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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
3章 しばし平和な学園生活

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28 召喚術の授業3

 コプタン達は、いまやマーカスの上だけじゃなくて、教室中を走り回っていた。みんなの机にのったり頭にのったりしていた。

 イーアには、コプタン達のたのしそうな声があちこちから聞こえる。


『あそぼ! あそぼ! 巨人とあそぼー!』

『巨人のお姉さん、今度おれとお茶しない?』

『あはははー。楽しいなー』


 そして、クラスのみんなの叫び声が響いていた。


 もう教室中が大混乱だ。

 コプタン達は、オッペンがこっそり授業中に食べていたサンドイッチを奪って『エッサホイサ。巨大サンドイッチだー!』と担いで逃げていく。オッペンは「おれのサンドイッチ!」と叫んで、コプタンを追いかけようと机の上にのぼってずっこけて、色んなものをひっくり返していた。

 その前の列では、コプタンが一匹、アイシャの胸の中にすべりこもうとして、キャシーに捕まってぶん投げられていた。

 その横でユウリがコプタンにペンを盗まれながら、叫んだ。


「イーア、強制送還だ!」


「強制送還?」


 イーアがたずねかえすと、オレン先生があわてて言った。


「召喚獣を強制的に帰らせゲートを閉じる魔導語の呪文だ。<我、我が僕を返還し、異界の扉を閉じなむ。閉じよ霊界の門>」


 (そういえば、そんな呪文あったっけ)と思い出しながら、イーアはあわてて魔導語の長くて難しい呪文を唱えた。

 イーアが唱え終えると、とたんにコプタン達が召喚ゲートの中へ吸い込まれていった。

 『えーやだよー!』『これからだったのにぃー!』『まだ帰りたくないー!』とか文句を言いながら。


 数秒後、教室からコプタンは消えた。

 でも、教室の中がおさまるまでには、まだしばらく時間がかかり、そして、その間、マーカスは真っ赤に怒った顔でイーアを睨みつけていた。

 オレン先生はため息まじりに言った。


「これで、召喚者によって召喚結果が違うことはわかったね。ありがとう。ふたりとも。席に戻って」


 オレン先生がそう言って席に帰らせなかったら、マーカスがイーアにつかみかかりそうな雰囲気だった。


 イーアはそそくさと席に戻った。

 イーアは席に着くと(やっちゃったよ~!)と心の中で叫びながら、もう今日は存在感を消していようと決心した。

 ところが、そこで最前列のケイニスが手をあげて質問をした。


「先生。今の召喚結果の解説を聞きたいのですが。俺にはどちらの召喚も失敗に見えました」


 (もう忘れたいのに~。解説なんていらないよ!)とイーアは心の中で叫んだ。

 一方、マーカスはケイニスを睨みつけて、怒鳴るように言った。


「俺の召喚は成功した! 失敗したのは、あいつの召喚だけだ!」


 オレン先生は咳払いをした。


「うむ。解説をしよう。たしかに、マーカスはコプタンを呼び出した。1年生でコプタンを呼び出せるのはたいしたものだ。自信をもっていい。だが、ケイニスが言う通り、完ぺきな召喚ではなかった」


 オレン先生はそこで黒板にむかって、ちょっと板書をしながら説明した。


「まず、知っておくべきことは、コプタン族は小さい方がより活動的、つまりより優れたコプタンだということだ。マーカスが呼んだコプタンは、厳密にはデプタンというコプタンの下位種にあたる」


