37 ドルボッジ:モキュッチ召喚
同点になった。だけど、ダモン、ガボー、グドロは不敵に笑い、口々に言った。
「おもしろい。おもしろいぞ。だが、ここからが本当の勝負だ」
「これで勝ったと思っちゃだめなんだな。そろそろ本気を出すんだな」
「俺達のチームワークを見せてやるぜ」
ダモン、ガボー、グドロの3人は同時にボールの方へ手を向けた。
「どういうことだ?」
つぶやいたオッペンに、ユウリが言った。
「3人同時に移動魔法をかけているみたいだ」
「トリプルストリームアタック!!!」という3人の声とともに放たれたボールは、不規則に変化しながら飛んできた。
ボールはオクスバーンに打ち返されてもすぐに向きを変えて飛び続け、オクスバーンの枝をかいくぐり続ける。そして、ボールはついにオッペンに到達した。
「ぐごっ」
オッペンは額のあたりに飛んできたボールを取ろうとして取り損ね、ボールは跳ね返った。
得点はまた逆転されて5対6になった。
「見たか! 俺達のトリプルストリームアタック!」
グドロが叫んだ。
だけど、ダモン達3人は今までになく疲れた様子で荒い息をしている。
ガボーはつぶやいた。
「この技はものすごく集中力がいるんだな」
ユウリは冷静に感想を言った。
「ああいう協力プレーもあるんだね」
「ひとりより3人の方が強いもんね……」
イーアはそう言いながら気が付いた。
(そうだ! オクスバーンの他にも誰か呼んでみよう!)
今はオクスバーンの他には魔力を回復してくれるチルランだけを呼んでいる。さっき、オッペンのケガを治すために一時的にアロアロも呼んだけど。イーアにはまだ召喚をする余裕がある。
そして、ガネンの森にはドルボッジにむいていそうな霊獣がいたことを、イーアは思い出した。
イーアは『友契の書』を手に呼びかけた。
『モキュッチ! 来て!』
モキュッチは、実のなる木によくいる、手の大きな小型のサルみたいな霊獣だ。小さいけれど、とてもすばしっこくて、物をつかんだり投げたりするのが得意だ。
人からも物を盗んで食べたり投げて遊んだりするから、大人には迷惑がられていたけど、イーアは昔、モキュッチとよくキャッチボールをして遊んでいた。
数秒後、オクスバーンの枝の上に、モキュッチがあらわれた。
『キュキュッ キュキュッ』
モキュッチはオクスバーンの枝の上で、キョロキョロしながら、たのしそうに声をあげた。
『モキュッチ。飛んでくるボールをとって、むこうの陣地の人にボールをぶつけて。相手にボールをとられないようにして、ぶつけるゲームなんだよ』
イーアが説明すると、モキュッチは枝の上でジャンプして、顔の数倍くらいある大きな手を打ち合わせた。了解、というように。
ガボーがぶつぶつと言った。
「また何か呼びだしたんだな」
ダモンは不敵に笑った。
「かまわん。行くぞ、トリプルストリームアタック!」
イーアがモキュッチを呼んでいる間に、ボールはダモンに取られていた。
ダモンが浮かせたボールに、ガボーとグドロが移動魔法を重ね合わせていく。
そして、3人の力を合わせたボールが放たれた。
『打ち返すぞい!』
オクスバーンの枝が激しく動いた。モキュッチをのせた枝も動いている。モキュッチが落ちるんじゃないかと心配なぐらいに激しく。
ボールはオクスバーンの枝をかいくぐった……かと思えたけど、ボールは枝からぶらさがったモキュッチが、がっしりとおなかのところでつかんでいた。
モキュッチは枝にしっぽでつかまっていて、ボールの勢いが強かったから、その衝撃でモキュッチは枝のまわりをくるくる回っていた。
オッペンは叫んだ。
「すげぇぜ! あのサル! すげぇ高速回転!」
「すごいの、そこかな?」
ユウリは冷静な声でつぶやいた。
『キュキュ!』
モキュッチはオクスバーンの枝の上にのぼると、すぐに相手の陣地へボールを投げた。
でも、ただ投げただけだったから、ガボーに片手でキャッチされてしまった。
