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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
4章 学園祭

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52 うそつき英雄の帰還

 医務室で目を覚ましてからしばらくたった後、イーアは別室に呼び出され、先生たちに質問をされた。

 部屋には魔導語の先生ヘゲルと自然魔法のシェリル先生がいた。

 イーアは心の中でなげいた。


(うぅ……マジーラ先生とかシャヒーン先生とかのほうがよかったのに……)


 マジーラ先生ならごまかしやすそうだし、シャヒーン先生はそもそもいいかげんだから何を言っても大丈夫そうだ。でも、ヘゲルは細かいことにうるさくて、いつも小言を言って怒ってばかりで気難しい。シェリル先生は優しいけど、まじめだ。


 先生たちに何が起こったのか質問されたイーアは、あらかじめ考えておいた通り、「地下でシャヒーン先生が強盗に襲われたのを発見して、オッペンといっしょに強盗を追いかけたら襲われて、死にかけたオッペンを助けるために、扉が開いていた倉庫で見つけた<生命の霊薬>を使いました」と話した。

 ……嘘はついていない。ぜんぶ本当のことだ。戦闘の詳細を省略しただけで。


 イーアはウソをつくのになれていない上に、今回はかくさないといけないことがたくさんあるから大変だった。

 ティトのことは秘密だ。

 ガリのことも言えない。

 ガリは立ち去る前に、ウェルグァンダルの名を出さないでほしい、つまりガリのことは秘密にしてほしい、と言っていたから。

 イーア達が今生きているのはガリのおかげだから、ガリの頼みは聞かないわけにはいかない。


 イーアは犯人のザヒのこともないしょにした。

 ザヒの名前をだせば、「どうしてザヒだとわかったのか?」とか聞かれて、面倒なことになる。

 だから、全部ないしょにして何も言わないことにしたのだ。


 それに、ザヒのことは言わないほうが、イーアにとっても都合がいい気がした。

 ザヒは白装束の魔導士たちにつながる手がかりだ。

 ティトは反対するだろうけど、イーアはガネンの森を襲った白装束たちの正体を知りたかった。

 だけど下手に先生たちや警察が動けば、イーアはザヒと白装束の魔導士たちについて探りづらくなる。


 先生たちは強盗についてさらに質問してきたけど、イーアは、「強盗は仮面をつけていたから顔はわかりません。オッペンとわたしを魔法で吹き飛ばした後、あっという間に逃げていきました。だから何もわかりません」とだけ言っておいた。


 一通り質問と説明が終わったあと、ヘゲルは険しい表情でイーアにたずねた。


「そもそも、おまえたちは、なぜ地下に入ったのだ?」


「なんでって……入れたからです」


 イーアは正直に答えた。

 イーアとオッペンは、入れたからちょっと入ってみただけだった。これは、本当に本当のことだ。あんなことになるなんて、まったく予想していなかった。

 ヘゲルは不機嫌そうに言った。


「地下は立ち入り禁止だ」


「でも、どこにもそんな表示はなかったです」


 イーアが即答すると、ヘゲルは声を荒げた。


「結界を張ってあったことぐらいわかるだろう! 結界が張ってあるということは、立ち入り禁止なのだ!」


 つまり、階段下の地下への入り口に壁があるように見えたのは、そういう結界が張ってあったかららしい。

 だけど、あの時、イーア達はそれが立ち入り禁止だという意味だとは思わなかった。「立ち入り禁止」という張り紙はどこにもなかったのだ。

 だから、「そんなこと、言われなきゃわかんないよ!」とイーアがヘゲルに怒鳴りかえしそうになったところで、シェリル先生が急いで割って入った。


「ヘゲル先生。この子は酷い目にあったばかりなんです。そんなに強い口調で言わなくても」


 ヘゲルはいらだった様子で言った。


「自業自得だろう。立ち入り禁止区域に勝手に入りこんで。おまけに、貴重な<生命の霊薬>を2本も消費したのだ」


 「仕方がなかったもん! 霊薬より命の方が大事でしょ!」と、イーアがどなり返す寸前に、シェリル先生があわてて言った。


「でも、そのおかげで、生徒の命が助かったのですから。私は<生命の霊薬>を使った判断は正しかったと思います。使っていなければ、まちがいないくオッペンさんは死んでいたと治癒術の先生はいわれました。この子のとっさの判断が命を救ったんです。それに、この子達がいなければ、シャヒーン先生だって殺されていたかもしれません。地下の秘薬保管庫だって、もっと荒らされていたかもしれません。お手柄でしたよ。イーアさん」


