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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第4部 革命のダークエルフ 第1章 ギアラドの王

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4-2 次期塔主の選出

 ウェルグァンダルの塔主の部屋。

 ガリのデスクの上では、小さな岩竜の赤ちゃんがゴロゴロ転がって遊んでいた。

 モルドーに託された岩のたまごが、赤ちゃんドラゴンになったのだ。

 この小さなかわいい岩竜がいずれモルドーのような巨大なドラゴンになるなんて信じられないけど、そうなるまでには永い永い時が、人間の一生では見届けることができないくらいの時間が、かかるらしい。 


『ギアラドの王って、ガリのことだよね?』


 イーアが単刀直入にたずねると、ガリは不機嫌そうな表情を隠そうとしなかったけれど、嫌々といった感じで認めた。


『お前がいうギアラドの王と呼ばれる存在は、たしかに俺をさしているだろう。だが、俺はギアラドの王なんぞになるつもりはない。俺は人間の戦いには手を貸さん。そもそも、召喚術を使って戦争へ加担することは、この塔の規則で禁止されている。あえて目をつぶっているが、お前がやっていることは、本来は召喚士として許されないことだ』


 ウェルグァンダルの召喚士は、自分の身を守る時を除いて、召喚術を使って戦争に加担することは許されない。

 その決まりはイーアも知っているし、必要なルールだと思っている。

 そのルールがなければ、ウェルグァンダルの召喚術が戦争に使われ沢山の人が精霊に殺されることになってしまうだろう。

 そんなことは絶対に避けないといけない。


『わたしだって戦争には加わらないよ。アグラシアに新しい国をつくるのを手伝っているだけだよ』


『直接戦場での戦闘に加わらなくても、実質的に革命戦争に加担しているだろう。すでにダークエルフは革命勢力のシンボルのようにいわれている』


 それは否定できないから、イーアはちょっと論点をずらして言った。


『正体が召喚士だとはバレてないよ』


『召喚士なら、ダークエルフの正体が召喚士だろうと気が付く。塔主が俺でなければ、今頃、お前を破門にしろと主張する召喚士達が塔に集まっているはずだ』


 どうやら、ガリに文句を言っても仕方がないと皆あきらめているから、ウェルグァンダルの<召喚士>達は今のところ事態を静観中らしい。

 本当にガリが塔主でよかったけれど、ガリの小言は続いた。


『だいたい、王制を廃止したところで、また新たな支配者があらわれるだけだ。隣のチュラナム共和国を見ろ。王制を廃止した後、新たな支配階層があらわれ、結局、格差はかわらず、人々は苦しみ続けている』


『そうならないような、新しい国をつくるんだよ。うまくいくかはわからないけど。やってもみないで、最初から絶望なんてしてられないでしょ?』


 イーアがまっすぐな目でそう言うと、ガリは小さくため息をついた。


『勝手にしろ。だが、塔主自らルールを破るわけにはいかない。革命戦争にギアラドの王とやらが加わることはない』


 イーアはうなずいた。

 どうせガリはそう言うだろうと、はじめから思っていた。


『わかった。だけど、ひとつだけ、確認したいことがあるんだけど……ザヒはガリの弟だよね?』


 確信はなかったけれど、自信がないわけではなかった。

 思った通り、ガリはしぶしぶ認めた。


『血のつながりでいえば、そうだ』


『何が起こったの? ガリとザヒはギアラド王家の末裔なんだよね?』

 

『今更、ギアラド王家の末裔も何もない。ギアラド王国の滅亡から何百年もたっている今、血はおおいに薄れている。そもそも血のつながりなんぞくだらん。意味のないものだ』


 血のつながりのないドラゴンを家族だと思っているガリにとっては、たしかにそうなのかもしれない。たしかに、血のつながりよりも大事なものはあると思う。でも、イーアは納得しなかった。


『でも、みんながガリのことを王家の末裔だと信じているんでしょ? だから、ギアラドの王と呼ばれてるんでしょ?』


 血筋それ自体に意味はなくても、人々が信じていれば、それは意味を持つ。

 「ギアラドの王」の存在はすでに大きな意味を持っていた。

 ガリは嫌そうに説明をはじめた。


『たしかに俺が生まれた家はギアラド王家の血を引くといわれていた。そして、たしかに、異界アディラドに転移するためのギアラドの秘宝が受け継がれていた。今から25年以上前、反乱を企てたという咎で館が帝国軍に襲われた時、俺は偶然その秘宝を使い、リアウェニヴァがすむアディラドへのゲートを開き、ひとり難を逃れた。だが、家の人間は全員、処刑された。親類縁者、使用人とその親戚すら』


『ひどい……』


『赤子のザヒだけは乳母が逃し、ウェルグァンダルの塔へと届けられた。そして先代塔主オグレルが親代わりになってザヒを育てた。このことを知っているのはオグレルと俺の他にはゲオのみ。俺とザヒが兄弟であることは偶然聞きつけてしまったリグナムも知っているが』


『リグナムさんが知ってるってとこが不安……』


 イーアは思わずつぶやいた。リグナムは一度その秘密をうっかりイーアに言いそうになっていた。


『まったくだ。お前がかぎつけたくらいだ。すでにどれだけの者に知られているかわからん。それに、帝国の中枢にいる人間は、俺がギアラドの逆王と呼ばれた者の子だと、だいぶ前に知っていた』


