4-50 落日の王城
燃え盛る城の中、誰もいない玉座の間に、国王がひとり目をつぶり座っていた。
深紅のローブの魔導師が足音を響かせ、ひとり孤独な玉座へと近づいた。
「陛下」
疲れ切った表情で目をつぶったまま白髪の王は言った。
「アスカルか。状況は?」
アスカルは淡々と報告をした。
「帝都は完全に陥落しました。<白光>も今はクロー派が主導権を握り反乱軍側についたようです。スタグヌス派の残党は戦いを続けていますが、もう勝ち目はありません。この城はギアラド人勢力を中心とする反乱軍に攻められており、まもなく落城するでしょう」
国王は両目を開き、アスカルを見た。
「ならば、なぜ来た? わしがここで死ぬこともわかっているのだろう」
「責任をとりに。こうなった責任は<星読みの塔>塔主の私にもありますから」
「まさか、こうなると知っていたのか?」
「いいえ。何度も申し上げているように、確たる未来は誰にもわかりません。ですが、私はエレイが真実を伏せているのを知って放置してきました。それがこの結果につながるであろうことを知りながら」
国王は信じられないといった表情で、あえぐようにたずねた。
「なぜだ? 我が姪ごよ。なぜ?」
「エレイは苦しみすぎました。この国のために、文字通り、その身を犠牲にさせられ、人生を失い……。伯父上。この国はあまりに多くの者を犠牲にしてきました。その玉座からは苦しむ下々の姿は見えないでしょう。父がラナ人を妻に娶るために王族を離脱してなお、伯父上のご厚意で、私は何不自由ない暮らしをさせてもらいました。ですが、私に流れるラナの血は、王族には見えない下々の姿を見せてきました。私は、伯父上が玉座におられる限り、彼らの側につくことはありません。ですが、彼らの苦しみ、怨嗟の声、新しい国を求める声を聞き続けてなお、エレイや弟子を売り渡すことはできませんでした。せめてもの償いに、私が死出の旅をお供いたします」
国王は力なくうなだれ、城を破壊する音が響く中、しばし沈黙した。やがて国王はアスカルを見て、懇願するように言った。
「……アスカルよ。かわいい姪よ。まだ間に合う。せめてお前だけは生きなさい」
「いえ。すでに手遅れでしょう。未来を見ることのできぬ私にも、この状況はあきらか……」
落ち着いた声でそう言い、燃え落ちる玉座の間をアスカルは見渡した。
アスカルが最後まで言い終える前に、突如、天井が崩れ落ち、玉座の上に落ちた。そこにあった国王の姿は消えていた。
「伯父上……」
アスカルにも巨大な柱が落下しようとしていた。
だが、柱に潰される直前、アスカルの体はふきとばされた。
体当たりしてきたのは、久しぶりにその顔を見る、一番できの悪い弟子だった。
「オッペン!? どうしてここに?」
「なんでって、助けにきたんだよ。窮地のプリンセスをたすけるのはヒーローの仕事だからな。母ちゃんと同じくらいの年のプリンセスでも」
「だまれ! バカ弟子が! 命をかけることか! 死んだら笑えないぞ」
「だいじょうぶだって。弟子を信じろ! おれも今日はもう未来予知はできねぇけどな! こっちだ!」
オッペンはアスカルを抱えて、火の壁の切れ目にかけこんだ。




