59 アルバイト
シャヒーン先生の部屋を出て裏庭に出た後、イーアはオッペンとユウリにたずねた。
「犯人を探すって、どうすればいいと思う? 犯人は先生たちの中にいるんだよね?」
オッペンは考えながら言った。
「誰があやしいか考えようぜ。まず、マジーラ先生はねぇよな。おれたちを助けてくれたんだから」
ユウリは慎重に言った。
「たぶんね。でも、100%ないとは、いえないよ。今はまだ、シャヒーン先生をふくめて、完全に信用できる人はいないと思ったほうがいい」
「シャヒーン先生も?」
イーアが聞き返すと、ユウリは冷静な声で言った。
「うん。だって、なんでぼくらにこんなことを頼むんだろう? 大人に頼むべきだよ」
「シャヒーン先生、友達いねぇんだよ。変人だから」
そうオッペンは言い、イーアは言った。
「先生たちの中に犯人がいるから、信用できないんじゃないかな」
でも、ユウリに言われると、なんだかシャヒーン先生も怪しいような気がしてくる。
「とにかく、ぼくらには何も情報がないんだ。まずは情報収集が必要だと思う。<白光の魔導士団>の情報と、先生たちの情報を集めよう」
面倒くさい作業が嫌いなオッペンは言った。
「でも、調べるの大変だぜ? つーかさ。考えてみりゃ、絶対、あいつが犯人だよ。ほら、ヘゲル。きっとヘゲルだぜ」
「理由は?」
ユウリがたずねると、オッペンは言った。
「だって、あいつ、おれのこと、むちゃくちゃ嫌ってるだろ。だから、おれを殺そうとしたんだよ」
たしかに、ヘゲルは授業中いつもオッペンやイーアを目の敵にしている。
学園祭の事件の後でイーアが事情聴取された時もそうだったけれど、ヘゲルはオッペンが授業に復帰した時も、まったく喜んでいなかった。
だけど、ユウリは冷静に言った。
「それだけじゃ、理由にならないよ。オッペンが地下に入ったのは偶然だし、ヘゲル先生がオッペンに冷たいのは、最初の授業の時にいきなり居眠りするから、目をつけられたんだよ」
イーアもうなずいた。
たしかにヘゲルはあやしいけど、そもそもオッペンとイーアが地下に入ったのは偶然だから、犯人がオッペンを嫌っている人とは限らない。
「ヘゲルはただの嫌な人かもしれないもんね。それより、<白光の魔導士団>について、調べようよ」
イーアは一刻も早く、白装束たち、<白光の魔導士団>について、もっと多くの情報を知りたかった。
ユウリはうなずいた。
「うん。それじゃ、まずは図書館で調べよう」
だけど、イーアはそこで思い出した。
「あ、でも! 今って、何時?」
ユウリはポケットから懐中時計を取り出した。この高価な時計も、ユウリの師匠からのプレゼントだ。
「もうすぐ4時半だよ」
それを聞いて、イーアはあわてた。
「バイトの時間だ! 行かなきゃ!」
「バイト? じゃ、<白光の魔導士団>は、ぼくが調べておくよ」
「うん、よろしく。またあとでね!」
イーアも<白光の魔導士団>について調べたかったけど、しかたがない。
どうせ調べものはイーアよりユウリのほうがずっと得意だ。たぶん、いっしょに行ったとしても、イーアはユウリが調べるのを見ているだけになるだろう。
イーアは調査をユウリに任せて、アルバイトの集合場所のバラ園に向かって走っていった。
グランドールにはアルバイト募集の掲示板があって、学内で募集中のアルバイトが掲載される。
時給は安いけど、休み時間や放課後に気軽に働けてすぐにお金がもらえるから、貧乏学生にとってはありがたい。
イーアが昨日、掲示板を見た時には、食堂のアルバイトと庭整備のアルバイトが募集中だった。
どっちにしようか迷ったけど、外の方が楽しそうだと思って、イーアは今日の4時半集合の庭師助手バイトに申しこんだのだ。
イーアが集合場所のバラ園前に行くと、ちょっと強面の庭師の男が、しかめっ面でほうきを持って待っていた。
「こんにちは! アルバイトのイーアです」
イーアがあいさつすると、庭師はしかめっ面のまま言った。どうやら、この人はいつもこういう表情みたいだ。
「おう。俺は庭師のヘクトルだ。今日は落ち葉を掃いてくれ。貴族寮の周りはいつもきれいにしておかないとうるさいんだ。寮から校舎の間の道と、それが終わったら、寮の周辺の落ち葉を掃除してくれ。貴族生徒たちから苦情がきたらたまらんから、まじめに仕事をしてくれよ」
イーア達の寮の周辺はずっと落ち葉だらけだけど、誰も気にしない。だけど、貴族寮の周辺はいつもきれいにしないといけないらしい。
「はい! わかりました」
「落ち葉は、ほら、あんな感じで集めてくれればいい」
ヘクトルさんは道の傍にある落ち葉を集めた小山を指さした。
「集めた落ち葉は、後で俺がリヤカーに移すから、わかりやすい場所にまとめておいてくれ」
「わかりました。まかせてください」
「じゃあ、俺は今日は寮の庭木の剪定をするから、ここは頼んだぞ。2時間後にまたここで集合だ」
「はい!」
イーアは白い石がしきつめられた道の上の落ち葉をほうきで掃いていった。
イーア達の寮から校舎へは、人がたくさん歩いてできた雑草だらけの土の道があるだけだけど、貴族寮から校舎へは白い道が続いている。
今日は寒いけど晴れていて気持ちのいい夕方だから、イーアは自然に鼻歌を歌いだし、歌いながら掃除をしていった。
(庭のアルバイトって、気分がいいね)
だけど、ひとりだからちょっと退屈になってきた。
イーアは思いついた。
(そうだ。ウェルグァンダルにいたマホーキに手伝ってもらおう!)
『友契の書』を取り出して、イーアは『マホーキ、落ち葉はきを手伝って』とお願いした。
すると、すぐに、どう見てもほうきにしか見えない精霊、マホーキが2本あらわれた。
マホーキたちは『ホウホウホウ、サッサッサッ』と歌いながら、イーアといっしょにせっせと落ち葉をはいてくれた。
3本のホウキで歌いながら掃除をしていると、すぐに貴族寮と校舎をむすぶ道の落ち葉そうじは終わった。
マホーキが2本加わって掃除力3倍だから、あっという間だ。
『もう終わっちゃった。召喚術って、便利だね』
アルバイトの時間は2時間、6時半までだ。
さっき5時のチャイムを聞いたばかりだから、まだまだ時間がある。
『じゃ、次は寮の周辺だね』
イーアとマホーキは貴族寮の白い建物へとむかった。




