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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
2章 召喚士の誕生 ~封印された記憶~

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15 お迎えの馬車

 土曜日の朝。

 イーアは朝早くに起きちゃったので、とりあえず食堂に行った。

 だけど、食堂はまだ閉まっていた。

 しかたがないので、イーアは小鳥のさえずりが響くグランドールの敷地内を散歩することにした。


 帝都の近くに家がある生徒の中には、すでに金曜日の夕方にグランドールを離れた人も多かった。だから、今朝はグランドールの中はとても静かだ。

 グランドールの敷地はとても広い。古いお城みたいな校舎の他に、いくつか建物が点在していて、敷地の中には薬草園もあれば小さな森もある。


 ふらふら歩いているうちに、イーアは貴族生徒の寮の近くにあるきれいなバラ園についた。イーアはバラ園の中を散歩した。

 早朝のバラ園には朝露をまとったバラがちらほらと咲いていて、イーアが歩いていると、小鳥の声の合間にその香りが漂ってきた。


「きれいでいい匂い……」


 幸せな気分でバラ園の中を歩いていると、イーアは不意に呼び止められた。


「そこのあなた」


 イーアが振り返ると、くるくるたて巻きブロンドの、いかにも貴族のお嬢様な少女が、バラ園の中の噴水のそばに立っていた。

 貴族クラスの少女はイーアの方に近づいてきた。


「ごきげんよう。あなた、平民クラスのかたよね?」


「うん、そうだよ」


 (この人どこかで見たことがあるなー)と思いながらイーアが答えると、貴族令嬢風の少女はたずねた。


「ちょっとお聞きしたいのだけど。あなたのクラスに、ケ、ケ、ケイニスという男子生徒はいるかしら?」


「うん、いるよ」


 そう答えながら、イーアは思い出した。


(この人は、たしか、ケイニス君の知り合いのローレインお嬢様だ!)


 ローレインはなぜか挙動不審で、そっぽを向きながらイーアにたずねた。


「そ、その、ケ、ケ、ケイニスは、ど、どうしているかしら?」


「ケイニス君は超優等生だよ。いつ見ても勉強しているよ」


「そ、そう。同じ学校だけど、平民クラスの方々とは会う機会がないから、どうしてるのかしらと、ちょっと気になっただけですの。お気になさらずに。では、ごきげんよう」


 ローレインは早口にそう言って、足早に去って行った。

 イーアはその後ろ姿を見送りながら思った。


(ローレインさんって、ケイニス君と仲良くなりたいのかな)


 ケイニスは貴族を嫌っているけど。


 イーアはその後またしばらく散歩を続けてから食堂に向かった。

 食堂の前で、イーアはちょうど食堂から出てくるアイシャと会った。


「おはよぉ。イーア」


「おはよー。アイシャは今日、なにするの?」


 イーアがたずねると、アイシャはのんびりした声で言った。


「今日はねぇー。お家に帰って、それから、キャシーといっしょにお買い物にいくんだぁー」


「楽しそう!」


「イーアも来るぅー?」


「行きたいけど……。今日は行かなきゃいけないとこがあるんだよね」


 イーアはウェルグァンダルに手紙を書いたことを後悔した。ウェルグァンダルに行くより、アイシャ達とお出かけした方が楽しそうだった。


「じゃあ、また今度ねぇー」


「うん」


 アイシャはのんびり手を振って去って行った。

 (アイシャ達とお買い物に行きたかったなー。お金はないけど)と思いながら、イーアは食堂に入った。


 さて、朝食後。

 みんなは早速グランドールを出発していった。

 ユウリも今朝、ホーヘンハインに行く。だからイーアはユウリを見送りに、いっしょに学校前の大通りに向かった。


 学校の前には馬車がとまる場所があって、そこに今日は朝から生徒達を迎えにきた馬車が次々にとまっていた。

 イーアがその停車場に近づくと、ちょうどアイシャとキャシーが馬車に乗りこむところだった。

 二人が乗りこむ馬車は豪華な装飾がほどこされた華麗な馬車だった。


「うわー。アイシャの馬車ってすごく立派! 貴族の馬車みたいだね!」


 イーアが大声でそう言うと、馬車の中からキャシーが顔を出して言った。


「貴族じゃないけど、アイシャの家は大金持ちなの。じゃあね、イーア。また月曜!」


 キャシーはイーアに手を振った。


「うん。またね!」


 イーアはキャシーとアイシャに手を振って見送った。

 アイシャ達を見送った後、イーアはユウリに言った。


「すごい馬車だったねー」


「商人の中には貴族よりお金のある人もいるらしいからね」


「へー」


「それより、イーア。ウェルグァンダルに行く方法は見つかった?」


「あ、忘れてた」


 イーアがそう答えると、ユウリは心配そうな表情になった。


「ぼくもいっしょに探そうか?」


「大丈夫だよ。また手紙で聞けばいいもん」


 今から手紙でたずねたら、今日行くのには間に合わないかもしれないけど。イーアはそれほどウェルグァンダルに行きたいわけではなかったから、別にそれでオッケーだった。

 ユウリはうなずいた。


「そっか。それじゃ、ぼくはもう行くよ」


 ふと気が付くと、イーア達の隣に青い馬車が停まっていた。

 青空のような色の美しい車だ。

 でも、馬車のような形をしているけど、馬も御者もいない。


「これ、ユウリの乗る馬車?」


「うん。ホーヘンハインからのお迎えだ。じゃあね、イーア」


「うん。またね」


 ユウリが乗りこみ、青い車の扉が閉まった。

 すると、青い馬車は空中に上がり、そのまま青空に溶けこむように消えてしまった。


「えー!? なにあれ!」


 でも、もう誰もイーアのびっくりに反応してくれる人はいなかった。

 周囲にはもうイーアが知っている人は誰もいない。


(さーてと。部屋に戻ってウェルグァンダルへ手紙でも書こうかな)


 イーアがそう思って学校に戻ろうとした時。

 通りを黒い不気味な馬車が走ってきた。

 2頭の黒い亡霊のような馬が車をひき、黒い影のような御者が御者席にすわっている。


(なにあれ。こわっ!)


 イーアがあわてて逃げ帰ろうと思った時。

 黒い馬車は、イーアの隣で停まった。


(ええ……? なんで近くにとまるの……?)


 真っ黒な影のような御者がとぎとぎれの声で言った。


「イーア……むかえに、きた」


(どこから!?)


 まるで地獄から迎えに来たような雰囲気だ。

 乗ったら死者の国まで連れていかれそうだ。


「あのー。どこへ行く馬車ですか?」


 でも、黒い影のような御者は、「イーア。むかえに、きた」ともう一度言っただけだった。

 どうやら、この御者はこれ以外話せないようだ。


(えーい! 乗ってやれ!)


 イーアはやけになって黒い不気味な馬車に乗りこんだ。

 イーアが乗りこむと、馬車はスーッと走り出した。たぶん。

 音も振動もない。

 普通の馬車みたいにゴトゴト揺れたりしない。


(動いてるような気がするけど、気のせいかな?)


 イーアは、馬車の窓にかかっている黒い分厚いカーテンを開けて外を見た。

 すると、そこには、見たことのない暗い荒野がひろがっていた。


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