4-4 ザヒのたくらみ
イーアはオーロガロンの背の上、空から地表を探した。
わずかばかりの林の先には、ろくに草木の生えない荒れ果てた土地が広がっており、その荒れ地の高台に人影が一つと、霊獣の影が一つ見えた。
『オーロガロン、あそこに向かって』
近づくにつれて、それが黒いローブ姿の人とワイヒルトだというのが、はっきりと見えてきた。
オーロガロンに頼んで、イーアはその台地の上に降りた。
「ようやく来たか。ガリの一番弟子」
待ち構えていた黒いローブの男は、やはりザヒだった。
今日のザヒは<白光>の白いローブを着ておらず、仮面もつけていない。代わりにまるでガリが着ていそうな黒い地味なローブを着ている。
イーアは開口一番、単刀直入にたずねた。
「ザヒ。なんでギアラドの人達を集めているの? 本当にギアラドの王になるつもり?」
ザヒは嘲笑するように笑った。
「ギアラドの王? ふざけるな。ガリがせこせこと虫けらどもを助けて得た名なんぞに、興味はない」
「じゃあ、なんでギアラドの王をかたってギアラド人を集めてるの?」
ザヒは馬鹿にするように笑った。
「決まっているだろう。反乱分子を一か所に集めて、奴らを一網打尽、皆殺しにするためだ」
「そんなひどいこと! ザヒは自分もギアラド人だってことを知らないの?」
ザヒは顔をゆがめ、吐き捨てるように言った。
「黙れ、蛮族。ギアラドなどという忌々しい下等な血筋、認めてたまるか。ギアラドの逆王と呼ばれた反逆者の息子シャイド、赤子の内に処刑されているはずの死刑囚、……だからこそ、俺はこの計画を考え、申し出たのだ」
ザヒは自分の出自をすべて知っているようだった。
ザヒは怒りをこめた声で言った。
「奴ら芋虫どもと一緒に地を這う義理は俺にはない。俺はウェルグァンダル塔主オグレルに育てられた生え抜きの召喚士であり、栄えある<白光の魔導士団>の一員だ。他のレッテルなんぞ、俺は断固否定する!」
だから、ザヒは自らギアラド人を集めて虐殺する計画を企んだのだという。
だけど、イーアはその言葉を冷静に聞いていた。
最初にザヒの邪悪な企みを聞いた時は怒りを感じたけれど、<白光>がどういう組織か考えれば、ザヒが置かれている立場の想像はつく。
イーアは、ザヒの首に装着されている首輪を見た。
「その首輪、囚人兵の。裏切れば、ザヒはその首輪で殺される。そういうことでしょ?」
アンドルが、裏切れば死ぬ状態に置かれていたように。
<白光>が、反逆者の子でありガリの弟であるザヒを自由にしておくはずがない。
ザヒがその事実を知ったなら、絶対に。
出自を知ったザヒは、こうでもしなければ<白光>で生きることを許されなかったのだろう。
だけど、ザヒは否定した。
「いや。俺はこの任務にあたり、自らこの首輪をつけることを申し出たのだ」
「忠誠の証に?」
「何が言いたい? 蛮族」
「ううん、何も」
いつもいつもイーアを馬鹿にして挑発するような物言い。ザヒは本当に嫌な人だ。
だけど、イーアはもう怒りを感じなかった。
馬鹿にしたような態度も、ザヒが自分のプライドを保つための強がりのようにしか見えなかった。
かわいそうだ、なんて言ったら、それこそザヒは怒り狂うだろうから、何も言わないけど。
イーアは、ザヒに同情しか感じていなかった。
「ギアラドの虫けらどもを助けたければ、俺を倒せ。召喚で決闘だ。次期塔主の座をかけた決闘の件、ガリに聞いているだろう?」
ザヒはそう言って、『友契の書』を取り出した。
「うん、聞いてる。いいよ。召喚バトルで決めよう」
イーアも『友契の書』を手に取った。闘う覚悟はできていた。
今度こそ、ザヒを倒そう。
イーアは、ザヒと決闘する時に投げるようにとガリに渡されていた小さなボールのような魔道具を空に投げた。
あの魔道具は証拠として決闘の様子を記録してくれるらしい。
ザヒはイーアを見下した態度のまま、薄ら笑いを浮かべて言った。
「まずは前回の続きから行こうか。『爆弾炎岩パガンゴ』」
沢山のパガンゴが荒れ地に出現した。
前回、バララセで戦った時、霊力切れのイーアはあの大量のパガンゴで殺されかけた。
さらに前、入門してから数か月しかたっていない時には、オレンが呼び出したパガンゴ一体にすら苦戦した。
だけど、それはもうずっと前のことだ。
イーアは、身を震わせて小さく跳ねている溶岩の塊みたいなパガンゴたちを見ながら、ザヒに言った。
「小手調べはいらないよ。前とは違うから。全力で来なよ」




