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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
5章 白装束の共犯者

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56 師匠の忠告

 その後イーアはウェルグァンダルの図書室で勉強をしながらガリを待った。

 でも、いつまで待ってもガリは来そうになかった。

 こうなることを予想していたので、イーアは持ってきた魔切手で「塔にいます。聞きたいことがあります」と書いてガリに送った。


 翌日、イーアがあきらめてグランドールに帰ろうと思った頃、ガリは帰ってきた。


 塔主の部屋で、イーアはガリに学園祭の時に助けてもらったお礼を言い、それから、ザヒと白装束のことをたずねた。

 ガリは言った。


『あの白装束については、今調べている。心当たりはあるが、確証のないことをお前に言って、また無謀なことをされては困るからな』


 ガリはまるで、白装束の心当たりを教えたらすぐさまイーアが特攻する、と思っているような口ぶりだ。

 イーアは文句を言った。


『別に、正体わかったって何もしないもん』


 ちなみに、イーアの精霊語はだいぶ上達したけど、精霊語の敬語はわからないから、師匠相手でもふだんと同じようにしゃべっている。

 イーアを信用していない表情で、ガリはぼそっと言った。


『記憶が戻って数か月もしない内に、さっそく戦っていた奴が良く言う』


 (好きで戦ったんじゃないよ。オッペンが危なかったからしかたがなかったんだもん)とイーアは言いたかったけど、それより大事なことがあったので、別の質問をした。


『ザヒは、どういう人? いつから白装束に?』


 ガリは小さくため息をついたように見えた。


『困ったやつだ。腕のいい召喚士だが、俺を嫌って塔には寄りつかなくなった。数年前から行方知れずでどこで何をしているのか不明だったが……。あいつがいつ白装束集団の仲間に加わったのかは知らないが、少なくとも塔を出る前、数年前まではどの結社にも加入していないはずだ』


 ということは、やはりガネンの森が襲撃された時は、ザヒはまだ白装束たちの仲間になっていなかったってことだ。


『それじゃ、やっぱり、わたしがガネンの民だとは気がついてないよね』


 ガリは少し考えて言った。


『俺がお前なら気は抜かないが、ザヒがガネンの森やラシュトについて知っていたとは思えない。だが、そもそも、今もガネンの生き残りは狙われているのか? 奴らの邪魔をするか、奴らにとって不都合なことを知っているなら、殺そうとするだろうが』


『うーん。わたしは何も知らないけど……』


 そもそもガネンの民が皆殺しにされた理由がわからないのだ。

 邪魔者を殺すだけだったら、無力な老人や子どもまで殺す必要はない。でも、実際には殺された。

 事件の口封じのためだったのかもしれないけれど……。

 そこまで考えてイーアは気が付いた。


(白装束にとって不都合な知識? ひょっとして、ティトの言ってた石の秘密……?)


 イーアはあの石について何も知らない。だけど、ガネンの民は何かを知っていたのかもしれない。

 イーアが考えこんでいると、ガリは言った。


『いずれにせよ、通常グランドールには学外者が侵入できないよう強力な結界が張られている。それでも内部の者を買収すれば侵入できるだろうが。少なくとも学外にいるよりは安全なはずだ』


 ガリはそこでふと気がついたようにイーアの肩の上を見てつぶやいた。


『青いチルラン……?』


 イーアの肩の上には、ガネンの森からついてきてしまった青いチルランが浮いている。このチルランは、いじめられていたせいか、絶対にガネンの森に戻ろうとしない。


『うん。青いチルラン。めずらしいよね?』


『俺は見たことがない。だが、チルランの生態には謎が多く、実は色も様々だという。伝承によれば、チルランには、さまよう魂が入りこんで……。いや、今は無駄話をしている暇はない。用事は済んだか?』


 ガリは今日も忙しそうだ。イーアはあわててたずねた。


『もうひとつ質問! どうしたら、ザヒに勝てるようになれる?』


 白装束の魔導士たちは、たぶん全員がザヒと同じくらいに強い魔導士なはずだ。つまり、白装束の魔導士たちと渡り合うには、イーアはあのレベルにならないといけない。

 ガリは、眉をひそめた。まるで「お前はやっぱり特攻しにいくつもりか?」と言いたそうに。だから、イーアはあわてて付け足した。


『べつに、すぐに戦うつもりじゃないよ? ティトにもとめられてるから』


 ガリはまるでティトみたいな、イーアのことを全然信じてなさそうなため息をついて言った。


『前にも言った通り、まずは精霊について知ることだ。基本をかためろ。あえていえば、攻撃的な精霊と交渉する時に身を守るため、他の魔法、特に防御をあげる魔法は習得した方がいいが、お前には召喚以外の魔法の素質はなさそうだ』


『え……』


 イーアもなんとなく自分に召喚術以外の魔術の適性がないことはわかっていたけれど。師匠にはっきり言われると、ちょっとショックだ。

 ガリは淡々と、なぐさめやはげましの言葉なんて一切なしに、話を続けた。


『あきらめて召喚術に専念するのも一つの手だ。障壁魔法の類を使える召喚獣を呼べばいい。着実に学んでいけば、十年もすればザヒを追い越せるだろう』


 十年……。イーアにとっては、永遠のように長く感じられる時間だ。今のイーアには、十年後、大人になった自分なんて想像もできない。

 不満そうな顔のイーアを見て、ガリはたずねた。


『一人前の召喚士になるには十年かかると言われている。お前はいつ入門した?』


 数か月前だ。ということは、一人前になるのは十年後、ということになる。

 ガリは続けて言った。


『俺の目に狂いがなければ、召喚の素質はお前の方がザヒよりも数段上だ。ただし、どんなに素質があったとしても、一朝一夕にどうにかなるものじゃない。いや、どうにかしようとすれば、危険をおかすことになる。急いで力を手に入れようと無茶をして死んだ召喚士はいくらでもいる。そして、簡単に手に入れた力は結局、危うく、もろい。あせるな』


『うん……。わかった。ありがとう』


 イーアは塔主の部屋を出た。

 食堂でクーちゃんからお土産にドーナツをたくさんもらってから、イーアはグランドールに帰った。

 白装束の情報はあまり得られなかったけど、聞くべきことは聞いたから気分は落ち着いた。


 でも、十年は、待っていられない。

 たぶん、白装束たちはまたすぐにグランドールにやってくる気がする。

 もしもグランドールの地下に白装束の魔導士たちが探している何かがあるなら。


(だけど、ティトが回復するまで、動くべきじゃないもんね。とりあえず、このまま様子をみよう)


 イーアはとりあえず敵の出方を待つことにして、グランドールでいつも通りの学校生活を再開した。

 そして、そのまま何も起こらず、1か月が過ぎた。


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