オクスバーンが言った。
『モキュッチよ。ふつうに投げても取られてしまうぞい』
『キュ? キュキュ!』
モキュッチは何か思いついたように、枝の上でジャンプをしながら両手を打ちあわせた。
再び、ダモン達が協力技でボールを放った。
枝から跳びあがったモキュッチは、そのボールを空中で見事にキャッチした。
ボールの勢いが強いため、モキュッチはそのままボールごと飛んでいった。オッペンめがけて。
「うおぉ!?」
オッペンはモキュッチを体の正面でキャッチした。だけど、勢いがつよすぎて、オッペンはモキュッチを抱えたまま後ろに倒れた。
「キュッ?」
床に倒れたオッペンのお腹の上で、ボールを抱えたモキュッチがけろっとした顔で座っている。顔をあげて腹の上のモキュッチを見て、オッペンは言った。
「よ、よし! 失点なしで守りきったぜ!」
ダモンとガボーが感心したように言った。
「あのサル、俺達のボールをあんなに簡単に奪うとは」
「サルじゃなかったらドルボッジ部に勧誘したいんだな」
ユウリがイーアに「ボールをぼくに……」と言いかけた時、ボールを掴んだモキュッチはすでにオッペンの上からおりて、オクスバーンをするすると登っていた。
モキュッチはオクスバーンに小声で何かささやいたようだ。オクスバーンは言った。
『ふむふむ。よかろう。投げてやるわい!』
とたんに、モキュッチをのせたオクスバーンの枝が大きくスイングした。
そして、モキュッチは敵陣めがけてロケットのように飛んでいった!
『キュキュ―!』
モキュッチは、センターラインのところにあるはずの壁を通り抜け、空中に浮かぶグドロのそばを通り過ぎかけたところで、至近距離からボールをグドロの後頭部に打ちつけた。
グドロはとめられない。ボールは跳ね返った。
モキュッチは壁に手足をついてから床に降りて、うれしそうに両手をあげてジャンプした。
得点板の数字が動いた。
6対6。
だけど、頭をさわりながらグドロが叫んだ。
「こんなのありかよ! 今の、俺の頭の後ろ、すぐそこから投げてるだろ!?」
ガボーも、トコトコ歩いて行くモキュッチを指さしながら叫んだ。
「こっちの陣地に入ってるんだな! どう見てもルール違反なんだな!」
ダモンは冷静にボールを引き寄せながら言った。
「だが、どうやらドルボッジ・コートの判定では、このサルは魔法扱いのようだ」
モキュッチはのんびりドルボッジ・コートの中を歩いて、むこうの陣地からこっちの陣地に帰ってきた。
モキュッチはセンターラインの透明な光の壁をしっかり通り抜けたけど、ドルボッジ・コートは何も言わなかった。たしかに、ドルボッジ・コートはモキュッチを人間としては認定していない。
グドロがぼやいた。
「召喚は魔法だけどよ。召喚獣ってほんとに魔法なのか? これじゃ無法地帯だぜ?」
イーアが知る限り、召喚獣は魔法じゃない。モキュッチは、霊獣だ。
オッペンもこっそり小声でイーアにささやいた。
「さすがにあれはダメじゃねーか? 相手の陣地に入って投げてるぜ?」
「さっき、なんでもOKって言ってたけど……」
(さすがにこれはだめだよね)と、イーアも思っていた。
それぞれの陣地からボールを投げ合うのがドルボッジだとすると、モキュッチはこのスポーツの根本的なところをくつがえしちゃっている気がする。
モキュッチは一仕事終えたって感じの涼しい顔で、オクスバーンの枝に座って足をぶらぶらさせているけど。
みんなが、なんとなくダモンの発言を待っていた。そして、ついにダモンが険しい表情で断言した。
「男に二言はない。どんなに厳しい戦いになるとしても。ドルボッジ・コートが魔法と判定するのなら、あのサルは風と同じだ。ボールを避ければいいだけのこと!」
イーアの横でオッペンが感嘆の声をあげた。
「漢だ……!」
(いやいや意味不明だよ!)とイーアは思ったけど、こっちに有利なので黙っておいた。




