3-33 トムスの最期
幌馬車の中で、水晶に映し出される映像を見ながら、トムスは叫んだ。
「死んだ? なぜかはわからないが、ギルフレイ卿が死んだぞ! やったぞ。マーカス! 仇はとったぞ!」
「おめでとう。トムス」
突然、背後から聞こえた静かな声にトムスが振り返ると、そこには白装束の魔導士がひとり優雅に座っていた。
「<白光>? なぜ? そうか、ギルフレイ卿は<白光>……マーカスは<白光>に殺されたのか……」
ほんの一瞬の間これで復讐が終わったと信じていたトムスを失望と無力感が襲った。
<白光>の魔導士は穏やかな口調で言った。
「マーカス君は本当に可哀そうだった。あなたの気持ちはわかるから、アンドルの死までは待ってあげたけれど。さすがに、これ以上は待てないからね」
「なぜ今? なぜ今頃?」
マーカスが何かにまきこまれて<白光>に殺され、口封じのためにその父も殺すというのなら、とっくにトムスは<白光>から襲撃を受けていたはずだ。
なのに、なぜ今ごろになって、<白光>が自分の前に現れたのか?
白装束の魔導士はやさし気な口調で答えた。
「それは、まったくこちらの事情でね。あの子はまだ遊んだオモチャの片づけ方を知らないから。誰かが片づけてあげないといけなくてね。まぁ、あなたにとっても、テロリストとして警察に拷問されてから死ぬよりこの方が幸せだろう。では、ごきげんよう」
優雅な身振りで別れをつげ、白装束の魔導士が姿を消した。
その瞬間、幌馬車は激しく渦巻く風の球に包まれ、そして、中にいたトムスごと跡形もなく破壊されつくした。
あとに残ったのは、路上で風に吹かれる粉塵だけだった。