 そこで、「なーんだ。バリバリ失敗じゃねーか!」と、オッペンが大きな声でつぶやいたもんだから、マーカスが恐ろしい表情でイーアとオッペンのいる方を睨んだ。

 (オッペン、黙ってて!)とイーアは心の中で叫んだけど、オッペンはもう言っちゃった後なのでどうしようもない。


 オレン先生は解説を続けた。


「そして、コプタン族の召喚は、複数召喚が基本とされる。教科書的には、コプタンの召喚成功とは、体長10センチ以下のコプタンを3匹以上呼ぶことだ」


 オッペンがイーアの後ろの席で、また大きな声でつぶやいた。


「じゃ、イーアの召喚は成功だな。イーアの勝ちだ!」


 またマーカスがギロリとこっちの方を睨んだ。

 オッペンの声はクラス中に聞こえていたので、オレン先生はそこで咳払いをした。


「イーアの召喚にも問題があるのだが、いずれにせよ、さっきの召喚は勝負ではない。ふたりとも皆が召喚術を理解できるように協力してくれたのだ。さぁ、もう一度、ふたりに感謝をしよう」


 オレン先生になんとなくうながされ、みんなはイーアとマーカスを称えるように拍手をした。

 オレン先生はまた解説を始めた。


「さて、問題は、マーカスの召喚に何が足りなかったのかだ。考えられるのは<呼ぶ力>か魔力だろう。だが、コプタンの召喚に必要な魔力は少ない。だから、この場合は、おそらく<呼ぶ力>の不足だ。これは練習をして鍛えるしかない」


 マーカスはむすっとした顔で黒板をにらんでいる。

 オレン先生は解説を続けた。


「さて、イーアの召喚だが……。呼んだコプタンはとても活発で、複数召喚にも成功している。一見、成功しているようだが、召喚獣が言うことをきかなかったね。これは、召喚獣の暴走と呼ばれ、召喚で一番危険な失敗だ。こうなった場合は、すぐに召喚獣を強制送還しないといけない。今回はコプタンだったので危険はなかったが、もしも危害を加えるような召喚獣を暴走させてしまえば、怪我人や死人すら出かねない」


 先生の解説を聞くまでもなく、コプタンの大暴走は失敗だとイーアは思っていたけど。説明を聞いて、イーアは危機感を持った。


(強い召喚獣を呼んだ時に暴走しちゃったら、どうしよう……)


 強制送還が間に合わなかったら? そんなことを考えたら、召喚する気が失せてくる。

 オレン先生は説明を続けた。


「暴走の原因は、おそらくは魔力に対して<呼ぶ力>が強すぎるからだろう。だが、普通は魔力が少なければ強い召喚獣を呼ぶことができないため、めったに起こらない事故のはずだが……」


 オレン先生は言葉をにごして自信がなさそうに言った。

 めったに起こらないわりには、イーアは奨学生試験の時にも上位種を呼んで暴走させてしまった。

 でも、そんなこととは知らないケイニスは、今の説明で納得して先生に「ありがとうございました。よくわかりました」と礼を言った。

 そして、授業は再開された。


 でも、もうその後の授業は、何もイーアの頭に入らなかった。

 イーアの頭の中はコプタンの暴走でいっぱいだった。だから、その日のイーアのノートは、「やっちゃったよ~」という文字と走り回るコプタンの絵だけになった。


 召喚術の授業が終わると、イーアはアイシャ達にさっそく、「さっきはごめんね。コプタンを暴走させちゃって」と謝ろうとした。

 でも、イーアが「さっき……」まで言ったところで、オッペンが後ろからイーアのローブを叩いた。

 オッペンはたのしそうに大声で言った。


「さっきの召喚最高だったぜ! さっすがイーアだな! あのマーカスの顔! おもいだしても笑えるぜ! 鼻から子豚!」


 オッペンはそう言いながらすでに大笑いしている。

 おどろいたことに、キャシーも笑いをかみころしながら言った。


「オッペン、大声で言っちゃダメでしょ。でも、あれは、おかしかった。思い出すと、笑いが、とまらないっ」


 キャシーはこらえきれずに腹を抱えて笑っている。アイシャもにこにこしながら言った。


「今日の授業はおもしろかったねぇ。毎回イーアの召喚があると楽しいのにねぇー」


 どうやら、コプタンの起こしたハプニングを誰も気にしていない……というか楽しんでいたみたいだ。

 マーカス以外は。

 マーカスだけは、本気で怒っていた。



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