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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第4部2章 新型兵器

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4-20 要塞へ

 マーカスとオッペンがごろごろしている部屋に入り、イーアは報告した。


「新型大量破壊兵器の場所がわかったよ」


 ボンペール家に忍ばせたダノミノが、情報をつかんでくれた。

 正直、イーアはうまくいくと思っていなかったけれど、ダノミノ達は想像以上に有能だった。

 『ダノミノは生きる物の思念を読み取り、互いに意識を共有できるのだ』とオクスバーンがよくわからないことを言っていたけれど、どうやら、その能力で人間の考えることもわかるし、一匹のダノミノが知ったことなら他のダノミノも知ることができるらしい。

 しかも、ダノミノの霊力自体は小さいからか、召喚を維持できる距離が他の精霊より長かった。


 『こんなにすごい小さな精霊がこっそり森に住んでいたんだね』とイーアは驚いたけれど、ティトは『そんなにすごいか?』とダノミノのすごさがよくわかっていないようだった。


 さて、新型大量破壊兵器があるのは、ボンペール商会が帝国軍と共同で運営している「工場」のひとつで、そこはすでに工場というより軍事要塞化されているらしい。


「よっしゃ! そこに乗り込んで新型兵器を破壊するんだな」


 オッペンはとび起きた。


「うん。でも、わたし一人で行ってくるよ」


 イーアがそう言うと、意外なことにマーカスが一番に文句を言った。


「おい、俺はまた留守番か。たまには俺もつれていけ」


 反対されるとは思ったけれど、イーアは全部考えた上での決断だった。

 お父さんが残した本で独学で魔導工学を学んだマーカスは、自分の体を改造強化していて、それなりの戦力になる。だけど、それ以上にリスクがあった。


「わたし一人の方がピンチになった時に逃げやすいもん。だから、今回は一人で行ってくるよ。敵の基地だから、撤退がすぐにできないと。兵器を破壊できても、敵に捕まっちゃったら終わりだもん」


 イーアひとりなら、いざとなればウェルグァンダルの塔に転移できる。転移妨害の結界を張られていなければ。だけど、他の人もいるとなると、そうはいかない。


「俺だって転移水晶を用意すれば離脱できる」とマーカスは言ったけれど。


「その転移水晶が手に入らないもん」


「この貧乏め!」


 転移水晶は高価な上に、転移先の安全な場所を確保しなきゃいけなくて、それが難しい。転移先を追跡探知する魔法技術もあるらしいから、隠れ家を転移先にするわけにはいかないのだ。


「マーカスはおとなしく留守番してろよ。イーアはおれがバッチリ守るから」


 なぜか自信満々に言うオッペンに、イーアはきっぱり言った。


「オッペンこそ、絶対に来ちゃだめだよ。オッペンはわたしに協力してるのがバレちゃ困るから。絶対にいっしょに戦えないよ」


 <星読みの塔>の占術士であるオッペンは、本来は帝国側の人間なのだ。


「いいんだよ。おれは、ダチ助けて破門になるなら、よろこんで破門になるぜ」


と、オッペンは言ったけれど、イーアにはそんな簡単な話だとは思えなかった。


「ただの破門ですむのかな? オッペン、<星読みの塔>で知った情報をしゃべると、最悪の場合は死んじゃうような契約をしたって言ってたよね?」


「おう。うちの塔は国家機密をたくさん扱うから情報流出にはうるせーんだよ。ひでぇんだぜ。ししょーのとしも言えねぇんだから」


「アスカルさんの年齢?」


「ああ見えて、ししょーはおれのかあちゃんとあんま……ぐへぇっ! ぐはぁっ!」


 オッペンのお母さんはまだ三十代だから、アスカルと年齢が近くても不思議はないけれど。

 もんどりうって苦しむオッペンにむかってマーカスが言った。


「そんなくだらない情報に命をかけるなよ。それで死んだらバカな死に方の中でもかなりの上位だぞ」


 そして、苦しむオッペンを見てイーアは確信した。


「そんなどうでもいい情報でも死にそうになるなら、やっぱり、裏切りがバレたら命はないんじゃないかな」


 というわけで、オッペンは絶対に連れていけない。


「やっぱりわたしだけで行くよ。それに、人間はひとりだけど、わたしには精霊のみんながいるから、全然ひとりじゃないもん」


 ・・・


 「カメノコウラ」というコードネームで呼ばれているボンペール商会の秘密工場は、見るからに堅牢な要塞だった。

 地上に見える壁面やドーム状の建物は、いくら大砲や魔法攻撃を加えても壊れそうにない。

 さらに、秘密工場の入り口のゲートには、人の目には透明に見えるようなものでも発見できるセンサーが設置されている。

 だから、透明ローブで忍びこむこともできない。


 イーアはその山岳地帯にひっそりとある軍事要塞を、近くの林の中から眺めた。

 奇妙なことに、要塞周辺では木も草も皆枯れていて、今にも倒れそうな立ち枯れた木々の林が続いていた。

 フーシャへカは言っていた。かつてメラフィスは緑に覆われた美しい土地だった。それが砂漠となったのは、『支配者の石板』のせいだと。

  今、この土地で同じことが起こっているのかもしれない。


『正面から突破するのは無理そう。やっぱり作戦通り進めるのが一番だね』


 ティトに向かってイーアがそう言った瞬間、声が聞こえた。


「ならん。これ以上帝国軍に手を出すことは許されない」


 イーアが振りかえると、そこにはゲオがいた。


『ゲオ先生?』

 

