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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第4部 革命のダークエルフ 第1章 ギアラドの王

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4-1 ダークエルフ参上

 広場は処刑の見物客でいっぱいだった。

 処刑とりわけ斬首は人気があったが、今日は特に多くの見物客が待っていた。

 今日は、奴隷人種と駆け落ちした上に反乱軍に協力していたという、けた外れに悪い伯爵令嬢の処刑が見られるという話だったからだ。


「罪人ローレイン・サフォードは、反乱軍に協力し帝国に害をなした。よって反逆罪により死刑に処す」


「では、ここに反逆者の処刑を行う」


 簡単に罪状が読み上げられ、死刑の宣言されると、趣味の悪い見物客達から歓声の声があがった。

 死刑を宣告された令嬢は、涙を流すでもなく、命乞(いのちご)いをするでもなく、悔恨(かいこん)の情すら表情に浮かべず、汚れぼろぼろな姿でありながら、高貴さを感じさせる様で毅然としていた。

 華奢(きゃしゃ)な白い腕を乱暴につかまれ、気高い少女はギロチン台へとつれていかれた。

 その姿に興奮し、酔っぱらい達がさらに下卑た歓声と野次(やじ)をとばした。


 ローレインの細い首が板の間に挟まれ、金色の美しい髪が乱れ流れ落ちていった。

 見物人の間からわずかな同情の声と、多くの興奮の声が上がり、今まさに美しい令嬢の首が落とされようとした。

 その時。


「おい! なんだあれは!」


 突然、空に赤いドラゴンが出現した。


「ドラゴンだ!」


 火竜は処刑台近くの警備兵たちに向かって火の玉を降り注いだ。そして、処刑台の上にはいつの間にか二つの頭を持つ巨大な狼があらわれ、処刑人を襲い氷漬けにした。

 同時に、ギロチン台には刃を止めるように深い青色の四角い岩がこっそりと出現していた。

 断頭台の傍に、長い銀色の髪をなびかせ仮面をかぶった人影が降り立った。


 処刑の見物に集まっていた人々の間から叫び声が響いた。


「黒い肌に銀色の髪! あれは、まさか……!」

「ダークエルフだ! ダークエルフの襲撃だ!」

「魔物たちが襲ってくるぞ!」


 ダークエルフと呼ばれた者は、ギロチン台から令嬢を解放した。

 巨大な怪物のような鳥が処刑台へと滑空し、ダークエルフと令嬢をつかむと、上空へと飛翔していった。




 翌日の新聞には、「ダークエルフの襲来!」という見出しがおどっていた。


「おい、イーア。またすげぇニュースになってるぜ!」


 新聞を見ながら、うれしそうにオッペンが言った。

 帝都の王宮前広場での暴動から1年以上がたった。

 あの件をきっかけに、革命主義者に率いられた民衆が帝国領土の各地で蜂起して闘争を始めた。

 帝国では彼らは反乱軍と呼ばれている。

 イーアは今、その反乱軍に協力する「精霊の女王ダークエルフ」として知られている。


 噂によると、ダークエルフは強力な魔物を操る恐ろしい精霊らしい。

 ダークエルフの噂話はアグラシア中の誰もが知るほどに知れ渡っているけれど、その正体はほぼ知られていない。

 イーアは正体がバレないように姿をあらわす時は銀色の髪の毛のウィッグをかぶって仮面やマスクをつけて行動してきた。

 ウィッグは写真で見たミリアとアンドルの母、つまりイーアが生まれる前に死んでしまったおばあちゃんの髪みたいに銀色の長髪のものをたまたま見つけて、いいなと思って使っている。

 だから、噂では「ダークエルフ」は黒褐色の肌に銀色のさらさらの長い髪を持つ、人間離れした異様な風貌だといわれている。

 その素顔は、見るも恐ろしい醜い顔だといわれたり、逆に、人知を超えた美しさで見る者を瞬時に魅了して石にしてしまうといわれたりしている。


 イーアはストレッチをしながらため息をついた。


「ローレインさんを助けられてよかったよ。本当にギリギリだったもん」


 「だいじょうぶだって言ったろ」と、オッペンは何も心配なんてしてなかった風に言った。

 ローレインを助けられたのは、オッペンがローレインの処刑が行われる場所を探しだしてくれたからだ。

 確かにその時からオッペンは絶対に救えると断言していたけれど、実際は間一髪だった。


 イーアはオッペンを見てたずねた。


「ちょうどオッペンが来てくれてよかったけど……。オッペン、こんなところでわたしを助けてていいの? <星読みの塔>の人が知ったら、困ったことになるんじゃ?」


 オッペンは近頃、イーア達の隠れ家、つまり反乱軍勢力の隠れ家にずっと入りびたっている。オッペンは帝国を支える<星読みの塔>の占術士になったはずなのに。

 オッパンは首の後ろをかきながら言った。


「ん-。まぁな。おれってさ、ししょーに言われて、帝国に滅亡をもたらすダークエルフっつーのを探す仕事についてるんだよ」


「それって、わたしのことだよね」


「おう」


 立場としては、オッペンは完全に敵のはずなのだ。

 だけど、オッペンは、ここに来る前は、バララセを放浪して解放軍の手伝いをしたらしい。

 その後で、イーアのところにやってきて、今はイーア達の手伝いをしている。

 オッペンは、帝国に滅亡をもたらすダークエルフを探すという名目で、帝国に滅亡をもたらしそうな人たちを助けているのだ。どう考えても<星読みの塔>の人達が認めるとは思えない。


