3-25 復讐の狂気
帝都の一角にとまった幌馬車。
厚い布で覆われた馬車の中には、マーカスそっくりな顔の人形がぎゅうぎゅうに詰めこまれていた。
すべての人形が高火力の爆弾でもあった。
馬車の中には人形の遠隔操作に使う魔導装置も設置してある。
すでに一体の人形が町の中を歩いており、その人形が見た光景が水晶に映し出されていた。
水晶を見ていたマーカスの父トムスがぎらついた目で興奮した様子で馬車の後部にいたユウリに言った。
「ターゲットを見つけたぞ。王宮前広場にいる」
ユウリは半信半疑で尋ね返した。
「王宮前広場にギルフレイ卿が?」
「いや、やつの息子アラムだ」
「息子? 子どもは無関係……」
ユウリの言葉をかきけすように、トムスはつかみかかりそうな勢いで早口に言った。
「無関係? 無関係なものか! 私の子を殺した、ギルフレイ卿の子だぞ! 目には目を、歯には歯を。奴から息子を奪ってやる」
トムスの勢いに気おされながら、ユウリは反論しようとした。
「罪があるのはギルフレイ卿であって、その子どもじゃ……」
「罪? そんなものはどうでもいい。いいか、ギルフレイ卿をただ殺しても復讐になんてならないのだ。君にはまだわからないだろうがな。我が子を殺される苦痛は、自分が死ぬよりずっと辛いんだ。私はマーカスの代わりに自分が死にたかった。毎晩毎晩そう思い続けてきた。この苦しみを奴にも味わわせて、はじめて復讐になるのだ!」
震えながらそう叫ぶトムスは、理屈ではない狂気のような激情に駆られていた。
そして、トムスが語るその苦痛を、ユウリは知っていた。
イーアをなくした苦痛。あまりに大きすぎて言葉で表現できない苦痛。
イーアの代わりに自分が死んでいれば、どれだけ楽だったろう。
たしかに何度もそう思った。
自分が代わりに死にたかったと。
思い出しただけで心を打ちのめす喪失感に襲われ、ユウリはトムスに反対できなくなった。
それに、冷徹に考えてもいた。
アラムを襲えば、ギルフレイ卿をおびき出せるだろう。
隙をついて1対1であれば自分の命を犠牲にギルフレイ卿を殺せるかもしれない。
「……わかりました。とめはしません」
ユウリはすでに決意していた。
イーアの仇をうつためなら、なんでもする。
善良な心を犠牲にしても。
どんな罪を背負っても。




