38 ドルボッジ:試合終了!
こうして、暴風吹き荒れ、大樹の枝が踊り狂い、人とサルが飛びまわるドルボッジが続いた。
そして、得点は9対7になった。イーア達のボールになった。
次の攻撃で点をとれば、勝利が決まる。
だけど、イーアはその時、ものすごい疲労を感じていた。
「う……ん……。この、感覚って……」
体の中が空っぽになった感じがする。頭がクラクラする。
イーアは悟った。
この感覚は、魔力切れだ。
こんなになるまで魔法を使ったことがないから、ここまでひどい感じは初めてだけど。
『チルチル?』
チルランが心配そうにイーアの傍で点滅していた。
呼び出したチルランが少しずつ魔力の回復をしてくれていた。
でも、これ以上、オクスバーンとモキュッチの召喚状態を維持することはできない。
イーアは心の中で魔力消費の計算をしなかったことを反省した。
そもそも、自分にどれくらい魔力があるのかもオクスバーンやモキュッチの召喚にどれくらい魔力が必要なのかも、まったくわかっていなかった。
イーアは知った。
召喚のタイミング、組み合わせ、魔力の量の把握と時間の計算……もしも召喚術で戦うなら、考えるべきことがたくさんある。
召喚術は普通の魔法よりクセが強くて複雑だ。
『そろそろわしは帰る時間かな? それじゃ、人の子どもたち。楽しかったぞぉー』
『キュキュ!』
オクスバーンとモキュッチはそう言って、満足げに帰っていった。
オッペンが叫んだ。
「げっ、壁が消えちまった!」
いままでずっとオッペンとイーアの前で壁のようにそびえ立ってボールを防いでくれていたオクスバーンがいなくなると、急に心細くなる。
でも、ボールを手に持ち、ユウリが落ち着いた声で言った。
「だいじょうぶだよ。イーアの召喚のおかげで、残りはあと一点。次の攻撃で終わらせる」
ユウリがマーカスにボールをあてれば、それでゲーム終了。イーア達のチームの勝ちだ。
オッペンはユウリに声援を送った。
「そうだな。よっしゃ! 勝とうぜ!」
その時、「マーカスを囲め!」というダモンの声が響いた。ユウリはマーカスを狙うだろうと、ダモンたちも考えていた。
ダモン達3人がマーカスの周囲を三角形をつくるように完全に囲んだ。真ん中のマーカスは棒立ちだけど、この状態でマーカスにぶつけるのは難しい。
「げっ。マーカスが完全に守られちまった」
うろたえるオッペンにユウリは冷静に言った。
「だいじょうぶ。想定内だよ。これで、先輩達はボールを避けることができない。次は、あてるか取られるかのどっちかだ」
ユウリは風で作った大砲の筒にボールを入れ、小声で呪文を唱えた。
敵陣に霧がたちこめはじめた。
ガボー、グドロの声が聞こえた。
「また、めくらましなんだな」
「どうする? あと1点で負けちまうぜ?」
続いて、ダモンの声が聞こえた。
「試合終了には早いな。未経験者の1年を相手にしている以上、こっちは移動魔法以外使わないつもりだったが。これ以上、意地を張っていられないか。ガボー」
「わかったんだな。プライドを曲げたとしても、ドルボッジ部として負けるわけにはいかないんだな」
そして次の瞬間、ガボーが大声で吼えるように叫んだ。
聞き取れなかったけど、それは何かの呪文だったようだ。
敵の陣地にたちこめていた霧が晴れた。
ガボーが霧を吹き飛ばしてしまった。
「先輩達、あんな魔法使えたのかよ!」
オッペンが叫んだその時。「<風砲弾>」というユウリの落ち着いた声が響き、風でできた大砲から、ボールが発射された。
ボールはダモンめがけて高速で飛んでいく。
「オゴン!」
ダモンがあごの前でボールをとめた、と思った瞬間、そのボールは、破裂した。
それは、ボールじゃなかった。ユウリが作ったボールの大きさの水の塊だった。
そして、次の瞬間、水塊の後ろに続いて発射されていた本物のボールが、間髪入れずにダモンの額にぶつかった。
ボールは大きく跳ね返った。
ドルボッジ場全体に、長いホイッスルが響き渡った。
《ゲームセット!》
ドルボッジ・コートのアナウンスが響き、オッペンが跳び上りながらガッツポーズをして叫んだ。
「やった! 勝ったぜ!」
「勝った!」
イーアも叫んだ。ユウリは冷静なままで、何も言わずにただうなずいた。
「やられたな。まさかダミーを用意するとは。おもわず反応してしまった」
水びたしの顔を腕でぬぐいながら、ダモンはいさぎよく負けを認めた。
グドロはひざをつき、ぼうぜんとした表情でつぶやいた。
「まさか、俺達が、素人の1年相手に……」
ガボーは両手を床についてうつむいたまま、うめくように言った。
「信じられないんだな。これは、きっと、悪夢なんだな……」
マーカスははれあがった顔で、無言で歯ぎしりをしていた。




