44 雑談
調理部の「魔法のカフェ」は、お店の飾りつけもかわいらしくて、お花がゆれていたり、ぬいぐるみがくるくると回っていたりした。
とても、ここが普段授業を受けている教室だとは思えない。
魔法のカフェは大人気なので、やっぱりすぐには入れず、イーア達はしばらくお店の外のイスに座って待つことになった。
待っている間、イーア達は学園祭の話をいろいろとした。
キャシーとアイシャは開会式に出て、ギルフレイ卿のスピーチを聞いたらしい。
イーアはギルフレイ卿を見かけた時に全身を襲った奇妙な恐怖感のことを思い出して、キャシーにたずねた。
「ギルフレイ卿ってどういう人? なんで学園祭のゲストに来たの?」
「なんでって、ギルフレイ卿は成功した卒業生だもん。グランドールとしてはぜひゲストに呼びたいでしょ。でも、言われてみれば、めずらしいよね。ああいう由緒正しい魔導士の家系の大貴族って、普通はグランドールに入学しないから。ギルフレイ卿が卒業生って、不思議」
「そうなの?」
「そう。ああいう家柄が良くて才能もある人は、普通は別の名門魔術学校に入学するはずだもん」
そこで、イーアは思わずたずねてしまった。
「他にも魔術学校があるの?」
イーアはグランドール以外に名門魔術学校があることを知らなかった。オームの初等魔学校の先生やナミン先生は何も言っていなかったから。
キャシーはびっくりしていた。
「ええ!? 知らないの!? 魔術学校は他に……ま、あたし達は入れないから、知らなくてもいっか。他の有名な魔術学校は、男子校だったり、代々続く魔導士の家系や貴族の家系じゃないと入学できないの。平民の女子が入れるのはグランドールだけ。グランドールは才能があれば、身分も人種も性別も何にも関係なく、誰でも入学させる唯一の学校だから」
どうやらイーアが入れる学校はグランドールだけだから、初等魔学校の先生は他の魔術学校のことを説明すらしなかったようだ。たしかに、「こんな学校もあるけど、君は入れないよ」なんて残念な説明、されても困る。
キャシーは説明を続けた。
「でも、グランドールは出自に関係なく才能がある人が入学するから、卒業生には偉大な魔導士が多いの。ほら、ガリ様も、そうでしょ?」
「え? そうなの?」
ガリもグランドールの卒業生だったらしい。ガリは何も言っていなかったからイーアは知らないけど。
ドラゴンに育てられたような素性の怪しい人だから、ガリもグランドールにしか入学できなかったのかもしれない。イーアは少しだけガリに親近感を感じた。
それはそうと、キャシーはまたおどろいていた。
「イーア、自分の師匠のことなのに知らないの!? ていうか、ガリ様が普段どんな感じなのか、とても気になるんだけど。学校のこととか、昔の話とか、そういう会話とかしないの?」
キャシーとアイシャは、興味津々といった感じの顔でイーアを見つめていた。
イーアはきっぱり首を左右にふった。
「ガリはしゃべんないもん。精霊語だとしゃべってくれるけど」
イーアは精霊語がそこまで上手じゃないので、まだ雑談はできない。ガリはむしろティトとしゃべってる方が多いくらいだ。
キャシーとアイシャはため息をついた。
「精霊語じゃないと会話してもらえないって、なんてハードなの……」
「さすが名門ウェルグァンダルだねぇ」
キャシーとアイシャは、会話が精霊語限定なのは召喚術の修行なんだと誤解して感心している。本当はガリがただ人語をしゃべるのが嫌いな変人で無口すぎるだけなんだけど。
「それより、なんでギルフレイ卿がグランドールの卒業生なのがふしぎなの? グランドールの卒業生はすごい魔導士が多いのに?」
イーアは脱線しまくっている話を元に戻そうとした。ガリのことなんて話してても仕方がない。知りたいのはギルフレイ卿のことだ。
キャシーはうなずき、説明を続けた。
「そうそう。学校の話だったっけ。グランドールは生徒の素質は一番高いけど、先生の質や教育内容のレベルが他より低いと言われてるの」
「そうなの!?」
イーアは授業についていくのが大変なのに。これでもレベルが低いなんて。
キャシーはうなずいた。
「残念だけど、そう言われてる。グランドールで将来一流の魔導士になる子って、結局、イーアやエルツ君みたいに、在学中から有名な魔導師に弟子入りしてる生徒ばかり。つまり、師匠の指導を受けてるから一流になれるの。学校は、そりゃ、一応トップクラスの授業で、師匠を見つけるための機会を与えてはくれるけど。貴族や魔導士のエリートから見れば、グランドールは、才能はあっても他の魔術学校に入れない平民と才能がないからお金を積んで入学する貴族の落ちこぼれが行く学校っていうイメージらしいの。だから、ギルフレイ卿みたいな生まれにも才能にも恵まれた人は、普通、グランドールには来ないってわけ」
そこでアイシャがのんびりと言った。
「そういえばねぇ。誰かが言ってたよぉ。ギルフレイ卿は成り上がり、なんだってぇ」
キャシーが聞き返した。
「成り上がり? ああいう名門の家系の人は、どんなに偉くなっても成り上がりっていわないでしょ?」
「でも、成り上がりなんだってぇ」
どういうことなのか、キャシーもイーアもアイシャに詳しいことを聞きたかった。
でも、ちょうどそこで、イーア達は調理部の生徒に呼ばれて、席に案内されることになった。だから、ギルフレイ卿のうわさ話はそこで終わった。