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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第3部 3章 革命の狼煙

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3-34 ケイニスの行方

 王宮門を破壊した後、ケイニスはすぐに立ち去ろうとした。

 だが、撤退を開始するよりも、王宮警備隊の反撃の方が早かった。

 屋根から降りようとしていたケイニスを、巨大な火球が襲った。

 ケイニスは全身を燃やされ、屋根から落ち、地表にたたきつけられた。

 地面を転がり火を消したが、その時には覆面もコートも焼け落ちてなくなった。


 全身が痛い。

 喉が痛くて息すらまともにできなかったが、ケイニスはもがくように走って逃げた。



 王宮前広場での騒乱に便乗して、帝都中で暴動が起こっていた。

 ジャルバン達は民衆一斉蜂起を目指して色んな人間に声をかけていたが、それが予想以上の混乱を引きおこしていた。

 帝都のあちこちで火の手が上がり、商店のウィンドウや出入り口が叩き壊されていた。


 ケイニスは負傷した体をひきずり、荒廃した帝都を歩いていった。

 全身を襲う苦痛と疲労で、王宮門を破壊した時に感じた革命への期待と高揚感はすっかり消えていた。

 用意していた回復薬は使い切ったが、ケガは重く、歩くのがやっとだった。

 ケイニスは治癒魔法はほとんど使えなかった。いくつかの魔術同様、治癒魔法は素質がものをいうため、どんなに優秀な魔導士であっても使えないものは使えない。


 いたるところで暴徒が商品を略奪していた。

 ここで暴れているのは、ジャルバンが語った理想なんて理解はしない、ただの火事場泥棒だ。

 それとも、これも、奪われた富をとりかえす戦いの一部なのだろうか?

 そうは思えない。

 貴族御用達の高級店だけでなく、庶民のささやかな小さな店までが騒乱に便乗した強盗に押し入られていた。


 略奪した商品を手にした大柄な男達が、すれ違うケイニスを野良犬を見るような目で見て「ケッ、奴隷人種が」とつばを吐いた。

 「黄色の魔導士様、ありがとうございます!」と叫ぶ同じ民衆が、その正体であるケイニスを見て、奴隷人種とバカにする。

 これが現実だ。


 ケイニスは歩みを止めた。

 これ以上、足が前にでなかった。

 ケイニスは壁にもたれかかり、空を見上げ、心の中でつぶやいた。


(つかれた……)


 妹が死んだあと、ケイニスは怒りにつき動かされて戦ってきた。

 だが、革命が成功したところで、自分は何を得るのだろう。

 王がいなくなり貴族がいなくなっても、奴隷人種は奴隷人種だ。

 どうせ人々が自分を見る目はかわらない。


 それでもいいと思って、ケイニスはジャルバンに協力してきた。

 他の革命主義者はともかく、ジャルバンはバララセ人をふくめて「すべての人間に同じ権利を」と主張していた。

 だから、顔を隠し、皮膚を隠し、ケイニスは戦ってきた。

 だが、疲れた。


(もういい。どうとでもなれ)


 このままここにいよう。警官に逮捕されるまで。

 そして自分の人生は終わる。


 何十回何百回と、言われてきた。

 「お前のような者が魔導士になれるはずがない」「奴隷人種のくせに」「身の程を知れ」

 そう言われ続けても、ケイニスは勉強をつづけた。

 一日の労働が終わった後で、拾ってきた教科書を短いろうそくの炎で照らして学び続けた。

 魔術を勉強するということは、ケイニスにとっては闘争だった。


 ずっと強い志で闘ってきた。

 今に見てろ。俺が証明してやる。

 お前たちが「奴隷人種」と呼ぶ者は、決してアグラシア人に劣らない。

 魔導士にだって何にだってなれる。

 そう思って必死に生きてきた。


 だが、もう疲れた。


 ケイニスは壁にもたれたまま、目をつぶりかけた。

 その時、眼前に人影があらわれた。

 荒廃した帝都に場違いな上質の布でできたスカートが、ケイニスの目の前に広がっていた。

 隠しようのない育ちの良さをたたえる色白な顔がケイニスを見ていた。


「ローレイン? なぜ、こんなところに?」


 ローレインはケイニスに治癒魔法をかけ、告げた。


「ケイニス。私はあなたとともに生きます」


 互いにそう望んできたことを知っていても、ケイニスは耳を疑い、吐き捨てるように言った。


「何を言ってるんだ? 何をバカなことを」


 ローレインは落ち着き払った声で言った。


「私は知っております。あなたが今日何をしていたのか、あなたが何者なのか。それでも、私はあなたとともに生きます」


 ケイニスは激しく強い調子で言った。


「わかっていない。わかっていない! 貴族のおまえは、何も、まったく、俺達が生きている世界のことを、わかっていない! 泥水をすすって生きる生活を。見下され、唾を吐かれ、追い払われ続ける惨めな毎日を。はては監獄と絞首台が待っているだけの悲惨な人生を。その恵まれた生活を捨てる愚かさを。後悔してからじゃ、もう戻れないんだ。早くグランドールへ帰れ」


 ローレインは微笑んだ。


「それでもよいのです。あなたと一緒なら。惨めに悲惨に生きましょう。心底後悔いたしましょう。私は救いようがないほど愚かな女なのです。さぁ、おわかりになったら、その涙をとめてください」


 いつの間にかケイニスの頬を流れていた涙をローレインの細い指がぬぐいとった。


「早く逃げなくてはなりません。けれど、私はどこに行けばよいのかわかりません。ですから、さぁ、ケイニス。早く教えなさい」


 ケイニスは立ち上がり、ローレインの汚れも労働も知らない柔らかな手をとった。


「ついてこい。覚悟ができているなら。俺が本当の世界を見せてやる」


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