城の遺跡みたいだった。
「そっか。だから、学校の地下があんな風になってるんだね。じゃ、そのお城について調べよう」
「うん。明日は図書館に行こう」
「また図書館かよ~。もっと冒険っぽいことしようぜ?」
オッペンは文句を言ったけど、イーア達は明日は図書館で調査することに決めた。