 ちなみに、バララセ大陸は、ギルフレイ卿アンドル・ラウヴィルが亡くなった後、バララセ解放軍によって南部と東部の大部分が解放された。

 今は解放した土地にバララセの諸民族が新しい国をつくる準備を進めているという。

 オッペンの話によれば、その中にはコサ達もいれば、バララセに帰ったガボーとダモンもいた。


「おれはダークエルフを探せとは言われたけど、見つけたらすぐ報告しろとは言われてねーんだよ。だから、ちゃんと探したんだから、オッケーだろ」


 オッペンがけろっとそう言うと、マーカスがバカにするような調子で言った。


「オッケーなわけないだろ。とんでもない理屈だな。俺がおまえの師匠だったら八つ裂きにしてやるところだ」


「だーれがお前の弟子なんかになるかってんだ。お前なんかよりおれの方がずっと上だぜ。おれはすげぇ占術士なんだからな」


 オッペンはあいかわらずだけど、たしかに、オッペンはすでに一流の占術士だ。

 マーカスはせせら笑うように言った。


「でも、ここにいるのがバレたら、<星読みの塔>を破門になるだろ。そうなったら、オッペンはただの無職さ」


「んなのどうでもいーんだよ。おれの本当の仕事はヒーローなんだからな」


「はぁ? ヒーロー?」


「おうよ。頭がねじだらけのマーカスにゃわかんねーだろーけどよ」


「オッペンの頭こそ、からっぽだろ。ヒーローなんて言ってる時点で明白だ」


 オッペンとマーカスは、グランドールの1年生だった頃と変わらず、いつも悪口を言いあっている。

 だけど、相変わらずだけど、マーカスは、もう人間ではない。


 イーアはアラムを元に戻した後、マーカスも元に戻そうとした。

 けれど、すでに肉体が朽ちてしまった後だったので、マーカスを元の体に戻すことはできなかった。

 だから、行方知れずになったマーカスのお父さんが残した魔動人形に、あらかじめフーシャヘカに聞いていた方法でマーカスの骨を組み込み、魂を移しいれた。

 それで、なんとかマーカスは人形の体で復活した。


 ちなみに、グランドールの地下に戻した支配者の石板は、その時にホスルッド配下のグランドールの先生によって奪われ、今は<白光>のものとなっている。

 いつのまにかグランドールは<白光>のホスルッドのスパイだらけになってしまっていて、イーアはもうずっと学校には行っていない。

 校長先生が送ってくれる教材と課題で勉強はしているけど。


 ストレッチを終えると、イーアはカバンの中身を確認し、マーカスに言った。


「マーカス、わたしはまたしばらく出かけるから、留守番お願い」


「またケイニスに頼まれたのか? ローレインを助けてやったばかりなのに」


 ケイニスは今は革命軍の幹部だ。治癒士のローレインは、ケイニスと一緒にいることが多いけれど、戦争で傷ついた人達や貧しい人達の治療を一人で行っていることも多くて、この前はそういう活動をしている時に捕まって、もう少しで処刑されそうになってしまった。


「今回は、ケイニス君っていうより革命軍からのお願いなんだけど。囚人兵や奴隷兵の人達を解放したいんだって。そうすれば、一気に戦力が増えるから。だけど、囚人兵は爆発する首輪をつけられていて、それを解除しなくちゃ仲間にできないから、その装置を破壊しないといけないんだよ」


 マーカスは首をかしげてたずねた。


「爆破権限をもつ監視部隊をつぶすってことか?」


「ううん。おおもとの、すべてを制御している装置自体を破壊しないと。監視部隊だけ倒してもだめ」


「それって、帝国軍本部にかちこむってことじゃねーのか?」


 オッペンがおどろいたようにたずね、イーアは言った。


「本部とは場所が違うらしいけど。たぶん、軍の基地だよね」


「ひとりで基地をつぶせっていうのか? いくらイーアでも無茶だ」


 マーカスはそう言ったけれど、イーアはそんなに無謀なことだとは思っていなかった。


「ひとりじゃないよ。革命軍と協力して。あと、囚人兵にはギアラド人も多いから、ギアラドの人達とも連携したいんだけど……」


 王宮前広場での騒ぎの後、農村部では農民の反乱、都市部では貧民の暴動が立て続けに起こり、その動きを革命主義者が革命軍へと組織していった。

 そうしてアグラシア全土が揺れ動く中、かつて帝国やその前身のノルマート王国に征服された民族の独立運動が激しくなった。

 そのひとつが、ギアラド独立運動だった。


 ノルマート王国に征服されてから、長い間、帝国で冷遇され搾取(さくしゅ)と貧困に苦しみ続け、ここ数十年はさらに激しい弾圧にあってきたギアラド人達にとって、立ち上がらない理由はなかった。

 だけど彼らは「ギアラドの王」と呼ばれる人物を待っていた。

 「ギアラドの王」とは、ギアラド王家の末裔で、これまでもずっと影ながらギアラド人を助け続けてきたという、正体不明の、伝説のような存在だ。

 「ギアラドの王」が一斉蜂起の号令をかけさえすれば、すべてのギアラド人が立ちあがり、帝国は終焉へとまた一歩近づくはずだ。と、ジャルバンやケイニスは言っていた。


 その「ギアラドの王」の正体に、イーアは心当たりがあった。

 だからイーアはまず、ウェルグァンダルの塔にむかった。


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