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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
3章 しばし平和な学園生活

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34 ドルボッジ:移動魔法

 扉を閉めるとマーカスはスコアボードの方へ移動した。


「せいぜいがんばりなよ。俺はここで君達のぶざまな姿をぞんぶんに眺めさせてもらうから」


 マーカスは得点板の横でニヤニヤ笑って見物を始めた。

 ダモンはボールをイーア達のほうへ転がして言った。


「1年。そっちのボールスタートでいいぞ」


 イーアは転がってくるボールを拾いあげた。ボールはけっこう重たかった。へたな投げ方をしたら腕を痛めそうだ。

 イーアはユウリとオッペンを見やった。


「投げるよ」


 ユウリはうなずき、オッペンは声援を送った。


「おう。がんばれ!」


 ボールのあてっこ遊びなら、イーアは小さい頃から得意だ。けっこう剛速球を投げられる。

 イーアは助走をつけて体全体を使って全力でボールを投げた。

 ボールはダモンの左足めがけて飛んでいった。いいコースだ。

 ダモンは動かない。


 そして、ボールは命中! ……したはずなのに、ボールは空中で静止してしまった。

 ボールはぶつかったはずなのに、仁王立ちしたダモンの足にくっついたまま跳ね返らない。


「ボールがとまった!?」


 イーアが驚いていると、スコアボードの横で、マーカスがバカにしたように言った。


「当たり前だろ? ドルボッジは移動魔法でボールをコントロールするんだ。ダモン先輩ほどになれば、前置きの呪文はもちろん、何も言わずに念じるだけで移動魔法を発動できるのさ。ちなみに、飛んできた物を制止させる呪文は、オゴン。教科書の来週の範囲にのっているよ」


 ダモンは大きな口でにやりと笑った。


「その通り。ドルボッジとは移動魔法でボールをコントロールするスポーツだ。ドルボッジのボールは移動魔法がかかりやすくなっている。さらに、ドルボッジ・コートの中は自分の陣地内では魔法がかかりやすく、相手の陣地では魔法が効きづらいようになっているぞ。1年にもわかりやすいように、呪文を口に出してやろうか? オ・ルル……」


 ボールは高く上昇し、ダモンの頭上で静止した。

 そして、ダモンはイーアを指さし、言った。


「ゴッ!」

 

 ボールはイーアめがけて、猛スピードで一直線に飛んできた。

 (とれない)と判断して、イーアは反射的に横に飛んだ。

 激しい音をたててボールが床にぶつかった。

 グドロがにやにや笑いながら言った。


「へぇ、いい反射神経してるぜ」


 床にぶつかったボールは後ろの光の壁にぶつかり、跳ね返った。跳ね返ったボールは球速が弱まっていた。

 イーアはそのボールをキャッチしようと動いた。だけど、その時ダモンは叫んだ。


「ザッ!」


 ボールはイーアの目の前で突然曲がり、今度はオッペンめがけて飛んでいった。突然ボールが飛んできたので、「うわっ」と叫んで、オッペンはとび退けた。ところが。


「ゴッ!」


 ダモンが叫ぶと同時にボールは再び曲がり、オッペンを追いかけるように飛んでオッペンの顔面にぶつかった。

 跳ね返って床に落ちていくボールをイーアは急いで追いかけた。

 だけど、再びダモンの声が響いた。


「ガッ!」


 イーアがつかむ前に、ボールは逃げるようにダモンの手元へと飛んでいってしまった。

 マーカスの笑い声が聞こえた。


「これで1点。ぶざまだね。まったくいい眺めだよ」


 スコアボードの得点が自動的に変わり、ダモンたちの側の得点が0から1に変わった。

 ダモンは引き寄せたボールを両手でつかみ言った。


「さぁ、わかっただろう? これが、ドルボッジだ」


 イーアはダモンの手元にあるボールを見つめた。

 たしかに、ドルボッジがどういうものかは今ので理解できた。

 再び流れ出した鼻血で血まみれのオッペンが悔しそうに言った。


「くっそー。さっきまじめに移動魔法の練習しとくんだったぜ!」


 今日の練習だけじゃ、どうしようもないけど。

 イーアもちょっと後悔した。正直、さっきの授業では、(移動魔法なんて一生使わなくても生きていけるよね)と思っていたから。まさかその日のうちに移動魔法が必要になるとは思っていなかった。