『帝国に知られてるの?』


 反逆者の子として死刑を宣告されている人間の割には、ガリは帝国内で堂々と名高い魔導師として知られている。

 ウェルグァンダルの塔は厳密には帝国の領土外にあるらしいけれど、だいぶ前から帝国の魔導士協会に所属している機関で、塔主のガリは帝国の魔導士協会に<師>の資格を持つ者として認定されている。


『その頃には俺はすでに一個師団をたやすく壊滅できる力をもっていたため、帝国政府は俺を簡単には殺せないと判断し、密約をもちかけてきた。奴らの望みにこたえて力を貸すことと帝国への忠誠、そして血筋を明かさないことを条件に、俺の存在に目をつぶるというものだ』


『そっか。ガリはずっと、そういう状態だったんだね……』


 ずっと前に聞いた、ガリの弟子はギアラドについて触れてはいけない、というゲオの警告をイーアは思い出した。


『ザヒは何も知らないの? ガリと兄弟だってことも?』


『おそらくな。少なくともギアラドについては何も知らないはずだ。オグレルは最後まで何も言わなかった。ゲオと俺も何も言っていない。それに、知っていたら、<白光>には入らないだろう。あの愚か者は、自分が利用されていることに気が付いていない』


 ガリはいらついているようにそう言った。


『<白光>はきっと、ザヒがガリの弟だってことも、ギアラド王家の血を引いていることも、全部知ってるんだよね。ザヒは、ガリに対しての人質ってこと?』


『<白光>は俺への牽制(けんせい)にも使うつもりで引き入れたのかもしれないが、ザヒに人質の価値はない。俺はあいつを弟だとは思っていない』


 口ではなんといっても、ガリが弟を見捨てないことを、イーアはよくわかっていた。

 元々なんのつながりもないイーアのことだって、ガリは弟子にしたからという理由だけで、絶対に見捨てない。

 不愛想で冷たい態度をとるけれど、ガリは実はとてもやさしい人だ。

 それに、だから、今、ガリはいらついているのだ。絶対にガリは<白光>に入ってしまったザヒのことを心配している。


『……わかった』


 イーアはそう答えながら考えていた。

 ザヒはガリにとって、唯一残った、血のつながった人間の家族だ。

 なんとかして、ザヒを<白光>から抜けさせて、できたらガリと仲直りさせたい。

 ガリへのせめてもの恩返しとして。


 ガリはイーアの思いを見すかしたように冷たく言った。


『俺への遠慮はいらない。必要ならザヒを殺せ』


『そんなこと、できるわけないよ』


『遠慮して勝てる相手ではない。あいつは<白光>に入って以前よりも大きな力を手に入れたようだ』


『別に戦いたくないもん。ザヒは襲ってくるから、戦いになるかもしれないけど。本当はウェルグァンダルの召喚士同士は戦っちゃいけないんでしょ?』


 ところが、ガリは言った。


『いや、塔主として決闘許可をだそう。どうせお前とザヒはどこかで戦わないといけない』


『なんで?』


『俺は、はなからとっとと塔主の座を退くつもりだったが、今は魔導士協会から、そうしろという圧力がかかっている』


『ガリが塔主をやめる!? そんなの困る!』


 イーアが好き放題に革命軍に協力できているのは、ガリが塔主でいてくれるからだ。イーアとしてはガリにいなくなられては困る。


『すぐにはやめないが。近いうちに次期塔主を決定することになりそうだ。塔の召喚士の多くも次期塔主を決定することに賛成している。<白光>はザヒを次のウェルグァンダル塔主にしようと画策(かくさく)しているはずだ。そうすれば、実質ウェルグァンダルは奴らの手の内だからな』


『そんな……』


『いやなら、お前が勝て。次期塔主はザヒかお前のどちらかだ。人界の争いにどっぷりつかったお前たちはどちらもふさわしくないが、候補が他にいない。本来、次期塔主はウェルグァンダルが選ぶべきだが、塔の慣例として候補者を事前に決めることもある。召喚術による決闘は選考方法の一つ。今回はそうなるだろう』


 イーアはそこで思わずたずねた。


『ウェルグァンダルってやっぱり今も生きてるの? どこにいるの?』


 人間の間で語られている伝説の中では、慈悲深き竜はもう存在しないことになっていた。だけど、イーアがこれまで会った精霊達の多くは、まるでウェルグァンダルがまだいるかのように話をしていた。

 ガリはむしろ驚いたように言った。


『まだ気が付いていなかったのか? ウェルグァンダルはこの塔そのものだ』


『この塔が、ウェルグァンダル!?』


『この塔はかつてドラゴンだったウェルグァンダルが姿を変えたものだ。塔主の別名はウェルグァンダルの代弁者。塔主とは、時空竜ウェルグァンダルと契約し、ウェルグァンダルの声を聞き伝える者のことだ』


『そうだったんだ……。時空竜と契約……だから、ガリは瞬間移動できるんだね』


 ガリは言った。


『ザヒの支持者達は、決闘による選出を望んでいる。ウェルグァンダルに任せればお前を選ぶかもしれないが、決闘なら間違いなくザヒが勝つだろうとやつらは考えている。だが、お前は召喚士としては全く未熟だが、戦闘力はすでに一人前だ。ザヒ相手にも勝機はある。<白光>にウェルグァンダルを乗っ取られたくなければ、ザヒを叩きのめせ』


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