51 医務室
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どこかから悲しそうな声が聞こえた。
「ぼくがいっしょにいれば。ぼくがコンテストなんかに出なければ。ぼくがイーアとずっといっしょにいれば……」
ユウリの声だった。
ユウリのとても悲しそうな悔しそうな声が聞こえる。
イーアはゆっくりと目を開けた。
イーアは見たことのない部屋の中で寝ていた。
毛布の横に、うつむいたユウリの頭があった。
(ユウリ、どうしたんだろ……)
とても落ちこんでいる様子のユウリをなぐさめようと思って、イーアは声をかけた。
「ユウリ?」
イーアがつぶやくと、ユウリはがばっと顔をあげた。
「イーア! よかった!」
その様子を見て、イーアは気が付いた。
ユウリが落ちこんでいたのは、イーアの心配をしていたからだった。
イーアは自分が地下で白装束と戦って、その後で気絶したらしいことを思い出した。
「ここは……?」
地下ではない。暗い地下とは対照的に、まぶしすぎるくらいに明るい部屋だ。
赤い目でユウリは言った。
「医務室だよ。イーア達が地下で強盗に襲われて倒れていたところを、先生たちが救出してくれたんだ。先生たちは、イーアの方はだいじょうぶだと言ってたけど。目を覚まさないから心配で……」
心配してユウリはずっとここにいてくれたようだ。
「うん。わたしはだいじょうぶだよ」
イーアは体を起こした。ものすごい疲労感があるけど、今は特に痛いところもなく、体も普通に動いた。
医務室にはベッドが並んでいた。
隣のベッドの横には、背中を丸めた小太りの小柄な中年女性が座っていた。下町や田舎町のどこにでもいそうな庶民っぽさが漂うおばさんだ。おばさんは、ベッドに寝ている誰かの手を握って、小声で何かを語りかけていた。
あのベッドで眠っているのは、たぶんオッペンだ。
あのおばさんは、きっと、オッペンのお母さんだろう。
イーアのいる場所からオッペンの様子はよく見えなかった。
オッペンは、どうなったんだろう。ガリは、すでに手遅れかもしれないと言ってた……。
不安で心臓の音が早くなっていく中、イーアは小声でユウリにたずねた。
「オッペンは?」
ユウリはうなずき小声でささやき返した。
「オッペンは命にかかわる状態だったけど、危ない状態は抜けたって」
イーアはほっとしてため息をついた。
「よかった……。ほんとに、よかった……」
正直、オッペンはすでに死んでしまったんじゃないかと、戦闘中から何度も思っていた。でも、なんとかオッペンの命は救えたようだ。
ユウリは説明を続けた。
「シャヒーン先生は発見されてすぐ意識が戻って、今はもう元気そうだよ。何が起こったのかシャヒーン先生が他の先生たちに説明して、それで、学園祭は途中で中止になったんだ。先生たちは強盗を探したけど、その時にはもう地下には誰もいなかったらしい」
「強盗……? 何が盗まれたの?」
そういえば、シャヒーン先生は侵入者の白装束のことを強盗だと言っていた。本当に強盗なのかはわからないけど。
ユウリは言った。
「地下の保管庫があけられていて、<生命の霊薬>っていうものが2本なくなってたって。他は何も盗まれていないらしいよ」
<生命の霊薬>が2つ、それは、ガリが持ってきた分だ。ということは、何も盗まれていない。
結局、白装束の目的は何だったんだろう。
イーア達に見つかってガリに倒されたから、何も盗まず逃げ帰ったのだろうか。
イーアが考えていると、ユウリはぽつりと恐ろしいことを言った。
「あとで先生たちがイーアにも話を聞くつもりだと言っていたよ。強盗のことと、あと、イーアが霊薬の空きビンを持っていたから、それについて」
「げっ……!」
ちょっと面倒なことになりそうだ。