 シェリル先生にほめられて、イーアの怒りは落ち着いた。

 だけど、ヘゲルはまだイーアをにらみつけている。ヘゲルは不機嫌そうにぶつぶつと言った。


「<生命の霊薬>は1本使えば十分だった。それを2本も。だいたい、どうしてあれが<生命の霊薬>だとわかったのだ?」


 イーアはむすっと簡潔に答えた。


「習ったからです」


 <生命の霊薬>については、あまりしゃべるとボロが出て、色々と嘘をついているのがバレそうだ。なにしろ、実際に取ってきたのはガリだから、イーアは<生命の霊薬>についても倉庫についても何も知らないのだ。

 ヘゲルは険しい表情のまま言った。


「1年の授業では扱わない。<生命の霊薬>は調合が困難で流通していない非常に貴重な秘薬なのだ」


「師匠が教えてくれたんです」


 嘘じゃない。本当のことだ。教えてくれた時期がちょっと直前すぎるだけで。

 だけど、これ以上ヘゲルに問いつめられると、危ない。どうにかして、話題を変えないといけない。


「師匠?」


 ヘゲルが聞き返したちょうどその時。部屋のドアが開き、誰かが入ってきた。


「その生徒は、ウェルグァンダルから預かっている特待生なのですよ。ヘゲル先生」


 部屋に入ってきてそう言ったのは、召喚術のオレン先生だった。


「ウェルグァンダル? あの名門がこんな生徒を?」


 ヘゲルが信じられないという表情で言うと、オレンは落ち着いた声で言った。


「こんな生徒と申されますが、私が知る限り、飛びぬけて優秀な生徒ですよ」


「私が知る限り、圧倒的な落ちこぼれですがな」


 ヘゲルは苦虫をかみつぶしたような顔でそう言って立ち上がった。

 たしかにイーアの魔導語のミニテストはいつも0点に近かったけど。

 とにかくオレン先生が入ってきたことでヘゲルの尋問が終わりそうだ。イーアはほっとした。

 最後にシェリル先生が優しい声で言った。


「イーアさん。何が起こったのかお話してくれて、ありがとうございました。念のため今夜は医務室に泊まってください」


「だいじょうぶです。もうすっかり元気です。自分の部屋に戻ります」


 イーアはすっかり元気というほどは元気じゃなかったけど、そう言った。早く部屋に帰りたかったからだ。


「でも……」


 シェリル先生は心配そうに顔を曇らせたけど。


「好きにさせればいい。死んだところで、自業自得だ」


 ヘゲルはそう言って、部屋を出て行った。


「好きにします。それじゃ」


 そう言って、イーアも立ち上がって部屋を出た。





(ふー。あぶなかったよ。ウソをつくのって大変だね)


 普段は正直者のイーアは、そんなことを思いながら暗い夜道を歩いて寮に戻った。

 寮の入り口の扉を開くと、中は明るい光でいっぱいだった。

 そして、入り口ホールにたくさんの生徒達が待ち構えているのが、イーアの目にとびこんできた。

 イーアが知っている人も知らない人もいる。

 みんなはとても興奮した様子ですぐにイーアを取り囲んだ。


(なにこれ!? どうしたの?)


 イーアがおどろいて立ちどまってキョロキョロしていると、キャシーとアイシャが人混みをかきわけ、イーアの傍にやってきた。


「イーア! イーアが強盗を追い払ってシャヒーン先生とオッペンを救ったんだって!?」


「すごいねぇ。すごいねぇ。イーアは英雄だねぇ」


 どうやら、みんなの間では、そういう話になっているらしい。それで、みんなはイーアが帰ってくるのを待ちかまえていたらしい。

 まるで英雄を見るようなキラキラした目でみんなに見つめられて、イーアはちょっとだけじゃなく後ろめたい気持ちになった。


 たしかにシャヒーン先生のことはイーアが助けた。

 結果的にオッペンの命も救えたけど、それはイーアの力で救ったわけじゃない。ガリの力だ。

 イーアは今、自分の無力さを痛いほど感じていた。たとえ敵はイーアがかなうはずのない力をもつ召喚士だったとしても、イーアはやっぱり悔しかった。

 今、英雄視なんてされたら、なおさら落ちこんでしまう。だから、正直、やめてほしい。


 だけど、ガリのことをみんなに言うわけにはいかない。

 ガリが秘密にしろと言うんだから。

 ということは、イーアは全部自分の力でなしとげたふりをしないといけない。


(どうしよー……。秘密を守るの、めんどくさー!)


 イーアはこっそりガリを恨んだ。

 みんなはイーアにくわしい話を聞きたがっていたけど、イーアは「疲れたから、あとでね」と言ってみんなをかきわけ、エレベーターにのっていそいで自分の部屋に帰った。


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