4-39 戦闘開始
エラスシオの光属性の攻撃は、不死者の王の腕を切り落とした。
「よっしゃ! 腕を切り落としたぜ!」
オッペンが叫んで跳びあがった。
不死者の王の腕は、じきに回復してしまうだろう。だが、エラスシオの一撃で、寸前のところで多くの兵士の命を救うことができた。
『ありがとう、エラスシオ』
『では、またな。ここにいれば力が奪われる。必要な時に呼べ』
エラスシオはすぐに姿を消した。
今は、不死者の王による魔法無効の術の効果は消え、召喚術はだいたい普段通りに使えるようになっている。
だけど、不死者の王は今も霊力吸収を続けていて、弱い精霊ならすぐに帰還してしまうほどの力で精霊達から霊力を吸い取り続けているから、精霊はすぐに戻さないといけない。
しかも、不死者の王は使える魔法や攻撃の種類が増えていて、状況に応じて行動を変える。
まるで巨大で強力な魔導士を相手にしているかのようだった。
だけど、エラスシオの攻撃を見てイーアが思ったのは、イーランがいなくても希望がないわけではないということだ。
(エラスシオの攻撃は今もちゃんと効いた。どこかに弱点があれば……)
光を操る精霊、エラスシオとティトの攻撃なら、ほとんどの攻撃を無効化する不死者の王にも効果はある。どうにか工夫すれば倒す方法があるんじゃないだろうか。
「おい、見ろ。不死者の王の腕が元に戻っていく!」
マーカスが言う通り、地面に切り落とされたはずの不死者の王の腕はもとの位置に復活している。
イーアは驚きもなくその様子を見ていた。以前、ゲオといっしょに色々攻撃を試した時に、不死者の王の特徴はつかんでいた。
でも、不死者の王を初めて見たオッペンとマーカスは驚いていた。
「あいつ、本当に不死身かよ!」
「だから、言ったろ。無謀だって。俺やオッペンなんて何の役にも立ちやしない」
不死者の王は、ゆっくりと身をかがめ、復活した腕で武器を拾った。
その様子を見ながら、イーアは考えた。
「拾ったっていうことは、腕と違ってあの武器は代わりがないんだね……」
不死者の王の体にもどこかに復活しないパーツがあるかもしれない。
不死者の王は亡霊系の精霊とは違う。
あれが古代魔術で作られているということは、魔道具や呪符でできている箇所があるはずで、その部分を破壊すれば、行動不能にできるかもしれない。
不死者の王は顔を攻撃しても無駄だった。
ゲオと一緒にハザリア平原で色々と試した時にわかっている。
足は攻撃しても足どめすらできない。そもそも不死者の王は二本の足で歩いているというより浮遊している感じに近い。
顔も腕も足も違う。
じゃあ、残る場所は?
胴体だ。
不死者の王の胴体は闇で出来たローブのようなものに隠されている。
胴体部分には、どんな高威力の攻撃をあててもダメージを受けていないみたいだった。
だから、あの中は闇のように実体がないのだろう……と思っていたけれど。
他の場所じゃないのだから、きっと、あの闇のローブで隠された部分のどこかに重要なパーツがあるはずだ。
そして、どこかに『支配者の石板』がある。
不死者の王は再び剣を振り上げ、必死に逃げる帝国軍の兵士達をなぎ払おうとしていた。
『ティト……』
イーアがティトに攻撃指示を出そうとした、その時、不死者の王の動きがとまった。
『あれ?……』
イーアの全身をずっと襲っていた軽い倦怠感みたいなものが消えた。
不死者の王の霊力吸収攻撃が止まったみたいだ。
「なんか、あのバケモン、変だぞ?」
オッペンがつぶやき、マーカスもふしぎがった。
「何が起こってるんだ? 不死者の王がほとんど動かなくなったぞ?」
不死者の王は、突然、動くのをやめた。魂が抜けたようにぼーっとしている。
まるで不死者の王を操作をしていた人が突然消えたかのように。
ここにいる人間は何もしていない。だけど、不死者の王の身には、まちがいなく何かが起こっている。
なぜかわからないけど、不死者の王は今、状況に応じた対応も特殊な攻撃も何もできないようだ。
チャンスだ。
イーアはこの時のためにとっておいた霊力回復効果のあるレントンの実にかじりつきながら言った。
『ルヴィ、みんなに戦闘準備をしてもらって。ガンガン攻めるよ』