 ゲオは重々しい口調で言った。


「ウェルグァンダルの塔は今、首の皮一枚でつながっている状態だ。これ以上やれば、ウェルグァンダルの召喚士は確実に帝国から敵とみなされる」


「でも、あの新型兵器は世界から霊力を奪っていくから、人界の精霊たちが大変な目にあっちゃいます。ウェルグァンダルの召喚士の使命は、人と精霊の架け橋。そうですよね? ゲオ先生がそう教えてくれたんだから。精霊を守るためには、あの兵器を破壊しないと」


 ほかの人間ならともかく、ゲオなら説得できると、イーアは思っていた。

 ギアラドの一件と違い、今回の戦いは召喚士の使命と一致する。

 でも、ゲオは言った。


「ガリならそう言うだろう。たしかに、ウェルグァンダルの精神には基づいている。さらには、最近急増した自然災害や不作もあの兵器を使用した結果かもしれない。この異様な山の姿が示すように、霊力を奪われた大地はやせ、不毛の地となる。あの力を使い続ければ精霊だけでなく人類が急速に衰退へと向かうだろう」


 イーアはゲオには『支配者の石板』について何も言っていない。だが、ゲオはすでにあの兵器の性質をよく理解しているみたいだった。


「君が行おうとしていることは全くもって正しいのだ。だが、悲しいかな我々はこの国に生きる人間でもある。エルフの子よ」


 そう語りかけるゲオの表情はやつれ、憔悴(しょうすい)しきっているように見えた。


「召喚士の多くは帝国人だ。アグラシア帝国で生まれ生き、家族もこの地に住んでいる。ウェルグァンダルの塔が敵とみなされれば、彼らは全員処刑対象となる。親、妻、子、孫まで殺される。そんな事態を引き起こすのか。次期塔主候補よ」


「それは……」


「我々は召喚士である前に人の世で生きていく人間なのだ。君やガリには人の世を捨て異界へ帰るという選択がある。だが、他の召喚士にはない。シンプルに問おう。君はどちらを選ぶ。精霊か? 召喚士達か?」


『それは……選ばない! ごめん、ゲオ先生! 石サソリ、グモーチ!』


 イーアの足元の地面に穴が開き、イーアを吸い込んだ。そして、同時に穴の周辺に石サソリが出現した。


 現在、最も多くの精霊と契約をしている召喚士であり、先代塔主と次期塔主を争ったゲオは、精霊の知識や契約数が多いだけではなく、ガリが追い抜くまでウェルグァンダル最強の召喚士と呼ばれていた。

 ヤララに聞いた話では、今でもたぶん、ゲオはザヒより強い。

 そんなゲオと召喚勝負している暇は、今のイーアにはない。


『待ちなさい!』


 ゲオの叫びなんて聞かず、穴の中でグモーチにのっかったイーアは、そのままグモーチの背に乗って地中を猛スピードで進んだ。

 穴はすぐに他のグモーチに塞いでもらう。それに、石サソリに邪魔されて、ゲオは追いかけてくることができないはずだ。


 カンラビの森の遺跡で仲間にした石サソリは、イーアが契約している精霊の中でも特殊で、以前フーシャヘカに聞いた話では、もとは古代メラフィスで兵器としてつくられた人工精霊だったらしい。

 石サソリは、人間を襲って毒で石にしてしまうけれど、精霊には反応しない。

 イーアはずっと自分も襲われる側だと思いこんでいたけれど、フーシャヘカに言われてためしてみたら、石サソリはイーアには無反応だった。

 だから、イーアは遠慮なく自分の周囲や通った後に石サソリを配置できる。


(本当にごめん! ゲオ先生!)


 ゲオが言うこともわかるし、ゲオにはたくさんお世話になっているから、こんなことはしたくなかった。

 だけど、あの新型兵器は、破壊しないといけない。


 イーアは事前にグモーチに指令をだしていた。イーアのために地下の通路を掘ることと、もう一つ。

 あの要塞の地下の壁に穴をあけること。


 『掘削の王獣』と呼ばれるグモーチに、穴をあけられないものは、ほぼない。

 さすがに、要塞の地下の壁は頑丈で簡単に穴は開かないとグモーチ達は言っていた。

 でも、イーアが地下の壁に到着した時、ちょうどグモーチが立派な穴を開けたところだった。


『ありがとう! グモーチ!』


 グモーチからとび降り、警報が鳴り響く要塞の中へとイーアは足を踏み入れた。



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