 ユウリは冷静につぶやいた。


「ボールの動きに合わせて一瞬で移動魔法を発動させないといけないね。とまっているものに移動魔法をかけるのより、ずっと難しいよ」


 ボールを左右の手の間で動かしながら、ダモンが言った。


「その通り。ドルボッジには高度な移動魔法の技術が必要。移動魔法を極めし者がドルボッジの勝者だと言っていい。これぞ魔導士のスポーツだ! だが、1年相手だからな。ハンデをやろう。お前達はこの試合、何を使ってもOKだ。本当は道具は禁止だが、今回は(ワンド)を使ったっていいぞ」 


 それを聞いたユウリはドルボッジ・コート外の床に置いたカバンのところへ行き、手を伸ばして杖を取り出した。


「イーア、使う?」


「ううん。杖はユウリが使って」


 ユウリに杖を借りたとしても、イーアの移動魔法じゃどうしようもない。隙を見つけて普通に投げてぶつける方がまだ可能性がある。

 ダモンは横のグドロの方を向いた。


「次はグドロ。いってみるか?」


「おう。よこせ」


 ダモンが軽く投げたボールはグドロの頭上へ飛んでいき、グドロはそのままボールをキャッチせずに大きく手をふりまわしながら叫んだ。


「オルルゴッ!」


 グドロの手はボールに触れていないのに、ボールは高速でユウリめがけて飛んでいった。

 ユウリはとっさに顔の前に両手をあげ、ボールはその両腕に激しい音をたててぶつかった。

 ユウリの細い腕が折れたんじゃないかと心配になるくらいの激しい音だった。

 ボールがぶつかった衝撃で、きゃしゃなユウリは後ろにとばされ転んでしまった。

 グドロはにやにや笑いながら言った。


「顔にあてるつもりだったんだがな。おまえら意外と反射神経いいな」


 マーカスが勝手に動く点数ボードを見てにやにや笑いながら言った。


「これで0対2だ」


 跳ね返って自陣に帰ってきたボールを引き寄せながら、ガボーは唸るように言った。


「あと8発なんだな。次は俺が行くんだな」


 立ち上がったユウリは、表情を変えていないけど、ボールが当たった腕は痛そうだ。

 ユウリは無言で杖をローブのポケットの中にしまった。

 ガボーはボールを両手にもったまま、怒鳴った。


「オゴッ!」


 ボールはガボーが胸の前に置いた両手から、ユウリめがけて大砲の弾のように打ち出された。

 激しい音をたて、ボールは顔の前に置いたユウリの手を吹き飛ばした。

 衝撃で、ユウリはまた後ろに倒れた。


「ユウリ!」


「だいじょうぶだよ、イーア」


 心配するイーアにユウリはそう言って立ち上がった。


「いつまで強がっていられるかな? オガッ」


 ダモンは床を勢いよく転がっていたボールを引き寄せた。


「オルル……ゴッ!」


 ボールは一度ダモンの頭上に浮きあがり、そして、すぐにユウリの顔めがけて一直線に飛んでいった。

 ふたたび衝撃音が鳴り響く、とイーアは思った。

 だけど、無音だ。

 ボールは、ユウリが顔の前にあげた手の平の前で停止していた。


「強がりじゃない」


 静止したボールをゆっくりと両手でつかんで、ユウリは言った。ユウリはボールを静止させる魔法オゴンを成功させていた。


「やっとコツをつかめたよ」


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