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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
3章 しばし平和な学園生活

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35 ドルボッジ:反撃の始まり

 ユウリは落ち着いた声で言った。


「教科書にのっている移動魔法は一通り練習してあるからオゴンは使えるけど、猛スピードで飛んでくるボールあいてに成功させるのは難しいね。タイミングをつかむまでに3回かかったよ」


「3回でできるなんて、すごいよ!」


 イーアはびっくりしてそう叫び、オッペンはガッツポーズで叫んだ。


「よっしゃ! 反撃だ!」


 ユウリは杖を手に持ち小声で「オルル……」と唱え、ボールを空中に浮かべた。


「ゴッ」


 ユウリが放ったボールはダモンめがけて飛んでいった。だけど、ダモンのボールほど高速ではない。

 ボールはダモンの肩にむかって飛んでいったけど、ダモンが肩の前に出した手の前でボールはとまった。


「くっそー。やっぱ、あてるのは難しいか」


 オッペンが悔しがっていると、ダモンはすぐに「オゴッ!」と叫んで、ボールをそのまま片手で砲撃のように打ち出した。

 そして、ボールはあっさりオッペンの顔面に命中した。

 「うぐぉっ」とうめいて、オッペンは後ろに倒れた。


 ユウリは即座に跳ね返ったボールの方に手を出して「オガッ」と唱えた。

 その時ダモンも同じように呪文を叫んでいたけど、オッペンに当たって跳ね返ったボールは、ユウリの方へ向きをかえて飛び、ユウリの手の中におさまった。

 

 0対4と表示された点数ボードの横で、マーカスがつまらなさそうに言った。


「さすがエルツ。ひとりだけドルボッジらしいことができてるじゃないか。でも、足手まとい二人と一緒じゃ、勝負にならないな」


 イーアには何も言えなかった。このままじゃ、イーアには何もできない。

 でも、ユウリは落ち着いた声で言った。


「足手まとい? とんでもない。君は知らないなんだね。マーカス。イーアは天才だよ。イーア、最初に聞いたルールのこと、おぼえてる?」


 イーアは首をかしげた。


「ルール? なんでもOKじゃなかったっけ?」


「そう。つまり、どんな魔法を使ってもOK」


 ユウリがそう言うと、周囲の風が渦巻きだした。そして、小さな竜巻がユウリの前に出現し、ボールは竜巻に飲み込まれた。

 さっきまでは無風だったドルボッジ場に、風が吹き荒れている。

 ユウリは、移動魔法じゃなくて風魔法を使っていた。


「おい。そんなの、なしだろ」


 マーカスは文句を言ったけど、ユウリはダモンに尋ねた。


「なんでもOKって、先輩は言いましたよね?」


 ダモンはうなずいた。


「男に二言はない。ドルボッジの公式試合では使える魔法はあらかじめ決められているが、今日はなんでも好きな魔法を使え」


 グドロとガボーもうなずいた。


「今回は認めてやろう」

「素人の1年相手だからな。ちょうどいいハンデなんだな」


 ガボーが言った後で、ダモンは付け加えた。


「ただし、ドルボッジの基本ルール上、プレイヤーに直接魔法で攻撃することは禁止だ。相手にダメージを与えるような魔法を使えば、即、反則負けになる。それに、ドルボッジ・コートでは敵陣に入ると魔法が弱くなる。どうせ魔法がまともに使えるのは自陣の中だけだぞ」


 ユウリはうなずいた。


「それくらいで、ちょうどいいです。イーア、用意をして」


 イーアはそこで、はっと気が付いて、ローブの内ポケットにいれていた『友契の書』を取り出した。

 ユウリに自然魔法があるように、イーアには召喚がある。

 何でもOKなら、召喚もOKだ!


(ティトは呼び出せないけど……オクスバーンを呼んでみようかな)


 召喚のいい練習になりそうだ。


「準備はいい?」 


 ユウリがたずね、イーアは後ろに下がりながらうなずいた。


「OK。防御はまかせて! オッペン、なるべく後ろに下がってて」


「おう」


 オッペンは素直に指示に従い、コートの一番後ろまでさがっていった。


「それじゃ、いくよ」


 ユウリが小声で呪文を唱えると、敵陣の中に霧がたちこめだした。

 相手陣地の霧の中からグドロとガボーの声が聞こえた。


「ほとんど見えねぇ!」

「だ、だけど、ちょうど濃霧フィールドのいい練習なんだな!」


 ユウリは敵陣を指さし、呪文を唱えた。

 さっきボールを飲みこんだ竜巻が螺旋らせん形となっていき、その螺旋が床と水平に大砲の筒のような形に変形していった。ボールは外へ出ようと微細な動きを続けながら空気でできた筒の奥へと押し込められている。

 ユウリは呪文の最後に落ち着いた声で言った。


「<風砲弾>」


 螺旋の筒の先端から目にもとまらぬ速さでボールが発射された。

 ボールはガボーの左腕に当たった。

 霧で視界が悪いせいもあって、ガボーはまったくボールに反応できなかった。

 オッペンがガッツポーズで叫んだ。


「やった! 当たったぜ!」


 マーカスが得点ボードの横でわざとらしく拍手しながら、悔しそうに言った。


「おめでとう。初得点だ。これで1対4」


 その時、ボールは、すでにダモンの手元に引き寄せられていた。

 もう霧はほとんど消えている。

 ダモンは「おもしろくなってきたじゃないか」と言って、ボールを頭上に浮かせた。

 また、ダモンの攻撃がくる。


 さて、イーアは何秒か前、『友契の書』にささやいていた。

 『太古の霊樹オクスバーン』と。

 普通の魔法と違って、召喚にはタイムラグがある。召喚獣は呼んでもすぐにはあらわれない。だから、あらかじめタイミングを見計らって呼ばないといけない。


 そして、ダモンがボールを放った時。

 ちょうど、イーア達の前に巨大な壁のような霊樹があらわれた。イーアとオッペンをすっかり幹の影に隠すほどの大木だ。

 ボールがオクスバーンの幹にぶつかって跳ね返る音が響いた。


「なんじゃそりゃあ!」


 オクスバーンの向こう側でグドロが叫び、ガボーも言った。


「いくらなんでも、ドルボッジで召喚はありえないんだな!」


 イーアは元気よく言った。


「なんでもOKって言ったもんね!」


 得点ボードの横でマーカスが、うんざりしたような声でつぶやいた。


「得点に変更なし。召喚獣に当てても得点は入らないのか。これ、詐欺だろ」


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