第4部2章プロローグ 噂話
<白光の魔導士団>の神殿の一角では、今日も噂好きの中堅魔導士達がささやきあっていた。
「やれやれ、ついに<黒竜の子>が動いてしまったな」
「ゲオが謝罪行脚でどうにか事態を鎮めようとしているが」
「陛下も帝国政府もあれは許すまい。完全な反逆ではないか。ギアラド人どもはもちろん、ウェルグァンダルの召喚士全員とその一族係累皆殺しにせねば気がすまぬだろう」
「だが、ウェルグァンダルを完全に敵にまわす度胸が今の帝国政府にあるか? もともと彼奴らの破壊力は、ホーヘンハインと同等クラス。しかも、あの<黒竜の子>はだてに最強の召喚士と呼ばれてはいない。ホスルッドは、<黒竜の子>には勝てぬから自らやりあうのは御免だと宣言しているらしいではないか」
「うむ。ふざけたことを、と怒りたくなるが、ホスルッドの本音だろうな。<黒竜の子>にはアンドルをぶつける計画であったが、実行する前にアンドルが死ぬとは誤算だったな。アンドル亡き今、一計謀り罠にはめねば<黒竜の子>は仕留められぬだろう」
「アンドルごときなくとも、我らが全勢力を持ってすればウェルグァンダルの召喚士どもを叩き潰せる。だが、帝都含め、帝国各地に甚大な被害が及ぶのは避けられぬ。数多が死に国土荒廃すれば、革命主義者どもはますます勢いづく。結果、ラムノスの滅亡の予言が成就してしまうなどということになっては元も子もない」
「うむ。しかも帝国が弱れば共和国が大規模侵攻をしかけてくる。すでにこの機に大戦力を投入し、とれるだけの領土を奪い取ろうと邪な計画を進めていると聞く」
「であれば、やはりウェルグァンダルは敵に回せぬ。とりあえずはゲオを使って<黒竜の子>に首輪をつけさせるのでは?」
「いや。団長閣下が動くという話がある。あの件は我らの落ち度だと、陛下はお怒りのようだからな」
「たしかにザヒの裏切りを許すとは、団長閣下も詰めが甘い」
「ザヒはアンドルが抱えていたからな」
「あれもアンドルが蒔いた災いの種か。つくづく下賤な魔女の子なんぞを<熟達者>にまでとりたてたのは過ちだった。して、やはり我々がウェルグァンダルと戦うのか」
「そうとも限らん。例の計画が完成間際だというからな」
「なんと。ついに完成するのか。ついにメラフィスを超える時代が来るか。ならば、やはり帝国は盤石だな」
笑いあい、魔導士達は別の話題に移っていった。




