3-29 王宮警備隊長2
王宮前広場に群衆がなだれこんできた時、王宮警備隊隊長ボーバンドは忌々しさを感じはしたが、まだ危機感はなかった。
革命主義者は魔術を学んだことのない貧民。帝都では裏で流通している武器も少ない。
最近は黄色の魔導士などと呼ばれるテロリストもいるらしいが、革命主義者に踊らされた民衆なんてものは、ボーバンドにとっては地を這う虫も同然。
王宮警備隊の前では無力な存在のはずだった。
だが、異変が起こり始めた。
広場の上空にいた魔導士が突然一人、二人と吹き飛ばされていった。
王宮の門のところに外部からの攻撃を遮る結界が張られているため、門の内側までは届かないが、門外の魔導士を襲った空に立ち昇る水柱は、ボーバンドの目にもはっきりと見えた。
「隊長! 革命主義者が魔法攻撃で反撃してきます!」
わかりきった報告を聞いてボーバンドは部下に怒鳴り返した。
「敵の魔導士をとっとと叩き潰せ。革命主義者が盗み覚えた初級魔法なんぞ、我らの相手にならんだろう!」
だが、部下は瞬時に叫び返した。
「あれは初級魔法なんかではありません! 一流の水魔法、いや、魔法の名はわかりませんが、超一流の威力です!」
たしかにそうだった。そうでなければ、警備隊の魔導士があんなに簡単にやられるはずがない。
だが、そんなはずはなかった。
「超一流の魔導士が革命主義者の中にいるはずがないだろう!」
いるはずがないのだ。革命主義者に協力する一流魔導士なんて。
「ですが……」
「魔法のでどころはわかるだろう? その頭のいかれた魔導士に集中攻撃を加えてとっとと倒せ!」
「はい!」
すぐに、別の報告がきた。
「隊長! 門の前で魔物が暴れています。テロリストどもが魔物を放ったようです」
ボーバンドは額に青筋をたて即座に怒鳴った。
「魔物なんてとっとと倒せ!」
「それが、あの魔物は攻撃すると破裂して、周囲の兵士がみんな気絶してしまうんです!」
部下たちの無能さにイラつきながら、ボーバンドはたずねた。
「魔物の種類は?」
「巨大なプープクみたいに見えますが……」
「ドアホが! プープクなんて6歳児でも扱える無害な精霊だろうが!」
「魔物の種類はわかりませんが、このままでは門前の衛兵は全滅です!」
冗談かと思ったが、部下は真剣な顔だった。
(いったいどういうことだ? 革命主義者どもは、どうやってそんな魔物を連れてきた? いや、そもそも、さっきの水魔法の使い手は何者だ? 敵はただの革命主義者ではないのか?)
ボーバンドは内心混乱しながら、舌打ちして命令をくだした。
「これだから、平民部隊は。門前の兵士を撤退させ、魔導士部隊に上空から全力で攻撃をさせろ。魔物もテロリストどもも、全員焼き尽くせ!」
そんな魔法攻撃を加えれば、王宮前広場にいる大勢の人々の大半が死傷するだろう。
だが、ボーバンドは気にしなかった。
ボーバンドは平民なんていくら死んだってかまわないと本気で思っていた。
広場にいる人々の一人一人が自分と同じだけの命の価値をもつとは想像もしなかった。
その時、突然、ボーバンドの視界いっぱいに激しく強烈な光が満ちた。




